第15話 ヒナとの出会い
あれから1000年の時が流れた。
怒り狂ったグエンは自分で制作した武器を引っ掴み、同じく主人を失って怒り狂った銀狼と共にドラゴンパレスに殴り込みをかけたのだが最初にであった若いドラゴンにすら手も足も出ず、自慢の武具は破損し、魔獣の姿となった銀狼は瀕死の重傷を負ってしまった。
可愛がっていた銀狼ちゃんまで死ねばマリアは悲しむだろう。
人型に戻った銀狼を背負い、グエンは王国に戻ったのである。
銀狼は一命を取り留めたが、ふらりと姿を消した。
グエンはドラゴンに対する恨みを晴らすためだけに己の技術を高めた。
あれから1000年、ドラゴンパレスからはたまにはぐれドラゴンが領内に迷い込み討伐される程度の事件しか起きなかった。
ドラゴンたちはドラゴンパレスから離れることもなく連邦国は平穏を取り戻したのである。
最初にドラゴン討伐などやらなければ何も起きなかった可能性もあるが、それは今になってはもう何が正解だったかわからない。
ただ、己の身を犠牲にして連邦国を,守った聖女「氷の巫女」の伝承だけは語り継がれることとなった。
****
そんなある日、店番をしていたグエンの武具店に場違いな野鼠人の少女が入ってきた。
武具店なので当然客は屈強な冒険者か格闘家ばかりである。
女戦士ももちろん来るが、まるまるぽっちゃり太った少女はいかにも場違いだった。
グエンはギロリと睨んで追い返そうと思ったが、なんとなく面影が自分のよく知る女性に似ていたので気が変わって話だけをきくことにしたのだ。
「あの、ミスリルの針って扱ってないですよね、数センチくらいの細いのでいいのですが。」
「裁縫用かい?ミスリルなんて必要なのかい?」
少女は詳しく説明した。
「そうかい、魔獣の毛ねえ、そりゃアイアンやカッパーの針ならすぐにダメになるだろうな。」
グエンは少し考えて足元の箱から透明な10センチほどのガラス針のようなものを取り出す。
「コイツはこの前ドラゴン討伐で「
少女の目がきらりと光る。
[アダマンタイト製の剣なら一振り1億ディナールは下らない。
アダマンタイトという響きにもうっとりするし、世界中、いや全ての異世界中でもアダマンタイト製のフェルト用ニードル持ってる人なんて絶対にいないだろう。]
少女はそんなことを考えていた。
「ありがと!ドワーフさん、大好き!」
少女はヒゲもじゃのドワーフに思いっきり抱きつく。
職人顔のヒゲもじゃグエンは真っ赤な顔をしてアタフタした。少女に抱きつかれたのは1000年前にマリアに抱きつかれた時以来だ。どうやら女子への免疫はつかなかったようだ。
少女から一万ディナールを受け取るとグエンは工房に入った。
このアダマンタイトは世界一硬く加工は困難を極める。
無理に力を加えれば破損して周囲に飛び散り鉄さえも貫くだろう。
アダマンタイトを加工するにはアダマンタイトの道具を使うしかない。
作業用のアダマンタイト性アカシックニードルで少しずつ分子構造を緩め柔らかくして少しずつ曲げに入る。
特に数センチの小さなものである、右目にはめた拡大眼鏡で慎重に作業する。
最後にバリを取って滑らかにする。
嬢ちゃんが怪我をするからな。
1時間ほどかかったが、根本をL字に曲げ完成した。
グエンが持ってきた虹色に輝くアダマンタイト製のニードルフェルトアート用ニードルを手にしたその少女は感涙を流した。
グエンが特別にサービスであつらえた専用ケースに入れて渡すと少女は何度も何度も頭を下げて嬉しそうに帰っていった。
こんないい気分になるのは1000年ぶりかも知れない。
もう会うこともないだろう少女を送り出してなんだかマリアの顔を思い出していた。
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