略奪

私は酒井美穂。主人と子供3人の5人家族。主人は再婚で、前妻に子供が一人いる。まあ、私の所に来てからは会っていないようだけど。

私は会社の取引先の関係で主人と知り合い不倫関係になった。そして私が妊娠したタイミングで主人は私の許に来てくれた。その後離婚が成立。私は晴れて主人と結婚することになった訳。まあ、今でいう略奪婚かな。慰謝料を払ったら最初は家計もきつかったけど、主人は大手企業に勤めていたし、徐々に生活も安定し、1男2女に恵まれ幸せに暮らした。でも、子どもにも周りにも不倫していたことは一切言っていない。前の奥さんと別れてから付き合ったと言ってある。そうしないと社会的にまずいと思ったから。


その幸せに影がかかってきたのは主人が癌を発病、容態が悪化し余命一年と宣告されたときから。それから主人はまだ学生の子供達を思い私が今後困らないように遺言書を作成。全財産を私に託すと遺言を残した。


主人の闘病生活は苦しいもので、家に帰ることも叶わず、鬼籍に入った。


葬儀の手配をしていると、義兄から電話が入った。

「美穂さん、川崎の方にあいつが亡くなったと連絡していいかな?」

「前妻の方にですか?」

「ああ、前妻はともかく、雪乃ゆきのさんにはお父さんなわけだし」

「解りましたお願いします」

暫くして、前妻は葬儀には来ないが、雪乃さんは来るという連絡を貰った。

いまさら何よ。来たら目の前で私たちがどんなに幸せだったか見せつけたやる。と私は思っていた。


葬儀の日私は川崎雪乃と言う人が来たら私の所に連れてきてと受付の人に頼んだ。

暫くして、女の人がやって来た。

「始めまして、川崎雪乃です。今日は父との最後のお別れに来ました」そう言って彼女は深々と頭を下げた。

「あなたが雪乃さん。お会いするのは初めてかしら、あまりあの人には似てないのね、本当に主人のお子さん?私の子供達を紹介するわ。皆いらっしゃいお姉さんが来てくれたわよ」子供たちも挨拶して、「初めまして」「父があなたに会いたいといつも言ってました」「お会いできてうれしいです。お姉さん、これからも仲良くして下さい」とか口々に話しかける。

私は雪乃の顔がこわばって来るのを見てほくそ笑んでいた。


暫く雪乃は黙って聞いていたが祭壇を見上げると突然。

「会いたかっただと!ふざけんな!外に女を作って私とお母さんを捨てて出て行ったくせによく言うわ!あんたに捨てられてから私とお母さんはどんなに苦労したか。自分から会えないようにしたんでしょ。私はあなた達のお姉さんではありません。縁のない赤の他人です。今日来たのは最後に父の顔を見て恨み言の一つも言いたかっただけ。あなた達とは今後一切かかわりません。失礼します」それだけ言うと祭壇に一礼して会場を出て行った。


私も子供たちも唖然としたが、葬儀の開始時間が迫ってきていてそのまま開式となった。

葬儀は無事終わり、精進落としの会食が行われた。


その途中私は呼び出された、行くと、義兄と私の両親が待っていた。

「美穂さん、雪乃さんが言っていたことは本当なのか?」

「おかしいと思ってはいたんだ、結婚してから、俊樹としきの生まれた日があまりにも近かったからね。否定されたから突っ込まなかったんだが」

「そうよはっきりさせなさい!」

私は3人にすごまれて、言い訳もできず不倫略奪婚だったことを話した。

「あなたなんてことしたの、相手の家庭を壊すなんて!」

「そうだ、それをずっと隠していたんだからな親に」

「美穂さん、あなたのしたことは酒井家にふさわしくない。縁を切ります。弟の遺骨は私の方で供養します。貴方と金輪際関わりません。でも子供達には罪はありませんからね、私の養子にしてもいいし」

「何言ってるんですか、基わと言えばあなたが雪乃を呼ぶから」

「おや、人のせいにするんですか?雪乃さんだってあんなこと言いたくなかったと思いますよ。貴方が雪乃さんに言ったこと、自分の子供の自慢をしたことで雪乃さんが顔色が変わっていくのを見てほくそ笑んでいたのを私見てましたから。挨拶だけしていれば静かにお帰りになったと思いますがね」

私は何も言えなくなった。心を見透かされたような気がした。

「とにかくこの話はこれで終わります。葬儀社に言って祭壇も私の家に用意させましたから、遺骨を持ち帰って安置します。いいですね!」

それだけ言うと義兄は踵を返した。両親も

「こんな娘とは思わなかった、金輪際関わらないからな」と言うと会食の方に戻って行った。

私は呆然とその場に立ちすくんだ。


だが、話はこれで終わらなかった。二人の娘がまったく口を利かなくなってしまったのだ、俊樹に話を聞くと「そりゃ二人とも多感な時期だからな、自分の親が不倫の末略奪婚していたなんて知ったら許せないだろう。それにもっと大変なことが起こってるんだ」

「大変な事?」

「ああ、これ見て」俊樹が見せたのはSNSの映像。顔は隠されていたがあの葬儀の会場での言い争いの現場。

「俺も今日友達から聞いて知ったんだけど、誰かが撮影したものを上げたらしい。顔を隠してあっても、そのうちに誰かは特定されるだろうな。友達から『お前がお腹にいたときに略奪したって訳か!罪だよなお前の両親』って言われたし、もしかしたら、二人もこの事を知ったのかも」

私は唖然とした。

「この映像消せないの!」

「無理だよ、発信元に行ってもおそらくコピーされてしまっているだろうし、コメント見てもかなり面白がられている。大体雪乃さんは擁護されて、お母さんが悪者扱いだね。お母さんが雪乃さん見てにんまりしている顔アップで出ているよ。本当にお母さんて性格悪いんだね、俺たちも事情を知らないからああ言ってしまったけど、雪乃さんかなり傷ついたんじゃないかな、あ、この事おじさんも知ってるからね。さっき連絡が来たから」

「義兄が?」

「ああ、こうなったらお前たちの身を守るためにうちに養子に来ないかという話だったよ」

「そんな、お父さんもいなくなって、あなたたちもって」

「母さん、ネットタゥーて知ってる?一回ネットに上がってしまったら一生消えないんだ。自分が蒔いた種だろう。こうゆうのを自業自得って言うんだよ」

そう言うと俊樹も部屋に戻って行った。


結局子供たちは家を出て行き、私は相続した遺産から、三人分の教育費と生活費を渡すことになった。

子供たちは成人したら、義兄の養子になるらしい。自分の意志で。


私は周りのうわさに耐えきれず、家を売って離れた土地に引っ越した。

アパートを借りるのにも一苦労した。遺産はまだ残っているが働かなくてはと面接に行くと、名前で断られる。SNSで出回った映像により私の名前や容姿も特定され、どこに行っても色眼鏡で見られる。


これが私の罪なのか?私には頼れる人も、側にいてくれる人もいない。これからどう生きたらいいのか。闇に閉ざされて光すら見えない。













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