映画「夏のトンネル、さよならの出口」

 話題の作品だけど、どうにも手に取らなかった作品。


 僕はわりと新人賞作品を好んで読みます。

 別に商業作品として出版されている作品が嫌いとか、そういった理由じゃありません。


 新人賞作品はチャレンジに満ちていて、冒険的で、面白い発想とストーリーで語られる作品が多い印象です。

 それはきっと、と最初から狙っていなかった……ということもあるかもしれません。

 もちろん、新人賞作品でも『売る』ことを前提に書かれている方もいらっしゃるかとは思うのですが、ずっと昔から新人賞作品を読み漁ってきた人間としては、挑戦作・意欲作みたいなエネルギッシュさを感じられるんですね。



 2019年刊行「夏のトンネル、さよならの出口」という作品は、どこか新人賞作品っぽくない印象がありました。

 「君の名は」以降、色んなクリエイターが「君の名は」フォロワー的な作品を作り続けています。特にアニメ映画が顕著ですね。

 そういった中、「夏のトンネル、さよならの出口」もまた「君の名は」フォロワーの匂いがしていたのです。



 なんというか、日本における青春物といえば「夏」を舞台にすることが多い気がします。

 夏休み、夏祭り、やがてやってくる台風の秋……夏から始めれば、秋と冬で重い展開にして情景とマッチさせられるのでオイシイとは思うのですが、僕はちょっとお腹いっぱいなんですね。




 さてさて、2023年10月からAmazonPrimeで見放題になった今作。

 小説の方は読めていなかったので、とりあえず話題作を観てみるか~という気持ちで視聴しました。



 問題を抱える主人公の男子高校生と女子高生。2人がタッグを組み、地元の謎スポットである「ウラシマトンネル」の攻略を目指すといった話です。

 

 主人公は妹を失い、荒れた父親と2人暮らしをしているんですね。

 酒に酔って父親は主人公にとんでもない一言を投げ、逃げるように家を飛び出します。

 そして、何故か線路を歩き、導かれるように「ウラシマトンネル」を見つけてしまうのです。



 「ウラシマトンネル」は欲しいモノを手に入れられると言われており、主人公はそこで死んだはずのペットと妹のサンダルを回収。

 「ウラシマトンネル」で妹を見つけ出すことを決意します。


 偶然、「ウラシマトンネル」に入ったところを見つけたヒロイン。

 2人は「共同戦線」でお互いの「欲しいモノ」を見つけると約束するのでした。




 「夏のトンネル、さよならの出口」は普通に高校生の青春恋愛モノといってもいいくらいの内容です。

 作画のクオリティは高いですし。背景や描写はピカイチと言ってもいいでしょう。


 しかし、良くも悪くも『邦画』なんですよ。これ。

 一応、明言しておくとですね。僕は邦画が好きじゃ無いです。

 それはカメラワークや映像技術に創意工夫が見られないからなんです。


 ハリウッドでは度々革新的なカメラワークや映像技術、手法といったものが登場し、以後の作品に受け継がれていったりします。

 中にはそれで失敗してる作品もありますが、年代ごとに同じようなアクションを取っても見せ方がまるっきり違うということは比較すればご理解頂けるかと思います。



 しかし、邦画というのはですね……恋愛だろうとアクションだろうと、ドラマでもなんでも……「引き」と「定点」で撮りがちなんですよ!!

