まさか!私が!!
私の名前は
主人を数年前に亡くし、今は一人暮らし。息子は県外在住で孫息子と孫娘が、娘は同じ市内に嫁いでいて、孫娘二人がいる。息子は年に数回、娘は月一回ぐらい会いに来てくれる。今はテレビ電話って便利なものがあるしね。
私は身の回りは一通り出来るし、庭仕事したり、ご近所さんとおしゃべりしたり結構楽しく暮らしていた。
でも歳には勝てないわね。体の不調が出てきたから、週2回はバスに乗って病院に通う。杖もついていないし、足取りもしっかりしていたのよ。病院帰りには買い物したり、喫茶店でお茶したりもするしね。
その日、私は通院に出かけ、少したくさんの荷物を持って帰ってきた。バス停から家までの道すがら、よそ見をしていて段差に
「痛!!」と思い、立ち上がったが左足首に痛みがある。「ひねった?帰ったらシップしなくては」少し休むと歩けるようになったので、ゆっくりと家に帰り買った物を片付けて、左足首にシップをした。
湿布をしたら痛みが引いてきたのでその日はいつも通り過ごし、就寝した。
翌朝、目が覚めて起き上がろうとしたが、昨日左足首を痛めていたことを忘れていて左足で立ち上がろうとした途端激痛が走り、立ち上がれずそのまましりもちをついてしまった。足首だけでなく、腰にも痛みが走る。全く動けなくなった私は、枕元に置いていたスマホをどうにか手に取ると、娘に電話を掛けた。
『もしもし、お母さん?こんな早くにどうしたの』
「
『え、それは大変、救急車を向かわせるから、私も今から行く』
「お願いね」私はそう言うと電話を切った。体は全く動かせない。パジャマのままだというのに、人に見られるのは恥ずかしいなとそんなのんきなことを考えていた。
暫くすると救急車のサイレンが聞こえてきた。それからのことはよく覚えていない。多くの人が家に入ってきて、タンカに乗せられ救急車で病院に運ばれたこと。娘が救急隊員と話していたこと。病院に着いてストレチャーに乗せられいろいろな検査を受けたこと。すべてが夢の中で起きたようにぼんやりとしていた。
はっきりと意識が戻ったとき、私の周りは白い壁で囲まれ私はベッドに横たわり体にいろいろな管がついていた。体は動かせそうにない。首を回すと娘がいるのに気が付いた。
「瞳」私は呼び掛けた。
「お母さん、よかった。意識が戻ったのね」
「私どうなったの?」
「ここは救急病院。お母さん、体のあちこちを骨折してるの。あ、動いたら駄目よ絶対安静って言われているから。看護師さん呼ぶね」そういうと娘はコールのボタンを押した。しばらくすると看護師がやってきた。
「池山さん意識が戻りましたか。あなたの体の状況ですが、左足首、右大腿骨、左手首などに骨折やひびが入っています。腰も痛めていますから体を動かすのはかなり厳しいでしょう。今は痛み止めを点滴しているのであまり痛まないと思いますが」
「はい、痛みは感じないです。でも体を動かせません」
「そうでしょうね、それと左足首は昨日痛めていたのではないですか?」
「はい、転びまして、あまり痛みが無かったのでシップはしていたのですが」
「その時に病院に行くべきでしたね。おそらく骨にひびが入っていたと思います。それが今日の転倒の時に折れてしまったんでしょうね。高齢になると骨の治りが遅くなります。これから主治医と理学療法士との間でリハビリの話し合いをすることになっていますが、かなり難しい状況だということを理解していてください」そう言うと看護師は戻っていった。
「お母さん、入院に必要なものや手続きは済ませておいたから、家のことが心配だから今日はこれで帰るね、また明日来るから」
「ああ、ありがとう」私はそう言って娘を見送った。
昨日転倒するまで自由に動かせていた体が全く動かせない。高齢者が転倒したことで車いす生活になったり、寝たきりになる話は聞いたことはあるがまさか自分がそうなろうとは。体を起こすことも座ることも出来ない。リハビリすれば動けるようになるのか?でも私の年齢では元通りとはいかないだろう。そんなことをつらつら考えているうちにいつの間にか眠ってしまった。
翌日午前中に主治医がやってきた。体の状況説明は看護師と大して変わらない。だが、
「池山さん、これからどうしたいですか?どこまで動けるようになりたいですか?何もしなければ寝たきりになります。体のあちこちを骨折したり痛めているので、リハビリは相当大変です。今後の生活においてあなたがどれくらいまで自分でやりたいか決めてください。後で理学療法士が来ます」そう言うと病室を出て行った。看護士が、「福祉の方とも話をしなくてはね、そちらも専門の係を後で向かわせますから」そう言うと看護師も出て行った。
どこまで自分でやれるようになりたいかって・・・。歩ける、ご飯が食べれる。トイレに行ける。家事をやったり、外出をする。そんな当たり前のことが自分の不注意で一人では出来なくなったことに気が付いた。
そして、もう一人では生活出来ないこと。福祉の力を借りなくてはいけない段階なのだと悟った。もしかしたら退院後、施設に入ることも検討しないといけないのかもしれない。子供達には家庭がある。時々ならいいが日常的に頼るわけにはいかないだろうし、負担を掛けたくない。
不注意で躓いて転んだだけで、私の生活は一変してしまった。あとどれくらい生きれるのだろう。残された時間をどう過ごすかは私が決めなくてはならない。
残りの人生をどう生きるか、考えていなかった問題に真摯に向き合わなくてはならなくなった。体は動かないが、頭は動く。いろいろな人と相談しながら道を探そう。
そう、道は一つではないはずだから。
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