第8話 サルバドール・ネクサスの死

 サルバドールとグエンは物陰に隠れてドラゴンの隊列が途切れるのを待った。


 しかし10時間が過ぎ、20時間が過ぎても魔洞窟からドラゴンが湧き出すのは止まらなかった。

 二人は数千匹までは数えたがそれ以降数えるのをやめた。


 あまりのことに二人は思考が完全に止まっていた、いや、止まっていて正解であったかもしれない。

 正気で理性的であればこの数の巨大なドラゴンが王国を襲えばおそらく誰も生き残れないだろう。

 古代史でしか知らない恐竜が闊歩していた時代に逆戻りなのである。


 23時間が過ぎようとした時に魔洞窟に異変が始まる。

 出てこようとしたドラゴンの何匹かが何割か命を落とし始めている。

 

 「いかん!洞窟が閉じてしまう。」


 サルバドールはドラゴンがまだ出ようとしている洞窟に向かって駆け出してしまった。


 「ま、待て!サルル。」


 グエンも半分正気を失っている。

 反射的にサルバドールの後を追った、ドラゴンに襲われる可能性があることなど頭から吹っ飛んでいた。


 サルバドールとグエンが魔洞窟の入り口に辿り着いた時には出てくるドラゴンの半分以上が弾け飛び命をおとしていた。

 なんとか生きて出られたドラゴンはグエンたちのことなど目もくれずに仲間の行列に加わる。

 

 魔洞窟の入り口に突入する二人。


 サルバドールは躊躇なく飛び込んだ。


 グエンも続こうと飛び込みかけたその時。


 

 サルバドールは一瞬振り返り、グエンに向かって歓喜に満ちた、そして哀愁の漂う、なんともいえない表情を見せた。


 そしてグエンを突き飛ばし、その反動で魔洞窟に「落下」した。


 「サルル!」


 グエンの叫びも虚しくサルバドールの体が魔洞窟に達したと思われる瞬間、形容しがたい青っぽい稲妻とともに友の身体はバラバラに弾け飛んでいった。


 サルバドールに突き飛ばされたおかげでグエンは命拾いした。


 そして魔洞窟は静かになった。


 周りには夥しいおびただしい数のドラゴンの死骸が残っている。


 グエンはその場にヘナヘナと座り込んでしまったまま朝日が昇り、明るくなるまで立つことができなかった。


 サルルが死んだ。


 周りのドラゴンの死骸を見てそう確信した、

 サルバドールが最後に見せたあの顔、グエンは脳裏に焼き付いて離れなかった。


 不思議なことに親友の死に涙は出なかった。

 あまりに信じられない事態が続き、頭がおかしくなったのか、満足そうな顔を見て納得したのか、自分でもよくわからなかった。

 長年一緒にバカ騒ぎしてきたことを思い出してみたが、なぜかあまり詳しくは思い出せなかった。

 

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