第11話 婚約と禁忌の針

 「おはよ、グエンくん。」

 マリア先生が俺に優しく口付けをする。

 朝起きたらマリア先生と一緒の毛布に包まっていた。

 俺は少しだけパニクっていた。


 もちろん40年も憧れ続けアタックを続けたマリア先生と結ばれたのだ、嬉しくないはずはないのだが、状況が状況だけに素直には喜べなかったのだ。


 おれは布団の中で両手両足をピンと伸ばして硬直こうちょくしていた。

 全裸のマリア先生の温かく柔らかい肌と豊かな胸の感触が襲いかかったからだ。


 「ど、どうして。」


 俺はロボットのようにカクカクとした動きで顔だけをマリア先生のほうに向ける。

 そこにはなんとも言えない優しい眼差しまなざしのマリア先生が微笑んでほほえんでいた。


 マリア先生は500歳近いはずだが、初めて会った40年前と少しも変わらない、13歳の少女のような姿のままであった。もっとも巨乳だけは年相応としそうおうなのだろう。1万年は生きると言われている氷の巫女の一族にとっては40年はほんのいっときのことなのかもしれない。

 グエンも長寿のドワーフ族であるが40年の月日のうちに15歳の少年から25歳くらいの青年の外観へと変化していた。

 豊かなもじゃヒゲはドワーフのアイデンティティなんだろう。

 俺はマリア先生が親友を亡くした俺に同情してくれた、それで慰めてなぐさめてくれたのかもしれないと思っていた。銀狼という男との情事の場面も見てしまっている。でもそれでもいいと思った。


 「どうしてって、あなたが私にずっとプロポーズしてくれていたのよ。最近来なくなっちゃったからもう嫌われたかと思ってた。」


 「でも、マリア先生にはずっと断られ続けて、、」


 「あれはいつもいつも二人で一緒に来るからじゃない。あれじゃその場でOKなんてできないじゃないの。キミが抜け駆けして来てくれたら多分OKしてたわ。」


 あれはマリア先生の優しさと配慮だったのだろう。


 「わたしだって木石ぼくせきじゃないわ、何十年も一途いちずに思ってくれていた人なら私の長い人生のほんのいっときその人に捧げてもいいと思うの。」


 俺は迷うことなくマリア先生の胸に顔を埋めたうずめた。そして改めてマリア先生を大好きな自分を再確認した。


 (サルル、ごめんよ、抜け駆けぬけがけみたいになっちまったけど許してくれるかな。)


 俺は心の中で何度も何度もサルバドールに謝った。


 「マリア先生!今は大変な時だけど今回の事件が片付いたら結婚しよう。」


 「グエンくん、嬉しい、約束だよ。」


 「マリア先生!それでお願いなんですが、銀狼ぎんろうとかいう男とは別れてください。!お願いします。」


 突然の申し出にマリア先生はポカンとして、それから何か気がついたようだ、そして童顔どうがんに似合わない声で大笑いし始めた。


 「グエンくん、従者の子じゅうしゃのこの銀狼のこと?は女の子よ。」


 一瞬何が起こったか理解不能だった俺は頭が真っ白になった。


 一呼吸おいて俺は初めてマリア先生に口付けされた時よりもさらに真っ赤になって茹ったゆだったタコみたいになった。


 「ええええええええーー!!」


 俺とサルルはとんでもない勘違いかんちがいをしていたようだ。


 「テメェおもしれえなあ!」


 マリア先生は13歳の少女の顔に似つかわしくない言葉遣いことばつかいでニヤッと笑った。


 そんなマリア先生もチャーミングだった。


 こうして俺とマリア先生は婚約をし、俺は王都の工房に戻って忙しい毎日に没入ぼつにゅうした。


 マリア先生は時々巫女の業務の合間に銀狼ちゃんを連れて王都に遊びにきてくれるようになった。

 父さんに紹介したら喜んでくれた。

 400歳も年上の姐さん女房になるマリア先生を紹介する時は流石にドキドキしたのだが、父さんも俺が15歳の時からアタックを続けてきたことを知っている。

 反対などするつもりもなかったようだ。


 おれもマリア先生との結婚のためにさらにオタク道を極めることにする。

 持ち帰ったドラゴンのうろこ、あれを破壊するアイデアをいくつか思いついたのだ。


 鱗の硬さはミスリル級なのでこれを破壊するにはこの世界最高の硬さを誇るアダマンタイトを使うしかない。

 そして希少なアダマンタイトの使用量を減らすために「ニードル」状の武具に仕上げることを考案したのだ。


 さらに、この極細ごくぼそのニードル先端には仕掛けがしてある。微細びさい魔力振動まりょくしんどうを与えることでその分子結合力ぶんしけつごうりょくを弱めて内部破壊ないぶなかいを行うというとんでもない発明であった。


 ここにドラゴン討伐とうばつの切り札となる神器じんぎ、「アカシックニードル禁忌の針」のプロトタイプが誕生したのである。


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