きっかけはほんの些細な事

多肉ちゃん

情けは人の為ならず

私は鍋島綾乃なべしまあやの。高校2年生。ごくごく平凡な高校生だし、メガネっ子。髪は二つのおさげ、化粧はしない。帰宅部。周りからは暗いとみられて男子のからかいの対象になることもしばしば。そのせいか友達もいない。

でも、気にしない。私はおしゃれに興味がないからしないだけ。そんなの高校卒業してからでいいわ。


ある日、通学路を歩いていたらバス停におばあさんが座っていた。

「バスを待っているのかな?」と思い通り過ぎようとした時丁度バスが来た。でもおばあさんは乗るわけでもなく座ったまま。バスはいったん停車したがすぐに走り出した。

「違う行先なのかな?」と思ったが、ふと私はおばあさんが履物を履いていないのに気がついた。「おかしいな?声かけてみようかしら?」そう思い私はおばあさんに近寄った。

「こんにちわ」声をかけるとおばあさんはこっちを向いた。でも返事が無い。

「どこに行かれるんですか?」と聞いても首を振る。

「お名前は、どこにお住まいですか?」と尋ねても首を振るばかり。

「履物はどうされました?」と聞いても返事が無い。

私は「もしかして迷子?」と思い警察に通報することにした。


鞄からスマホを取り出し電話を掛けた。

『はい。ご用件をお話しください。』

「私鍋島綾乃と言います。今大崎町バス停にいるのですが、おばあさんが一人ベンチに座っていて、何を問いかけても答えないんです。どうしたらいいでしょうか?」

『大崎町バス停ですね、今警察官をそちらに向かわせます。電話を切らずにお待ちください』

電話越しに指示している声が聞こえた。

『そのおばあさんを発見した状況を知りたいのですが?』

「下校していてバス停を通った時に見つけたんです。履物を履いてないのでおかしいと思って」

『履物を履いていないんですね。もうすぐ署員が着きます。そのままお待ちください。』

暫くするとパトカーがやって来た。警察官が降りてきて、私の携帯から報告をする。すると電話は切れた。

「えっと、この人かい?」私は頷いた。

「この人は警察の方で保護するから、君の名前、連絡先、電話番号を教えて」

私は聞かれた通り答えた。

「ありがとう、おそらく捜索願が出ている人だと思う。解ったら後で連絡するから」

そう言うと、おばあさんを乗せたパトカーは走り去った。

私は「連絡してよかったんだな」と思いながら家路についた。


それから数日後の昼休み、「2-B鍋島綾乃さん校長室に至急来てください」と校内放送があった。

「鍋島、お前何しでかしたんだ!」と男子がはやし立てる中私は校長室に向かった。


校長室に着き、ノックをして、「鍋島です」と言うと「入りなさい」校長の声がした。私は「失礼します」と言ってドアを開け部屋に入った。

部屋の応接セットには男女と、男の人が一人座っていた。

「鍋島君だねこちらへ」と校長が言うので私は応接セットの方に近寄った。

「この子が、鍋島です。鍋島君、君数日前にご老人を助けなかったかい?」

「はい、警察を呼んで保護してもらいました」

「その老人は捜索願が出ていたんだよ。警察に保護された後、病院で検査したが異常はなかった。それでこの方たちがお礼にと来られたんだ。」

男女は立ち上がると一礼し、声を揃えて「母を助けたいただいてありがとうございました」と言った。私は「当たり前のことをしただけですから、御無事で何よりでした」と返した。

校長が「それで、警察の方から感謝状を贈りたいと今日来られたんだ」と言う。もう一人の男が立ちあがり筒を渡した。そして「ここは学校内ですから、読み上げない方がいいでしょう。我々からの感謝の印です。貴方の通報で一つの命が救えましたから」私は筒を受け取り「ありがとうございます」と答えた。

私の答えを聞くと3人は部屋から出て行った。

校長は「この事を学校の全校朝礼で話したいのだがどうだろう」と私に向かって言った。

私は「目立ちたくないのでご遠慮します」と答えた。

その時外からがやがやと声が聞こえた。何やら叱るような声がしてノックがされた。

入った来たのは私の担任だった。

「鍋島、全校に知らせなくてもいいが、クラスには言った方がいいぞ。今もクラスの男子が聞き耳立てていたから追い払ったところだ。校長室に呼ばれた訳を簡単に話すだけだから」

「それでしたら御願いします」と私は答えた。

担任は帰りのホームルームで簡単に説明してくれた。

それでも男子が納得しないので、仕方なく先生は警察からの感謝状を読み上げた。教室がシーンとなる。読み終わると感謝状を筒に戻し私に返した。


それから、私を取り巻く状況は一変した。陰口をいわれることはあったが、男子に絡まれることは無くなった。普通通り過ごしていたら、ほかのクラスの女の子2人と友達に成れた。その子たちは私の裏表のない性格を褒めてくれた。私にとっては高校で初めての友達。クラスが違うから昼休みや放課後に色々な話をした。


そして一番変わったのは両親だろう。両親は私が味噌っかすで、何も出来ないと思い否定ばかりしていたから。でも感謝状を貰ったことで私のことを見直したらしい。(こんなことで見直されても困るけど)少なくとも家庭でギクシャクすることなく過ごせるようになったのはありがたかった。


あの時声をかけてよかった。おかげで私の人生に道が開けた。これから私は自分の進む道をじっくり考えようと思う。



















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る