第12話 ドラゴン討伐部隊

 英雄、サルバドール・ネクサスの国葬と連邦国王によるドラゴン討伐宣言が行われて12の連邦国各国から選りすぐりの志願兵10万人の軍勢が12月王国北門に集結した。


 グエンの神器、アカシックニードルはアダマンタイトの希少性からまだ量産ができず、とりあえず12基が製作された。

 討伐軍の司令官となった元冒険者ジルベールと11人の精鋭に持たせることにする。


 それにしてもドラゴンたちは不気味なほど沈黙を守っていた。


 1万匹ものドラゴンの胃袋を満たすにはそれなりの獲物が必要である。


 その意味で連邦国の人間は格好の餌でありすぐにでも襲いかかってくるだろうと軍備拡張を急いだのだ。


 相手が襲ってこないならこちらから刺激すべきではないという意見もあったが、1万ものドラゴンが襲ってきたらその被害はどのくらいになるか想像もできない。

 連邦国王は襲われる前の先制攻撃でアドバンテージを取り、被害を最小限にすることを決意したのである。


 12月王国の北門から出た魔境と言われる場所には古来から何千年もの間、犯罪者などが追放されて多くの集落を作ってかなりの数の野生の亜人が住んでいると考えられている。

 ドラゴンたちはおそらくその連中を喰らって胃袋を満たしているのだろうと推測された。ただ、その連中を喰らい尽くせば当然ながら次の餌場は連邦国民、ということになるだろう。

 そうなる前にドラゴンに打撃を与えて牽制し、王国に近づかないようにさせるしかない。ドラゴンを絶滅させることなど不可能なのだから。


 こうして連邦国のドラゴン討伐部隊10万人が12月王国の北門を出発して一路魔境の中心部ドラゴンパレスへと進軍した。


 ところが、ところどころで予想通りいくつかの集落があったのだがそこに住む人、いや、どちらかと言えばほぼまだ野生動物に近い4本足と2本足の中間、知性などは感じられない古代の亜人としか思えない「どうぶつ」の巣穴といったレベルのものである。


 過去に放逐された犯罪者は知性を持った亜人だったはずだ。

 先祖帰りでも起こしたかのような有様は討伐部隊を驚愕させた。


 何かがおかしい。


 司令官ジルベールの冒険者の本能がビンビンと警告を発する。

 しかし何も成果を出さないまま引き返す訳にもいかない。


 ジルベールは得体の知れない不安感を押し殺して先へと進軍したのである。

 

 3日ほど行軍してドラゴンパレスまであと50バラリ(約30キロ)のところに到達した時、「それ」が天から雨のように降ってきた。


 何百、いや何千の「それ」は生きたまま、いや、地面に激突して大半は「さっきまで生きていた」進化を始めたばかりのほぼ野獣の古代亜人だった。

 中には死なずに走り回る者もいる、討伐軍の中には落ちてきた野獣に衝突して命を落とす者も出る。


 あまりの異様な光景にジルベールも指示を出すことができなかった。


 副司令官が勝手に叫ぶ。

「撤収!撤収!」


 異様な事態に指揮系統が乱れたことで討伐軍は大混乱となった。


 落ちてきた野獣は別に討伐軍に襲いかかるわけでもない。

 落ちて死ななかった野獣も目が虚で自分の意思を持たないように見える。

 「全部が」そんな状態なのである。


 ジルベールは何匹かの落ちてきた野獣を斬り殺したが、襲ってくる様子もないことから一旦退却することを決意した。


 その時だった。


 突然数百匹の小さめのドラゴンがどこからか現れて地面に散乱する「それ」に群がり始めた。


 「ヒイ!」


 ふいを突かれた討伐軍は一気に意気地をなくしてなり散り散りに逃亡を始める。


 そこにもドラゴンたちが食いつき始めた。


 アカシックニードルを持たされた12人の将軍は応戦する。


 ニードルの力は絶大で、硬いミスリルの鱗を簡単に貫通し、ドラゴンの本体に大ダメージを与える。

 足を狙えば動けなくなるし、頭や首を刺せばドラゴンの脳神経系を破壊して殺すことができる。


 しかしプロトタイプのアカシックニードルは数匹のドラゴンを倒すと「劈開へきかい」して破損してしまった。


 数十匹のドラゴンをなんとか倒したものの、数百匹のドラゴンに襲われては勝ち目はない。

 討伐軍10万人のうち半数はドラゴンに喰われて生きて北門に逃げ込めたのは5万人足らずに過ぎなかった。

 軍隊において50%の損耗は壊滅を意味する。

 ドラゴン討伐部隊の先制攻撃は大失敗に終わったのである。

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