第10話 マリア先生再び
王都に戻った俺は多くの素材を父の工房に届け、その足で王立大学へと向かった。
学長である王弟陛下に謁見し、ことと次第を報告したのである。
その場に冒険者ジルベールも呼ばれてドラゴンの数についても報告を行う。
王弟陛下と冒険者ジルベールの顔から血の気が引くのが見てとれた。
その日はそのまま退出し、サルバドールの葬儀については緊急時ではあるが、これまでの国への貢献を考えて小規模ではあるが、王国葬とすることが決まり、軍備増強の必要もあるので葬儀は1週間後と決まった。
その日に合わせて国王が王国に最大の危機が迫っていること、そして全国民が一致団結してことに当たらなければならないことを全国民に伝えるのである。
サルバドールは救国の英雄として祭り上げられることも決まった。
本人には思いもよらないことだろうが、古今東西問わず国の危機には英雄の存在は絶対に必要なのである。
大学を出た俺は魔洞窟の方角に向かって手を合わせた。
あの時には不思議と涙は出なかったのだが、今になっていろんなものが込み上げてきて涙が止まらなくなった。
ああ、もうサルルと会えないんだなと。
二人でバカ騒ぎしたこと、マリア先生に一緒に何度も何度も一緒にプロポーズを続けて一緒に玉砕したこと、いろんなことが頭の中をぐるぐる駆け回り気が狂いそうになっていた。
「マリア先生に会いたいな。」
ポツリと独り言を言った。
自然に足がマリア先生の屋敷に向かう、もう止められなかった。
マリア先生は屋敷に迎え入れてくれ、いつまでも俺の話を遮ることなく聞いてくれた。
涙でぐしゎぐしゃになった顔と髭に構わずぎゅっと抱きしめてくれるマリア先生。
「グエンくん、本当に悲しかったんだね、苦しかったんだね、本当によく頑張りました。いいよ、気が済むまで泣きなさい。」
大学の外でもう枯れ果てたと思った涙はまた滝のように流れ出て止まらなくなった。
本当にどこにこれだけの水分があったのかと思うくらい、生まれて初めて号泣した。
覚悟も何もなく、突然の別れだったのだ。
それは俺の心を激しく掻き回した。
もう自分ではどうにもできないのだ。
なんで俺はあの時に無理矢理にでも手を引っ張らなかったのか。
なぜ俺も一緒に魔洞窟で弾け飛ばなかったのか。
一人だけ生き残った罪悪感が今更ながら俺の心を責め立てた。
「マリア先生!マリア先生!」
叫び続ける俺の口はマリア先生の唇で塞がれてしまった。
こうして俺はあれだけ恋焦がれたマリア先生と一夜を共にしたのである。
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