失言

私は松田ちさ子50代の主婦。旦那と子供は息子が二人。次男は早く結婚したんだけど、長男が遅くてやっと近頃結婚してやれやれと言ったところ。


ところが次男の嫁は大学も出ていて美人なのに、長男の嫁と来たら高卒でぱっとしない容姿。結婚に反対したんだけど「俺の仕事にあやが必要なの」と押し切られた。長男は税理士をしている。修行の為勤めていた税理士事務所で知り合ったらしい。

まあいずれ独立したいと言っていたしそれはいいんだけど嫁の綾は嫌い。


長男は結婚したら同居してくれると思っていたけどそれも断られたし、何より私より綾の事を優先するのが気に入らない。どうにかして別れさせられないかとそんなことを考えていた。


数年後、長男に男の子が生まれた。里帰り出産だったから孫に会えたのは生まれたからかなりたってから。写真は見ていたけど嫁に似てあまり可愛いとも思えなかった。

孫を連れて会いに来た長男と綾に「正博まさひろ全然お父さんに似てないのね、綾さんにそっくり。本当にひろしの子なの?」とカマかけてみた。

「そんなことないだろう!酷いこと言うな!」と博は怒ったが、綾は何も言わず唇を噛んでいた。それが自分の罪を認めたみたいに私には思えた。


それからも時々会うたびに、正博の事で綾を責めた。何も言わず唇をかむだけの綾に他にもいろいろ暴言を吐くようになった。


ある年の正月、次男の家族も集まっておせちを食べていたのだが、私はいつもの調子でみんなの前で正博が博に似ていないという話をし始めた。

「だってさ、綾さん何も弁解しないんだもの。これって認めているってことでしょう?ね、綾さん」

「お義母さん、そこまで言うんでしたら、DNA鑑定しましょうか?でも、正博が博さんと私の息子という事が証明されたら、土下座して謝ってもらいますからね。いいですか!」

「ええ、いいわよ」私は綾を追い出せると思い承知した。


それから数カ月後、結果が出たというので次男も呼んで報告会が開かれた。

「結果から言いますと血縁関係は認められませんでした」

「ほれ見たことですか、あなたたちは離婚してもらいますからね」私は勝ち誇った。

「いえ、血縁関係が認められなかったのは私達ではなく、博さんとお義父様です」

「え!?」

「初めてお会いした頃から変だと思っていたんですよ博さんと博司ひろつぐさんが似ていないことが。特に博さんはお義母様にそっくりで、お義父様には似ていないし。それに執拗に正博が不貞の子みたいにお義母様がおっしゃる。人って自分がしていると他の人もしていると思うんですよね。それで、今回博さん、私、正博の血縁関係と伴に、博さんとお義父様の血縁関係も調べたんです。博さんとお義父様には血縁関係は認められませんでした。もちろん、私たち3人は親子と認められましたけど、これってどうゆう事なんでしょうね?」

私は真っ青になった。

「私たち3人が血縁者と認められたんですから、約束ですよ、土下座して謝ってください。お義母」

「なんだと、嫁の分際で!」私は綾につかみかかろうとした。すると両ほほに痛みが生じて私は床に座り込んでしまった。主人が鬼の形相で私を見下ろしていた。

「いい加減にしないか!綾さんその鑑定結果見せてくれ」義父は綾から渡された書類を一通り読んだ、そして

「ちさ子これはどうゆう事だ、お前浮気していたのか?博の本当の父親は誰なんだ!」

「え、それは、間違いで・・・」

「間違いだと!この場に及んでまだ言い訳するのか!お前に身に覚えがあったから綾さんを見当違いの目論見でいじめていたんだな。人として最低だ!」

「母さん、俺は?俺は母さんと父さんの子なの?」と博司。

「ま、博が居たんだし、それは間違いないと思うがな。不安ならお前も鑑定してもらうか?」

「そうした方がいいよね。それにしてもショックだな、母さんが不貞をしていたなんて」

「ショックは俺もさ、父さんと血がつながってない以上後継ぎはお前だよ。母さんも解っていて『ひろつぐ』って名前にしたのかもな。まあ、お前とは片親でも繋がっているから兄弟であることには変わりないがな。今日の所は帰らせてもらうよ」

「ああ、わかった。今まで通り付き合ってくれよ。俺にとってはたった一人の兄なんだからな」

そう言葉を交わすと博達は帰って行った。


残された私は、床に座り込んだまま顔を上げることも出来なかった。そう、博は不貞の子。一時いっときの過ちで身ごもってしまい、真実を告げるのが怖くなりそのまま主人の子として産み育てた。だが真実が露見してしまった今、私は主人から何を言われるのかと怯えていた。


「ちさ子、こうゆう鑑定結果が出たのだから、俺はお前を信用できない。お前は30年以上も俺と息子たちをだまし続けていたんだからな。博司もDNA鑑定を行う、その結果次第だが離婚しよう」

「離婚は勘弁して、だましていたことは謝ります。あなたのお金が無かったら私は生きていけない、どうか許してください」私はそう叫んだ。

「許せだと!どの口がそう言うか、不貞を働いていただけでなく、綾さんにあらぬ疑いをかけて暴言を吐いていたのは何所のどいつだ!!許せるわけないだろう!!出て行け、自分の罪を認めず、その上なんだ俺の金だと!お前は俺を金を持ってくる人間としか思っていなかったのか!さっさと荷物をまとめて出て行け!!!」

そう言うと主人も次男も居間を出て行った。


一人残された私は泣くことしかできなかった。主人があれほど怒った事もなかった。恐怖で震えが止まらなかった。


数日後私は荷物をまとめて家を出た。家は主人が借りてくれた。弁護士に相談したところ、離婚が成立するまで婚姻費用を払わなくてなならないと言われたらしく、生活費ももらえた。

そして数カ月後離婚は成立。私の不貞が原因だった為、財産分与の金額も大きくはなく、年金分割の率も下げられた。年金は65歳になって受給できるようにならないともらえない。家賃も離婚が成立してからは自分で払わなくてはならない。パートでは大した収入にはならず私はかつかつの生活をするしか無くなった。いつまで働けるかもわからない。この生活が一生続くのか。


私が博に執着せず、綾さんにあんなことを言わなければ、ばれないまま墓場まで持って行けただろうか?口は禍の元。自分が蒔いた種とはいえこれから頼る人もなく生きていかなくてはならない。


因果応報。その言葉が重くのしかかる。















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