若いからと油断できない。
「おい、
「はい、先輩、今日はどこに?」
「どこにっていつもの定食屋だ」
「えー!たまには違う店にしましょうよ。ファミレスとか」
「そうゆうところは一人で行け。俺と行くのは定食屋だ!」
「はーい」俺は従うしかなかった。池田先輩は俺が就職してから教育係としてずっと親身に世話をしてくれたから。定食屋で席に着くと
「いらっしゃいませ、ご注文は?」
「生姜焼き定食」
「生姜焼き定食と鶏のから揚げ、ご飯大盛り」
「承りました」定員は水を置くと厨房に注文を叫んだ。
「おい、お前、又そんなに食うのか?」
「何言ってるんですか!これでも足りませんよ」
「相変わらずの大食漢だな」先輩はあきれたような顔をした。
「お待たせしました」店員が料理を持ってきた。
「いただきます」昼休みは短い二人は無言で食べ始めた。
「あーおいしかった」俺はすぐ食べ終わった。
「おい、もう食べ終わったのか、もう少しよく噛んで食べろ」
「そんな言ったってこれじゃ足りないですって」
「お前もう30過ぎたんだろう。体の為にも早食いと大食いはやめた方がいいぞ」
「大丈夫ですよ、健診で何も異常ありませんから」
食べ終わった俺たちは代金を払うと店を後にした。
先輩に指摘された通り、俺は大食いの早食い。2人前ぐらいぺろりと平らげる。好きなのは脂っこいもの、麺類、ファーストフードなど。俺の食生活を心配した先輩が昼休みに定食屋に誘うようになったという訳。
俺は自炊しないから、食事は外食か弁当や総菜。休みの日にはデリバリーで、ピザを食べたりしている。酒は飲まないけれど、寝る前にポテトチップスの大袋とコーラをがぷ飲みしながら映画を見るのが究極の楽しみ。会社でも時間があるとペットポトル飲料をよく飲む。そんな生活だから小太りなのは自覚している。でも食べることが好きな俺は全く気にしていなかった。
夏の暑い日、やけにのどが渇く。熱中症なのかとスポーツ飲料をがぶ飲みしたが飲んでも又すぐ喉が渇く。おかしいと思いながら俺は出勤した。
「おはようございます」
「おはよう、おい、飯盛具合が悪いのか?」
「昨日からやたらとのどが渇くんですよ、飲んでも飲んでも収まらない」
「それにお前足腫れてないか?むくんでいるというか?」
「そうなんですよ、ズボンがきつくて」
「一度病院に行った方がよくないか?」
「大丈夫ですよ、すぐ治りますって」と言った俺は頭がくらくらしてきたことに気が付いた。気が付いたがどうできるものではない。膝をついた俺はそのまま倒れこんでしまった。
「飯盛しっかりしろ、誰か救急車!」薄れていく意識の中で先輩の声がぼんやりと聞こえていた。
「ここは・・・・」俺はうっすらと目開けた。体が動かない。機器の音がする。
「病院なのか?俺はどうしたんだ?」俺の意識が戻ったことに気が付いた看護士が近づいてきた。
「飯盛さん、あなたは低血糖で倒れ救急搬送されたんです。しばらく入院してもらいます。糖尿病、腎不全などを起こしかけていて危険な状態です」
「糖尿病?腎不全?」
「ええ、まだ初期段階なので治療は可能です。命にかかわりますから、死にたくなかったら指示に従ってください」
治療しないと死ぬ!俺はその言葉が信じられなかった。
数時間後担当医がやってきた。
「担当医の
糖尿病、透析、切断。俺は主治医の言葉が信じられなかった。
「そして倒れた理由ですが、血糖値スパイクが原因です」
「血糖値スパイク?」
「ええ、清涼飲料水などの砂糖を多く含んだ飲み物の多飲や、早食いなどをすると急速に血糖値が上がります。でも膵臓のインシュリンの反応が遅いので、血糖値が下がり始めたのにまだ分泌が続いている状態になり、血糖値が下がりすぎて空腹を覚え又清涼飲料水などを飲む。するとまた血糖値が急速に上がる。悪循環です。血糖値の数値のグラフが棘のように見えるのでこれを血糖値スパイクと呼んでいます。飯盛さんは低血糖を起こし倒れたんです。
入院して治療を受けてください。それと、食生活などの見直しの指導も致します。死にたくなかったらしっかり勉強して下さいね。でわ」そう言うと主治医は病室を出て行った。
本当にこのままでは死ぬことになる。俺は生活を変えなくてはいけないのだと思った。
起きれるようになるのに数日かかった。むくみを取る治療が行われ、少しづつ食べることを許された。前なら絶対足らない食事量。それをゆっくりとよく噛んで食べる。あまり量が食べられなくなっていたからそれほど辛くはなかった。後飲むのはお茶か、水。そして生活指導が行われた。
とにかく死にたくない一心で、俺は勉強し、指導にも素直に従った。
闘病生活は苦しいこともあったが、頑張ったかいあって俺は1ヶ月ほどで退院することが出来た。まだ予断を許さない状況なので、週に1回の通院と、1冊のノートが渡され、それに食べた物の明細と量。そしてその日の体調を記入し通院日に提出することになった。
俺は仕事に復帰。入院の為迷惑をかけた人たちにお詫びをしてまわり、池田先輩をお昼に誘った。
「飯盛、それだけでいいのか?」俺は普通の生姜焼き定食を頼んでいた
「はい、これでも多いくらいです。倒れた時救急車を呼んでくださったそうで本当にありがとうございました。ここは俺が払いますから」
「びっくりしたがな、体の方はもういいのか?」
「まだ通院が必要です。食生活や生活習慣を見直して、悪化しないようにしないと。透析するようになったら半数が数年しか生きられないそうで、まだ若いですし死にたくないですものね。俺自炊も始めたんですよ。もう以前の生活はこりごりです」
「それはよかった。ずいぶん体も引き締まったようだな。休んで迷惑かけた分しっかり働けよ」
「はい、そのつもりです」
俺はゆっくりと昼ご飯を食べた。思えば以前定食屋で先輩に言われたことを早く実践しておけばよかった。
通院、投薬は必要だが、どうにか普通に生活できている。それがありがたかった。
人というのは痛い目に合わないと変わらないものだとつくづく思う。
自分の体を守れるのは自分しかいない。それに気づかせてくれたことに感謝しながら日々暮らしている。
※ 血糖値スパイク 食後に血糖値が急上昇急降下する現象。液体の糖質は吸収しやすく、消費も早い。血糖値が下がり始めたのに、インシュリンの分泌が続いていると、血糖値が下がりすぎ低血糖を起こす。
スポーツ飲料の飲みすぎで中学生が昏倒したり(ペットポトル症候群)、若い人の間にも危険が広がっているのが現状です。
※ 熱中症の予防に水分補給は大切ですが、普段はお茶や水、麦茶など、糖質を含まないものを飲みましょう。
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