第13話 ドラゴンパレスからの使者
ドラゴン討伐失敗から程なくしてドラゴンパレスの支配者、ドラゴンマスターからの使節団が12月王国北門前のバンカーヒルに姿を現した。
恐竜のような荒々しい外見にもかかわらず、暴れるなどの行動も取らず、統率の取れた数十匹のドラゴン団である。
北門を守る衛兵はその巨体に恐怖におののきながらも死ぬ気で門を守るつもりであった。
「我はドラゴンマスター様の使者である、貴国の王に我が主人のメッセージを届ける、1ヶ月以内に返答されたし。」
澱みのない連邦国共通語で話しかけてくる、大きさはともかくかなりの知性を持ったドラゴンのようだ。
ドラゴンの使者は立体ホログラムのメディアを届けさせると地響きを立てながらドラゴンパレスに帰って行った。
この立体ホログラムはAIが内蔵されており簡単なやり取りができるものである。
ドラゴンマスターは自らの要求以外の選択肢を与えるつもりはないのでこれを届けたのだ。
文字通りの問答無用、受け入れなければ全国民がドラゴンのエサ、と言うことになる。
このメディアは早馬に乗せられて現在の連邦国王に届けられた。
連邦国王と各国の駐在大使の同席する中、ドラゴンマスターのメッセージが再生される。
「貴国は我が国民を襲撃し数十人もの罪もない国民を虐殺した。これに対して賠償を行わなければならない。その方法は3つのうちいずれかを選べ。」
「①貴国には野鼠人が多く住んでいると聞く、10万人を賠償として供物とせよ。」
「②貴国の領土のうちヘブンズドラゴン川の東側を割譲せよ。」
「③貴国にはこの世界の唯一無二の存在である『氷の巫女』と呼ばれる聖なる少女がいると聞く、この巫女を差し出せ。」
「本来なら3つとも求めるところであるが、我がマスタードラゴン様の温情によりいずれか一つの選択で可とする。」
「1ヶ月以内に返答されたし。」
「返答のない場合、及び3つとも拒絶した場合には我がドラゴン族1万を持って連邦国全てを踏み潰し食い尽くすこととする。
それが故なく我が国民を殺害した報いである。」
ここでメッセージは終了した。
先制攻撃を決断した連邦国王は頭を抱えた。
10万人の野鼠人国民を供物として差し出すなど人道上できるはずもない、といって領土の過半数を差し出せば連邦国民1000万人の食を支える穀倉地帯の半分以上を失うこととなる。
氷の巫女は水と氷を司る神聖な聖女であり、彼女を失うことは清浄な水資源を失うことと等しい。国民は大昔のような澱んだ不潔な水を飲まなくてはならなくなるのだ。
どれも選べるものではない。
連邦国王は精神的に追い詰められた。
自分の判断がとんでもない結果となったのだから。
時の連邦国王はその日の夜に自害し、史上初めて連邦国王の席が空席となったのである。
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