第6話 大厄災

 惑星大直列わくせいちょくれつ当日、朝から王国内はその話題で持ちきりだった。

 朝のニュースからその話題ばかりで天文に興味のない人はうんざりするほどである。


 天文学の権威てんもんがくのけんいサルバドールは本来なら当日のメディアに引っ張りだこになるのだろうが、その日に限ってどのメディアにも登場しなかった。


 実はサルバドールはその権力を利用して大規模な探検隊を結成し、惑星大直列と北の魔洞窟との関連を研究するという名目で王国から1億ディナールもの予算を引き出したのである。

 本当の目的はサルバドールの私的してきな目的のためである。

 壮大そうだい公費こうひ私物化しぶつかであった。


 「おい、サルル、本当にやるのか。」


 「ああ、グエン、決心は揺るがない、必ず中にはいってやるさ、もちろん生きて出てくるつもりだ。」

 「それなら構わない、俺たちは親友だ、どこまでも付き合ってやるぜ。」

 

 王立大学関係者ではないグエンが探検隊に参加できているのもサルバドールの権力の濫用けんりょくのらんようである。

 グエンはほとんど友人とのピクニック感覚で参加しているのであった。


 サルバドールたちの探検隊一行は魔洞窟の南方2.5バラリ(約1.5キロほど。)の位置にキャンプを張った。

 魔洞窟の直近に張らないのは念の為である。過去の記録では疫病えきびょう病害虫びょうがいちゅうなども記されている、そう言ったリスクも考えてのことだった。


 洞窟の奥はどこまで続いているかわからないので食糧や武器弾薬、医療チームも備えている。屈強くっきょうな冒険者も護衛ごえいとして10名ほど雇っている。

 まさに万全の備えばんぜんのそなえだ。


 キャンプで準備をさせている間、サルバドールとグエンは数名の冒険者を伴って魔洞窟の様子を見に行った。

 グエンは及び腰だったが、サルバドールは構わず魔洞窟の入り口に進み、小石を投げ入れてみる。


 ビシッと音がして石が弾け飛ぶ。


 まあまだ惑星大直列は始まっていないので予想通りだ。


 グエンはその様子を見て少し怖気付いておじけづいてしまった。


 「おい、サルル、本当に大丈夫なのか?」

 少し青ざめた感じのグエンが不安そうに尋ねる。


 「ああ、まだ惑星大直列は始まってないからな、予想通りだ、おそらく大直列が始めれば石を投げ入れても大丈夫になるだろう、そうすれば探検隊も入れるだろう、まあそんなに心配するな。」


 サルバドールは自信に満ち溢れた言葉でグエンを勇気づけた。


 キャンプに帰った一行は魔洞窟の異変が起こるまで食事を済ませ、休憩を交代で取った、腹一杯食べたグエンは不安感も忘れてグースカ眠っていた。


 「さあ、いよいよだな、オレの長年の夢が叶う時だ。」

 サルバドールは全く眠くはならなかった。

 科学的根拠はまだないのだが、この魔洞窟に入ることで無限の寿命を手に入れてこの親友とまたずっとバカができる、そんなことを夢想していた。

 その時までは。


 キャンプに地震のような地鳴りが響いてくる。


 「始まったか、おい、みんな!出発するぞ。」


 サルバドールが号令をかけると探検隊の面々は各々自分の役目をまっとうする。


 冒険者たちは改めて武具を確認して探検隊を先導する。


 魔洞窟から1バラリ手前まで進む、地鳴りは大きくなり魔洞窟に異変が起きていることは明白だった。

 サルバドールは歓喜かんきに満ち、興奮気味こうふんぎみに先へ先へと進む、グエンは半分寝ぼけながら着いて行った。


 そしてその歓喜は絶望へと突き落とされる。

 魔洞窟の間口はそこそこ大きなものなのだが、どんな物理法則ぶつりほうそくなのかわからないまま「それ」は出てきた。


 遠目とおめには,トカゲに見えるは魔洞窟の間口まぐちを遥かに超えるサイズのものだった。

 至近至近で魔洞窟の実際の大きさを確認していたサルバドールもグエンもその巨大さをつきつけられる、もちろんその時同行していて洞窟の大きさを知っていた冒険者はその危険を察知する本能ほんのうが激しく反応した。


 「逃げろ!みんな!早く!」

 叫んだのはベテラン冒険者のリーダー、ジルベールであった。


 探検隊の一行はパニックに陥り、荷物を投げ捨てて王国の北門へと走った。


 「サルル、あれはやばい、走るぞ。」

 完全に目が覚めたグエンはサルバドールの腕を掴んで冒険者たちに続く。


 まさに信じたくないレベルの大厄災であった。

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