楽器との出会い

私の名前は青空響子あおぞらきょうこ主人と子供が二人の4人家族。

私は市民吹奏楽団でクラリネットを担当している。主人も同じ楽団の楽団員で、トロンボーンを担当。私たちはこの吹奏楽団で知り合い結婚した。


でも、私はこんなに長く楽器に関わることになるとはあの頃は思っていなかった。


小学校を卒業して中学校の入学式を数日後に控えていたのだが、私は悩みを抱えていた。それは部活。普通の公立中学なのに部活が必須となっていた。私は自他ともに認める運動音痴。だから文化部の方になるのだろうがやりたいものが見つからない。

そうこう考えているうちに入学式の日を迎えた。


学校に行きクラス分けで教室に入り、今日の式次第の確認があった。その後体育館前の整列した。


『新入生入場』アナウンスが流れると体育館に凄い音楽が流れ出した。私の体に衝撃が走る。音楽が流れる中を私たちは入場した。式の進行の中で音楽が必要だと体育館の後ろの方から音が聞こえる。気になるが振り向くわけにはいかないし・・・。そして退場の時私は見た。体育館の2階席にたくさんの楽器を持った人たちが並んで演奏しているのを。私はその時なぜか「この人たちの中に入りたい」と思った。


教室に戻り、ホームルームで部活動希望の用紙が配られ、担任によって部活動の説明があった。私はそこで初めて体育館で演奏していたのは吹奏楽部だという事を知った。もちろん部活希望用紙には吹奏楽部と書いて提出した。

今思えば冷や汗の出る話。吹奏楽の事も楽器の事も全く知らないのに、入部希望を出してしまったんだから。

だが、そんな気持ちとは裏腹に入部は認められた。


数日後、私たち新入部員は音楽室に集められた。先輩達にあいさつの後、楽器を決めるからと別室に案内された。

「私は副部長の一ノ瀬と言います。新入部員の皆さんようこそ吹奏楽部へ。これから楽器決めをします。楽器の経験ある人は私の右手に、無い人は左手に移動してください」私はもちろん経験無しの方に移動した。

「それでは、経験者は井口の方に経歴を言って楽器を続けるか決めて。未経験者は希望する楽器を聞きます、一人ずつ私の所に来てください」未経験者は次々と副部長の方に行く。でも、私は全く動けなかった。楽器の名前すら知らないのだから。

とうとう私は最後の一人となった。

「あなたはどうしたいの?」と一ノ瀬さんが聞く。

「すみません楽器のこと全くわからないので、希望が出せません」私は正直に答えた。

「なら、どうして吹奏楽部への入部を希望したの?」

「入学式の時の演奏に感動して私も一緒にやりたいと思ったからです」

「そうなの?じゃ、私と一緒にクラリネットをやりましょう」

「え、全く解って無いのにいいんですか?」

「音楽は感動を届けるものなの。私たちの演奏にあなたが感動したなら十分資格があるわ、誰でも最初は初心者だからね」

一ノ瀬さんはそう言うと名簿を作り、井口さんと確認を始めた。


これが私とクラリネットの出会いとなった。


勢いで入った吹奏楽部だが、1週間も経つと私は後悔し始めていた。私なりに色々調べて、吹奏楽ではクラリネットがオーケストラのバイオリンの役割を果たしているのを知ったのも大きかった。本当に自分が演奏できるようになるのかと不安になる。その時支えになったのは一ノ瀬さんの「誰でも最初は初心者だから」と言う言葉と、入学式に聞いた曲を演奏したいという思いだった。


6月に入ると先輩と経験者はコンクールの練習に入る。未経験者の私達にはマーチが2曲と、国歌、校歌の楽譜が配られた。9月に行われる体育祭で演奏するそうだ。

初めて楽譜を貰い、私は大切にファイルして一生懸命練習した。初心者同士で集まったり、クラリネットパートで練習したりとかなり楽しくなってきた。


夏休み中にコンクールが終わり、私たち初心者組も合同演奏に参加するようになった。


体育祭の後は文化祭。文化祭で3年生は引退となる。新しい楽譜が配られ、個人、パート、合同と厳しい練習が続いた。


文化祭終了後は2年1年で部を作り来年新入生を迎える準備となる。

3学期が始まると卒業式と入学式の準備の楽譜が配られた。私が入学式で聞いたあの曲を演奏できる。その曲の練習には一段と熱が入った。

3年生には感謝を、そして新入生には感動を届けるために。


そして私は2年生になり、後輩が出来、コンクールにも出場した。3年になるとクラリネットのサードのパートリーダーとなった。

コンクール、文化祭。私の中学校での部活は終了した。


高校は県立高校に進学した。でも私は部活をする気にはなれなかった。そんなある日・・・。

「おい、坂下(私の旧姓)お客さんだよ」

「え、私に」私は廊下に出て行った。すると。

「おい、坂下、なんで吹奏楽部に来ないの!ずっと待っていたのに!」

「一ノ瀬先輩!先輩この高校だったんですか?」

「そうよ。部活やってないそうね、吹奏楽部にいらっしゃい。部員が足りないの」

「でも、私高校では部活やらないつもりで・・・」

「四の五の言うんじゃないの!放課後音楽室で待ってるから」

「はい!」恩人である一ノ瀬さんの命令とあれば従うしかない。そんなこんなで、私は高校でもクラリネットで吹奏楽を続けることになった。


高校の部活は中学校よりもさらに厳しかった。でも今回は経験者だったから少しはついて行くのが楽だった。高校で始めた人もいてその人たちはかなり苦労していたから。

友達も出来たし、かなり難しい曲も出来るようになって、やっと音楽が楽しくなってきた。


大学は地元に進学。暫くして一ノ瀬さんから電話がかかってきた。

「久しぶり、元気だった」

「お久しぶりです。元気ですよ」

「今日連絡したのはね、近々市民吹奏楽団が出来るそうなのよ。出来たら一緒にやらない?」

「え、そうなんですか!やります。それじゃ楽器が欲しいしバイトしなきゃ!」

「そうね、楽しみにしてるわ」

一ノ瀬さんは楽団設立の役員をしているらしい。数カ月後市民吹奏楽団は設立し、私はその部員となった。もちろんクラリネットを購入して。


今までの学校での部活とは違い大人の付き合いだから、とても楽しかった。あまり頻繁に集まることは出来なかったけど、ラインの交換などでたくさんの友達も出来た。


大学を卒業し、就職するタイミングでトロンボーン担当の今の主人と付き合うようになり、数年後結婚した。


今思えば、中学の入学式であの曲に出会わなかったら、一ノ瀬さんと出会わなかったら、私の人生は違ったものになっていただろう。


私の人生に彩りを与えてくれた音楽に今は感謝している。



















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