転落

私は高比良静香たかひらしずか23歳。大学に入学してから、私はバイトに精を出し、好きなタレントの押し活に余念がなかった。20歳になってお酒が飲めるようになると、友人と飲みに行く事も増えてきた。けど、私はあまりお酒はおいしい物とは思えず、付き合いはするがあまり飲まなかった。


そんなある日、友人が、

「ね、静香今度ホストクラブ行ってみない」

「ホストクラブ?それって高いんじゃ?」

「クラブの先輩が言ってたんだけど、初回は3000円なんだって。それなら居酒屋に飲みに行くのと変わらないでしょう。たくさんいい男がいて盛り上がったてさ」

「う~んあんまり乗る気しないな。お酒好きじゃないし」

「だからさ、一回だけだって、社会勉強と思って行こうよ」

「一回だけね。それならいいか」

「2回目、3回目となると金額がバカ高くなるからね、いつ行こうか?」

結局私は押し切られる形でホストクラブに行く事になった。これが私の転落の始まりになるとも知らずに。


ホストクラブのドアを開けた途端私は眩暈めまいがした。強い光に、人々の喧騒けんそう、お酒と煙草の臭い。場違いなところに来たとすぐに帰りたくなった。

友人が「初回コース2人で」と黒服に言うと、「こちらにどうぞとテーブルに案内された。ウエルカムドリンクをちびちび飲んでいると入れ替わり立ち代わりホスト達がやって来る。友達はそれなりに楽しそうにしているが、私は好みの顔じゃなくて白けていた。

お金だけ置いて帰ろうかと思ってると「ナオキです、お客さん楽しんでます?」と

一人のホストが席に来た。私はナオキを見てボーっとなってしまった。

「あら、静香の好きなイケメン来たじゃない」と友達がはやす。

「え!僕みたいな顔好みなの?嬉しいな!!」とナオキにお酒を勧められながら私はボーっとしたまま話し続けた。

暫くすると「お時間です」と黒服が言いに来た。

「ああ、楽しかった。いい社会勉強になったわ」と友達が立ちあがり「静香帰るわよ」と私に話しかけた。

「うん」と私は言ったものの、名残惜しかった。その心中を知ってか知らずかナオキが「また会いたいな」と言って投げキッスをよこす。私は顔を真っ赤にしたままホストクラブを後にした。


それからの私はボーっとしていることが多くなった。友達が「静香、ナオキの事思っているんならやめた方がいいよ。相手はホスト。お客から金を引き出すのが仕事だからね。私達みたいに学生が通える金額じゃないって、あきらめな」

そう言われるのだが、言われれば言われるほど会いたいとゆう気持ちが強くなった。

私はバイトを増やし、お金を貯めた。後1回だけ。


お金が貯まったので、私は再びホストクラブを訪れた。そして黒服にナオキを指名した。

席に案内されるとナオキがやって来た。

「静香ちゃん久しぶり、会いたかったよ!」

「え、大分日にちが経つているのに覚えていてくれてたの?」

「そりゃ覚えてるさ。僕の顔好みって言ってくれたんだもの。何飲む?シャンパンなんかどうかな?」

私はシャンパンっていくらなんだろうと思ったが、ナオキが自分の事を覚えていてくれたことに舞い上がっていた。

色々話をして、時間は過ぎていく。黒服がやってきて「延長どうします?」と聞いた。

「延長は難しいです。では今日はこれで」私は名残惜しそうにそう言うと立ち上がった。

「また来てよ、静香ちゃんならいつでも歓迎するから」

ナオキに言われて私は会計へと向かった。黒服から渡された請求書は6万円。明細を見ると、指名料、お酒など色々なものが加算されていた。私はお金を払ってホストクラブを出た。

6万か・・・頻繁ひんぱんにはいけないね。私はそう思ったが、ナオキに会うためにホストクラブに行く事を止めようとは思わなかった。


それから何回か行った頃、ナオキが「ね、今日はこのシャンパンのボトル入れてよ」と言い出した。

「え、それいくら?」

「1本10万」

「そんなの払えないよ!」

「大丈夫だよカードで払えば、おーい!」ナオキは黒服を呼んだ。そして何やら話をした。

「お客様当店で指定のカードを作ればお支払いは月1万から出来ますよ」

「え、月1万!」

「はい。限度額いっぱいまで使っても月1万です」

「作ります!」私はそう言ってカードを作った。

「じゃ、シャンパン2本お願いしようかな、カードで払えばいいだろ」

「うん、解った!」


それからカードで払えると思い私のホストクラブ通いは加速した。


しかし、数カ月後。

いつもの通りカードで払おうとしたがカードが使えない。どうやら限度額に達したらしい。

「お客さん、カードが使えませんね。今日のお支払いは現金になりますが」

「現金そんなに持っていません」

「困りましたね、こっちも商売ですから払ってもらわないと。警察呼ぶか、系列店で今日の分働いてもらうかですね」と黒服が言う。それを聞いたナオキが

「なあんだ、もう払えなくなったの。終わりだな」

「どうして?嫌だ!ナオキに会えなくなるのは嫌!」

「俺はホスト。金持ってないやつに用はないんだよ、じゃな」そう言うとナオキは行ってしまった。

「お客さんどうします、警察と系列店で働くのとどっちします?」

「系列店で働きます」ナオキの言葉にショックを受けたが警察に行くことも出来ず私は今日の支払いのために系列店のキャバクラで働くことになった。

私は数日泊まり込み一生懸命働いてどうにかお金を払うと解放された。


だが、私の苦悩はこれで終わりではなかった。

数日振りにアパートに帰ると、カード会社から請求書が届いていた。その請求書に書かれた金額に私は目を疑った。私が作らされたカードはリボ払いになっていて、使った金額と利息を合わせると、残高が数百万になっていた。

バイトで返せる金額ではない。親に相談したが私の話を聞いて激怒し、「自分で払え!大学まで入れてやったのに、ホスト狂いするとは、勘当する!」と見放された。


結局私は消費者金融から借金して、その借金をキャバクラに勤めて返すしか手が無かった、最初の内は昼は大学に出て、夜キャバクラに勤めていたが、だんだん大学からも足が遠のき、中退してしまった。


今でもまだ借金は残っている。沼にはまった私が抜け出る道はない。









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