第3話 天を司る七星の賢者

 あれから30年の月日が流れた。


 グエンはドワーフの父の片腕としてはるか遠方の国から武具の指名オーダーが来るほどの凄腕職人すごうでしょくにんとなっていた。

 サルバドールは天文の専門家として名を馳せはせ、幾冊も書籍を出版するまでになっていた。

 その業績も素晴らしいのであるが、サルバドールの左手にはいつしか古代ディ・タカンドラ文字で「天」を意味する赤文字が浮かんでいた。


 これは創造主アゼリア・シーフォールドのジャブロー言い伝えにある「七星の賢者」のあかしであった。


 グエンは友人の賢者覚醒を心から喜び祝福した。


 ただ、サルバドールは己の「老い」も感じ始めていた。

 サルバドールはヒト族であり、この世界でのヒト族の平均寿命は60年ほど、45歳になったサルバドールに残された時間は15年ほどなのである。


 グエンは長寿のドワーフ族でありその寿命は3000年を超える、マリア先生にいたっては1万年を超えるかも知れない。


 地位も名誉も手に入れたサルバドールであったが二人との寿命の差を考えるたびに発狂しそうになるのである。


 グエンとサルバドールは30年間マリア先生にアタックし続けたが見事に玉砕記録を共に更新していた。


 そんな折、マリア先生に寄り添う狼人の男が出現する。


 「おいグエン!マリア先生と一緒にいる男は何だ!」


 「わからねえ、突然フラッと現れたかと思ったら銀狼と呼ばれてマリア先生と一緒に暮らしてるって話だ。」


 「なんだそれは、マリア先生は何でそんな男と!」


 グエンも狼人を忌々しく思っていたが、サルバドールのそれはもはや八つ当たりを超え逆恨みのレベルにまで変質していた。

 自分の寿命が残り少なくなったこともその逆恨みに拍車をかけていた。


 「おい!グエン。マリア先生のところにあいつのこと聞きに行こうぜ。」


 「そうだな!奴は一体何者なんだ!俺やサルルとマリア先生の間に横から割り込みやがって!」


 二人はすごい剣幕でマリア先生の屋敷に向かった。


 そこで見たものは。





 マリア先生が愛おしそうに男の髪を撫でる姿であった。



 二人は打ちひしがれた、いや、生き甲斐という名のモノを無くしてしまったかもしれない。


 マリア先生に何も聞けずに帰った二人はそのまま何日も寝込んでしまった。

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