小説「誰が勇者を殺したか」誰も傍観者ではいられない
さて、2024年が始まってしまいました。
原稿はいつもの僕だったら「書けねぇ、書けねぇよ……」と延々と恨めしい内容をSNSで発信していたことでしょう。
しかし、去年からの僕は「書くことだけはできている」と前向きな感じです。
仕事とかは……あまり良い状態とは言えませんが。
僕は実家にプラモくらいしか残していません。
作品をノートPCで書いておりますが、たった一台のPCを持ち歩くというのは何かあったときにどうすることもできないのでやっておりません。
――と、いうわけで、大晦日~元旦は実家で小説を読んでました。
実は仕事以外でも毎週のように書店に通い、何かビビッときた本を買っています。
だから金欠なんですね、わかります……というところまではいいんです。
しかし、読めてないのです。
毎日のように朝晩と原稿を書き進め、休憩と称して映画やゲームに興じる……
職場の倉庫で暇潰しに地方出版の本や雑誌を立ち読みする感じなのですが、あらすじと表紙絵だけで買った本が「○○賞、大賞!」「記録的な売上げ!」みたいなことになったりすることもあり、読めないことをちょっとだけ後悔しています。
東京にいた時は水曜日に読書の時間を作っていたりしましたが、今はともかく完結目指してガリガリ書いてます。
……いつもと同じ? たしかにそうですね。
今回は実家でだらだらと読んだ1作を紹介したいと思います。
王道ファンタジーの世界観。勇者一行が『魔王』を倒し、帰還してくるところから物語が始まります。
しかし、肝心の「勇者」はいません。
すると、メンバーは口を揃えて「勇者は死んだ」と答えます。
タイトルから突き付けられた謎。それを解き明かすための旅が始まります。
あからさまにミステリーの雰囲気を放っていますが、そこまでキチキチに詰めた感じの文体ではありませんし、表現や語句はきちんと中世~近世を意識したものになっています。
インタビュー、もしくはドキュメンタリーのように進行していく『聴取』
読者はインタビュアーと共に、登場人物達の記憶を辿っていきます。
この勇者一行、どいつもこいつも曲者揃いなんですよね。
騎士、僧侶、賢者、この3人それぞれの勇者との関わりと想い――そして、様々な『一人称』で語られる勇者『アレス』の人となりと狂気的なまでの使命感。
面白い事に、この作品は伏線がしっかり張り巡らされていて、冒頭の何気ないフレーバーテキストのように思える設定文がきっちり回収される展開に、思わず「そうきたか」と唸らされました。
小さな疑問から大きい謎へ、たった1人の青年の死を追及することで世界を揺るがすほどの真実に至ることになるでしょう。
ネタバレにぎりぎり触れてしまいますが、本作はハッピーエンドです。
いや、本当にハッピーエンドとは言えませんね。でも、きちんと報われる結末のように感じます。
だから、高評価されるんだろうな。と思いました。
直接的な戦闘描写はありませんが、簡素な文章でわかりやすく描写や説明が展開されるので、本当に読みやすく。主題に寄り添うような「知る」という部分において、この作風になったのは本当に奇跡のようだと思いました。
書き手として、より良い文章。濃密な描写、わかりやすい説明、伝わる内容……とこだわる部分は多いはずですが、本作の良いところは「肩の力が抜けている」感があるところでしょうか。
タイトルから犯人捜しをするかのような内容という先入観を持ってしまいがちですが、そこまで肩肘張らずに読んで頂きたいですね。
さて、勇者という単語はファンタジー作品においては定番ですよね。
王様から命令されたり、誰かが予言したり……使命を与えられた人のことが多いです。
似たような単語だったら、カプコン製のアクションRPG『ドラゴンズ・ドグマ』の「覚者」というのがあります。
こちらは災厄の象徴であるドラゴンによって心臓を奪われ、呪いと『ドラゴンを倒す』という宿命を背負わされた者です。
しかし、勇者という文脈と「覚者」は大きく違います。
勇者は成るものです。
つまり、勇者という役割や存在にさせられるんですね。
選ばれる、見出されるという点では勇者も職業みたいなものですが、それでも与えられる使命はとんでもない事であるのがテンプレですよね。
一方、覚者というのは……役割や存在ではありません。
これは状態というべきでしょう。
ドラゴンによって呪いを掛けられ、心臓を奪われる。その結果、不老になっただけではなく。元凶のドラゴンを倒すことができる唯一無二の戦士となるんですね。
――まぁ、存在というのは間違ってないとは思うんですが。
こうして、色んな作品に勇者は出てきます。
でも、本当に勇者の使命は果たすべきような物なんでしょうか?
魔王だの、ドラゴンだの、人の手で倒せるかもわからないような相手を倒すためにたった1人に使命を背負わせることが本当に正しいのでしょうか?
本作を読み終わる頃には、読者の我々も『誰が勇者を殺したか』を知ることになるでしょう。
それは単に作品で書かれているからということではありません。
そして、作中に登場する全ての人物に「勇者を殺した」という疑惑を向けてもいいでしょう。
それは、読者である我々も同じなのです。
さあ、ページを開いて……真実に辿り着いてください。
僕らは、もう傍観者じゃありません。
――当事者、なのですから。
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