第3話

今夜もご来店された。

私が気になる彼女たち。


いつも3人でご来店されるその人達は、いつも実に楽しい会話をしている。

ぜひその楽しさを私だけでなく皆さんへもお裾分けしよう。


「では改めて〜。」

「お疲れ様。ありがとね。」

「お疲れ様でーす。」

「お疲れ様です〜」

「いやぁ、まさかこんなに派手なクレームが出るとは。」

「本当ですね〜。うちの部署からも対応に駆り出されるなんて、珍しいですよ〜。初めてかも。」

「報告の期限が得意先に勝手に決められたからもう人海戦術でやるしかなかったみたい。営業はなにやってんだよ。もっと交渉しろよ…。」

「原因は温度と牡蠣でしたっけ?」

「そう。温度センサーが壊れてたのに気付かなくて不良の発見が遅れたのと、たまたまいつも担当してた現場の人が牡蠣に当たったとかで、慣れない担当者が初期不良を見逃したって。」

「うわー。なんというか、なんとも言えないですね。それで昨日の夕方ユリさんの部署の辺り、もめてたんですね。」

「私も今朝突然現場行ってきてって言われてびっくりしました〜」

「もういいよ、終わったことよ。忘れよ。飲もう。」

「そうですね〜」



おや、今日は彼女たちにしては珍しくお仕事の愚痴めいたお話しをされてますね。

ユリさんと呼ばれているショートカットの姐御の部署でなんらかのトラブルがあって、その対応にアヤさんと呼ばれる黒髪の美女とユイちゃんと呼ばれるおっとり美人も駆り出された、といったところなんでしょうか。

ユリさんがいつになくお疲れの様です。


気になる続きを聞いてみましょう。


◆愛とは


「この前さ、アヤちゃんの体臭の話しを聞いた後に、酔った勢いのままうちの猫の匂いを嗅いだのよ。」

「動物の足の裏とかちょっとクセになりますよねー」

「そう。元々、嫌がられるけど隙を見ては時々やってたんだけどね。

酔って帰って、しつこくクンクンしたせいか、うちのおはぎとみたらしに嫌われちゃったみたいなんだよねぇ…」

「ユリさん猫飼ってるんですか〜?」

「2匹いるんでしたっけ?」

「そうそう。犬と違って一人暮らしでも飼えて散歩も必要ないじゃない。2匹いれば私がいなくても寂しくないだろうし。」

「おはぎちゃんとみたらしちゃんですか〜。かわいい。なんか意外です。ユリさんはミニマリストなお家に住んでるの想像してました〜」

「いや、全然。むしろマキシマリストと言っていい。モノ沢山ありすぎて収納パンパンだよ。いざというときに備えて猫砂とフードと自分用のトイレットペーパーは買い溜めしてるし。」

「沢山あると言えばネコのDVDとかも前にお借りしましたよね。すごい長いシリーズの。」

「世界ネコ歩きね。全シリーズあるよ。トムジェリは10巻だけどネコ歩きはねぇ…シリーズありすぎて保管に場所取るんだよねぇ。最近は4Kになってやたら画質がきれいで一度見始めると飲みながらつい最後まで見てしまうし。」

「いやいや、長いシリーズって言ったらあれでしょ?『どうでしょう。』。人間が旅するやつ。あれもなかなかのボリュームですよねー。お借りした後ハマってうちも買っちゃったから人の事言えませんが。」

「あぁ…あれもそうね。

最近はDVDが増えちゃって、服しまってる場所にまで侵食してるんだよねぇ」

「まあ、収納場所は有限ですもんね〜。」

「そうそう。だからさ、最近は服のたたみ方を工夫して収納量の限界に挑戦してるのよ。こう、幅をそろえて、くるくるっと巻いて、立てて入れると普通にたたむより沢山入るじゃない?シワにはなるけど。

で、そうやってこっちが一生懸命たたんだ洗濯物をさ、いざ引き出しに入れようとすると、猫がきて上に乗ったりするのよ。

たたんだ物の上に。少しでも厚みが変わると積載効率が落ちて引き出しに入らなくなるのにさ。

クンクンする前はしなかったから、これは猫なりに抗議の意を表してると思うんだ…。」

「洗濯物で積載効率がでてくるあたり、いよいよ限界な感じですね。

まーでも、ちょっと嫌われてもごはんをあげるのは飼い主のユリさんなんだし、すぐに媚びてにゃーんて甘えてくるんじゃないですか?愛情込めてお世話してる訳ですし。」

「あぁ…それがさぁ…。

この前うちの部、今日程じゃないけどしばらく忙しい時期があったじゃない?」

「あ〜なんかお祭り騒ぎみたいになってましたね。

休日出勤やら夜勤やら。あんま聞いたことない単語が出てたのは聞きましたよ。」

「そうそう、その頃。帰ってからごはんあげると深夜になっちゃうし、それまで水はあるにしろお腹空かせるのかわいそうだから買ったんだよね。自動給餌器。カリカリマン2。多頭飼いでも大丈夫な2カ所から出るタイプで、スマホで遠隔操作も出来るし、タイマーで時間になると一定量出てくるようにも設定できるすごいハイスペックなやつ。」

「なんか…すごいいろいろ吟味されて購入したのは伝わりました。」

「吟味したよぉ。機能と値段とデザインと…。ネーミング意外は文句なしだと思ったんだよ。

でもね、買ってから気がついたの。

彼らにとってごはんをくれるのはあのマシーンであって私じゃなくなったってことに!

つまり、あのカリカリ野郎がいる限り私に媚を売らなくてもうちの子はごはんを食べられるんだよ…

だから私は嫌われたらもう挽回するチャンスがないんだよ…」

「いや、でも、カリカリ野郎の中身がなくなったら補給するのはユリさんじゃないですか〜?」

「補給してるとこ見てたってネコからしたら飼い主は、ごはん持ってるのにくれない人になっちゃうんじゃない?あくまでも出してくれるのはカリカリマンでさ?」

「あぁああ…」

「あ〜そっかぁ。そう言われればそうか〜。じゃ、しばらくカリカリマンを休ませて、ユリさんから直接ごはんをあげるのはどうですか?」

「ああ、そうですよー。仕事はもう落ち着くでしょうし。」

「! そうか、そうだよね!

別にカリカリ野郎に気を使わなくてもいいんだよね。私がごはんあげても別に…。

あぁ、そっか、なんかおはぎがカリカリマンにスリスリ懐いてるの見てなんか嫉妬してたのかも。私以外の人にもスリスリするなんて!って。ショックだったのかも…」

「カリカリマンに嫉妬?」

「カリカリマンどんな形状なんですか?人型?」

「白い、四角い、加湿機みたいな形」

「完全に無機物ですね…」

「ユリさん、ちょっと働きすぎですよ〜。明日はゆっくり休んでくださいね〜。」

「とりあえず帰ったらカリカリ野郎の電源切りましょう。」

「最終兵器ちゅーる、っていうネコまっしぐらアイテムもコンビニで買えますから。ね?愛を取り戻しましょ?」

「結局食べ物でつるしかないのか…愛ってなんだろう…」

「なんか一見すごい深い問いに聞こえますね〜。」

「いやー、深くないない。」

「カリカリマンに嫉妬するユリさんよりは単純で分かりやすいもんだと思いますよ〜。猫の愛。」

「おはぎぃーみたらしー…」


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