第13話 エピローグ
「しつこい」
「せっかく会いに来たのにそんなつれないこと言わないでくれ。まぁそんなそっけない所も君のいい所だ、そこがたまらない」
目の前には師匠と師匠にまとわりつく魔王ギルがいる。ギルはなぜか師匠を気に入ったらしく、カレンへの執着はいつの間にかなくなってしまったようだ。
「カレンを諦めてくれたのは良かったけど、こんなにすぐに対象が変わるなんてなんだか解せないな」
あんなにカレンカレンと言っていたのに、今ではカレンに見向きもしない。
「しょうがないわよ、魔族なんてそんなものだわ。なんなら一人に絞らない魔族だっているんだもの、律儀に一人を追いかけるギルはまだマシな方なんじゃないかしら」
やれやれという風にカレンは言うけれど、じゃあ師匠はどうなってしまうんだろう。いつか師匠よりも気になる人ができたら、ギルはまたそっちに夢中になるんじゃないか。
いや、でもあの師匠のことだからそんなのどうでもいいと思ってるのかもしれない。変わってる人だからな。ギルを邪険に扱わないのだって、ただ単に面白いからという理由だけの気がする。むしろギルの方が先に飽きられる可能性だって……。
「なぁ、お前達が結婚すれば、これの寿命も延びるのだろう?人間は寿命が短いからな、延びるのであれば俺はずっとこれと一緒にいられるのだろう」
突然ギルが目の前に来て、そう言ってきた。確かに俺とカレンが契りを結べば、俺の近しい人間は本人が望めば寿命を延ばすことができる。
「これじゃない。私の名前はエリスだ」
真顔で師匠がそう言うと、ギルは瞳を輝かせている。
「今まで何度聞いても教えてくれなかったのに!名前を教えてくれるんだな!エリス、なんて素敵な名前なんだ」
師匠の手をとってそっと口付けるギル。それを師匠は真顔で見つめている。
見てて思うんだけど師匠、なんだかんだでギルの扱いがうまいんじゃないのかな。
「ふふっ、ギルってば師匠にゾッコンね。あの師匠ならギルを一生夢中にさせてしまうかもしれないわ」
師匠ならあり得るかも……嬉しいような怖いような、複雑な心境だよ俺は。
「なんだかんだで一件落着ね」
カレンが少し寂しそうにつぶやいた。
「ねぇ、ギルは私のことをすっぱり諦めたし、師匠がいるうちはギルは絶対にこの国を攻めたりしないと思うの。だから、その……」
カレンが俯きながら言葉を濁す。なんだろう、とても心がざわざわする。言わせてはいけない言葉を今から言おうとしているんじゃないのか。
「私と契りを結ばなくても、この国はもう安泰よ。レオンも国のために私なんかと一緒になって寿命をダラダラと延ばす必要なんてな」
「カレン!」
カレンの言葉を遮って、俺はカレンを抱きしめた。
「カレン、言いたいことは予想がつくよ。カレンのことだから俺や俺の周りの人間のことを思って言ってくれてるんだろう。でも、そんなの考える必要ない」
「……レオン、人間が想像する以上に竜族の寿命は長いのよ。そんな気の遠くなる長さを、人間のあなた達が心地よく過ごせるとは思えない」
腕の中のカレンは少し震えている。
「カレン、よく聞いて。確かに人間の俺たちにしてみたら竜族の寿命は果てしなく長く思えるだろうね。どんな風に生きれるかなんて想像もつかないよ。でも、寿命が長かろうが短かろうが、本人がどう生きていこうと思うか、そして実際にどう生きていくかそれだけなんだと思う。そして、自分次第できっといくらでも人生を輝かせることができるはずだ。その可能性を一方向だけの視点で奪うのは違うだろう」
カレンの両肩を優しく掴んでカレンの顔を見る。カレンは不安そうな表情で俺の言葉を静かに聞いている。あぁ、どうかカレンに俺の気持ちがちゃんと伝わりますように。
「それに、俺にはカレンがいる。カレンと一緒に、ずっと一緒に生きていくって決めたんだ。それは揺るがないことだよ。君がいれば俺はどんなことだって楽しめる。嬉しさも楽しさも辛さも悲しみも、君とならどんなことだって乗り越えられるし共有したいんだよ」
俺の言葉を聞きながら、カレンはいつの間にかポロポロと涙を流していた。
「カレンは、俺とそんな素敵な時間を一緒に過ごしたくはないのかな?」
ずるい質問だと思う、でもこれが俺の気持ちだ。
「……ううん、私も、あなたと、あなたの大切な人たちと一緒に、生きていきたい」
わっと泣きながらカレンは俺に抱きついてきた。受け止めるように俺はちゃんとカレンを抱きしめる。
「一緒に幸せになろう」
カレンの頬を伝う涙をそっと指で拭って言うと、カレンは俺を見つめて微笑んだ。その微笑みは今までで一番優しくて愛おしい微笑みで、俺は思わずキスをした。
そう、これが俺とカレンのファーストキス。
国のためにプロポーズしてくる王子がいつの間にか本気で口説いてきて困ります 鳥花風星 @huu_hoshi
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