リベンジ

私、吉永沙百合よしながさゆり。笑わないでよ。往年の名女優であり美人の吉永小百合さんと読みが同じで1字しか違わなくてそれで中学高校と散々いじられたんだから。

私十人並みの容姿、勉強とかスポーツとかで何か優れているわけでもない。

ごく普通。と言うより目立つのが嫌で人を避けていたし・・・。


大学生になって、私はコンビニでバイトを始めた。バイト先は姓でしか呼ばないしまじめに働いていればとやかく言われることもない。コンビニでバイトし始めたのは自分を変えたいと思ったから。大学を出て就職するときに今のままでは通用しなさそうだったので、とにかく働いてみようと思った。『接客は誠意と笑顔』店長にそう言われ笑顔を絶やさないよう頑張った。


そんなある日、私はバイトで疲れて家に帰った。夕飯を済ませ、何気なくスマホのSNSを見ていたら、『私はこれで変わりました、もうブスとは言わせない』と言うsayaさんのブログを見つけた。ちょっと興味があったので見てみると、片側だけメイクしていく様子とか、ネイル、ヘヤー、服から、マナーなど、美人に見られるようにするにはどうしたらいいかを、実体験を通して配信してあった。

私は衝撃を受けた。なぜならすっぴんのsayaさんは私と同じように一重瞼に、あまり堀の深くない顔をしていたから。という事は、私もこの技術を会得すれば美人になれるってこと!!!!!私は早速フォローして、隅々まで読みふけった。そして決心した。技術を会得して私を馬鹿にしていたやつらを見返してやると。


それからの私はバイトを頑張りながら、空き時間にはブログを読みふけり、家ではメイクの練習をした。そのほかにもいろいろなことを試しながら自分を変えて行った。(バイト先では前の通り控えめで通したけど)


効果が出てきたのは意外にも大学だった。「近頃かわいくなった子がいる」と男子の間で噂になっていたようで、実際声をかけてくれる人も出始めた。

そして告白され正式にお付き合いを始めた。彼の名は松平健一まつだいらけんいち俳優の松平健さんに一を足した名前。彼も、名前で相当苦労したらしい。大学では吉永紗百合と松平健一が付き合いだしたと噂になった。



ある日高校の同窓会の通知が来た。私が悩んでいると

「どうしたの、そんな顔して」

「うん、高校の同窓会行こうか迷ってて」

「行きなよ、今の紗百合なら絶対美人だからみんなびっくりするよ」

「そうよねリベンジしなきゃ。あいつらを見返したくて頑張ったんだから、でも少し怖いな」

「それなら、その日俺もその場所にいようか?」

「え?」

「だから少し離れたところから様子見てるから、ある程度会が進んだら俺側に行くから彼氏って紹介してよ。美人になって彼氏持ちって威張ったらいい」

「それいい!!お願いするわ。同窓会が楽しみになった」

「良かった」

私は同窓会に出席すると返事を出した。


同窓会当日。私は念入りにメイクして髪を整えた。服やアクセサリー小物にも気を使った。

同窓会がある居酒屋の近くで健一と待ち合わせした。

「わあ!今日は一段と奇麗だね!」

「そう?そう言ってもらえると嬉しいわ。念入りに用意したつもりよ」

「清楚だし、全体のバランスもセンスいい。自信持って」

「ありがとう」そう言い合いながら会場の居酒屋に向かった。


居酒屋に着くと「俺は少し離れているから」と健一はカウンターに向かった。

私は受付で「今日同窓会があるはずなのですが」と言うと店員さんが案内してくれた。

居酒屋の奥のスペースが貸し切りになっていた。


「こんにちわ、吉永です」

「え、吉永さんなの元気だった?まあ奇麗になってここ座って」女性の一人が席を勧めてくれたので、私はそこに座りお互いの近況報告をしながらお喋りした。

こそこそと、男の話声が聞こえる。その中に私をさんざんいじっていたやつを見つけた。取り巻きの奴らも。「あれがあの吉永かよ」とか、「すかしてんじゃないよな」とか、下品な会話も聞こえてくる。私は完全に無視して、女性陣と話し続けていた。

かなり会が進んだ頃、そいつが寄ってきた。「おい、吉永ずいぶん変わったじゃないか、俺と付き合わない」私はあっけにとられた。本当に何にも変わってない。

「今ならさ、奇麗になったし釣り合うと思ってさ」とさらに言い続ける。

私は今だと思った。

「釣り合う?あなたと?馬鹿言ってるんじゃないわよ!高校時代散々いじっていたくせに、奇麗になったらそう言うの。あなたのそうゆう外見しか見ない軽いおつむが大嫌い。あなた全然変わってないのね、今のあなたが私に釣り合うはずないじゃない。お断りよ!私彼氏いるし!」

「彼氏だと!」

「ええそうよ。私自身を見てくれる人。紹介しようか?健一さん!」

私が呼ぶと健一がやって来た。

「松平健一さん。大学の先輩で弁護士を目指しているの」

「ご紹介いただきました松平健一です。紗百合さんとは大学で知り合いお付き合いしております。お見知りおきを」そいつは顔を真っ赤にしてあっけにとられていた。

「そいつが彼氏だと。紗百合のくせにふざけんな」そう言うと恥をかかされたと思ったのか私につかみかかりそうになった。健一さんは私をかばうと伸ばされた手を逆にひねり上げ、「おやおや、女性につかみかかろうとするなんでずいぶん下品な真似をするんですね。これ以上やるならもっと締め上げますよ」と言い、締めている手に力を込めた。

「痛い痛い離せ!」そうあいつが言ったので、健一は締め上げた手を放しながら突き飛ばした。あいつは無様にひっくり返った。

「これ以上紗百合さんに手を出すなら容赦はしませんよ。紗百合帰ろう。こんな奴と一緒にいさせるわけにいかない」

「そうね、帰りましょう。あなたたちからさんざんいじられたから奇麗になろうと思ったし、こんな素敵な彼とも出会えたんだから。サンキュー!」

そう笑顔で言って、私は会費を払うと健一さんと手を取りながら居酒屋を出た。


「ああ、すっきりした、ありがとうかばってくれて」

「それくらい当たり前だよ。女性に手を出そうなんで男として許せない」

「そうね、そうゆう一本気なところが好きなんだけど、あ~あなんか疲れたな」

「リベンジ成功の祝杯を上げに行こうか?」

「うん、行く行く」


私は健一さんと話しながら胸のつかえがとれていることに気がついた。


同窓会で奇麗になった私を見て女性の数人から「私も奇麗なりたい色々教えて」と言われ連絡先を交わした。今もその人達とは仲良くしている。


ちょっとしたきっかけで、人生は変わるもの、変われるものだと今なら思える。



※ 文中のsayaさんの名前もブログも架空のものです。

  











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