第14話 連邦国の選択

 時の連邦国王を失ったフローラル連邦国は前の連邦国王であり賢君と呼ばれた10月王国の国王に臨時代理の白羽の矢を立てた。


 国民世論、特に10万人を供物に差し出せと言われた野鼠人たちは激怒し、「徹底抗戦」を新連邦国王にねじ込んだ。

 フローラル連邦国の人口の3/4は野鼠人で占められておりいわゆる民主主義国家では全面戦争になっていたことであろう。


 しかし10月王国国王はある意味冷徹で合理的な思考の持ち主であった。


 ①の野鼠人10万人を供物にすれば人口の大部分を占める野鼠人の反乱は必至であり連邦国は戦争に突入して全滅する。


 ②の領土割譲はたちまち食糧危機を引き起こし、食糧の奪いあいによる戦争によりまた滅亡が近づくであろう。


 全ての要求を拒否すれば当然の帰結ながら連邦国全土がドラゴン1万匹の餌場となることは火を見るより明らかである。


 10月王国国王は密かに氷の巫女マリアを召喚した。


 「そういうことであればわたくしがドラゴンパレスに赴きましょう。ヘブンズドラゴン川の浄化は魔導技術で,なんとかなるかも知れません。後日クラフツマンのグエン・バン・ドエトフリッツ・カールトンをお召しください、王の力になってくださるでしょう。」


 こうして氷の巫女マリアは自らマスタードラゴンの元へ行くことを決めたのである。

 1000万連邦国民を救うために。


 氷の巫女とはそういう人物であった。

 もちろん愛するグエンに話すことはなかった。

 マリアは人知れずわずかな供を連れて12月王国北門に赴き、迎えに来たドラゴンの持つカゴに静かに入るとそのままドラゴンと共にドラゴンパレスに去ったのであった。


 ****


 グエンはそんなことも知らず、自分のなすべきことをなしていた。

 連邦国の方針転換も知らず、日々ドラゴンキラー武具の製作改良に没頭している。


 前のドラゴン討伐で劈開へきかいして破損したアカシックニードルの残骸はグエンの工房に持ち込まれ、改良点を必死で探していた。

 アダマンタイトといえどある方向からの限界を超えた力には弱い、これの告白が当面の目的である。

 

 その週はマリアは遊びに来なかった。


 次の週も。


 心配したグエンはマリアの屋敷宛に手紙を書いた。


 その返信に記されていたのは「マリアがドラゴンマスターに殺された」という内容であった。


 

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