 俳優の顔を見せるとか、画としてキマッってるカメラの位置とか、気持ちはわからんでもないんですが。

 「邦画」は俳優ありきで作っているようにしか思えなくなってくるんですね。その、邦画好きの方にはホントに申し訳ないと思います。

 

 全ての日本人映像クリエイターが悪いとは言いません。

 でも、大々的にピックアップされる作品に映像技術的な進歩があるようには感じられないのです。

 特撮、アニメ作品はその点、本当に創意工夫が成されているように思います。

 別に持ち上げているわけではありません。


 実写版「亜人」とかは、邦画の中でも面白いと思えるクオリティでしたし。

 邦画が重きを置く「人間ドラマ」が悪いとは感じません。

 しかし、カットの説得力や演出、画面越しに伝わる画力というのはやっぱり足りません。



 そういうわけで、「夏のトンネル、さよならの出口」は映像的に邦画らしさ……いや、邦画仕草と似た何かを感じました。

 それは良い意味でも、悪い意味でも映画に作用していて、ここ最近のアニメ映画にしてはどうにもだなという印象です。


 色彩に関してはとても上手かったと思います。

 場面に必要な雰囲気、心情、花火に照らされる横顔は言葉を失うほど綺麗です。

 



 「夏のトンネル、さよならの出口」の1番のポイントと言えば、『ウラシマトンネル』の作用であるですね。

 「ウラシマトンネル」に入ると時間の経過が緩やかになり、中でたった数秒過ごしただけで数時間も経過したことになってしまいます。


 終盤、それを活かしたシーンが展開され、思わず「やられた!!」と感動してしまいました。



 「時間のズレ」を活かした作品といえば、新海誠監督作品「ほしのこえ」ですね。

 この作品は地球にいる男子、遠宇宙で戦う使命を与えられた女子、この2人による電子メールのやりとりが描かれた作品です。


 ワープ航行が必要なほどの遠い距離へ向かうのですから、電子メールが遅延するのは当然です。

 そんな2人の切ないやりとりは、悲劇で終わってしまいます。




 しかし、「夏のトンネル、さよならの出口」はそれを上手く使って、による展開を作ってるんですね。

 一部の条件が崩れたりというご都合てきな内容もあったりするのですが、それでも違和感なく、きっちりとロジックが作用していました。


 電子メールには0と1以外のも添付することができるのか……と、ちょっとだけクスッと笑える映画です。


 あと、ガラケーが出てきたりして懐かしさも爆発したりしましたね。

 ガジェットがどんどん便利になって、わざわざ「メールの再受信」なんてやる必要も無くなりました。

 あの「何か届いてないかな」と郵便受けを開けるような感覚を思い出して、ノスタルジーがエクスプロージョンしましたw




 13年間も約束のために頑張り続ける……それは、途方も無いことです。

 普通の人なら、どこかで挫けるか、忘れてしまうでしょう。

 それをやり遂げたヒロインに、ハッピーエンドが――訪れて欲しいですね?


 というわけで、「夏のトンネル、さよならの出口」を観てみてくださいね~~~







追記


 僕は学生時代、アーマードコアというゲームに出会いました。

 それを教えてくれた同級生をライバルとして、勝つためにあれこれ試したり、研究したり、色々頑張ってました。



Q:学生時代に打ち込んだことは?


A:アーマードコアです


 ――と、ハッキリ言えます。


 生涯のライバルだと思っていた友達は、すっかり変わっていて。

 美学とか、自分なりのルールとか、そういうモノを持っていたはずの彼は「勝てさえすればいい」というつまらないプレイヤーになっていたのです。


 僕が「ライバル」だと思っていた相手はそこにはいなくて。それだけでなく、僕を「そこらにいるザコ」と扱っていました。

 それと一緒に親友だった相手との裏切りもあって、ショッキングな一夜となりましたが、その2人にしていた約束を僕は果たせそうにありません。



 1つは、僕を彼に「ライバル」だと思わせること。


 もう1つは、自分の作品をアニメ化して一緒に作品作りをすること。



 もう相手はそんなこと夢にも思わないでしょうけど、それでも僕は続けてきました。

 「アーマードコアで勝つために」「自分の作品に関わることになっても恥ずかしくないものを作れるようになるために」


 

 僕は何年耐えることになるかはわかりません。

 それでも、ゲーマーと物書きを続けていくことは変わらないと思います。


 僕は前に進めているか、そんなことにも確信を持てません。

 それでも、僕は戦い続けるつもりです。

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