第三夜

「お願いします」




 夜勤に行く。ただそれだけのことなのにどうしても身構えてしまう。




「徹、ちゃんと寝れた?結構眠そうだけど…」


「あ、はい。大丈夫です」




 嘘だ。本当はよく眠れていない。


理由としては、コンビニにいるナニカに怯えている自分がいること。そして、最近家の中にいても、ヒトの視線を感じることがあるからだ。


 誰も居ないはずの家。そのはずなのに。



 











「じゃあ俺こっちの棚の納品やっとくから、そっちよろしく」


「オッケーです」




 時刻は丑三つ時。深夜の納品が来たのだ。


 俺と先輩の二人で納品作業を進めていく。幸い、今日は数が少ない。


 野菜や冷凍食品を棚に出していると、一人の客が来た。




「いらっしゃいませ」




 深夜だからと言って声のボリュームを下げたりはしない。バイトではあるが店を夜の間守らなければならないため、"監視されている"、という意識をお客さんに持たせなければならない。


 客のおばあさんは、順番に棚を周り、やがてレジに来た。先輩が納品をやっていたので、俺も納品の途中であったがレジを引き受けた。


 おばあさんは、カゴいっぱいに弁当、飲み物、おにぎりを入れて来た。一つ一つバーコードをスキャンしていく。




「3623円頂戴いたします」




 このコンビニはセルフレジであるため、お会計は客がやる。


自分の立っている向こう側でパネルを操作しお会計を進めるおばあさんは急に、こちらをキッ、っと見て一言放った。




「あんた、大丈夫?」


「……はい?」




 急に言葉を発したと思えば、なんだこの人は。何に対して大丈夫、という心配を言っているのか。




「この店は……気持ち悪いね。そしてあんたも。あんた、飲み込まれてるよ」


「どういう意味でしょうか」


「アタシには、どうしようもないけどね。これだけは言っとくよ」




 そういうとおばあさんは、レジ袋に包まれた商品を持ち、入り口に向かって歩きながら言った。




「ここから去りな。さもないと、抜け出せなくなるよ」




 現在も同じバイトを続けているが、このおばあさんは二度と、俺の働くコンビニに姿を現すことはなかった。













「お疲れ様でした」


 9時になり、バイトが終わった。今回は客が多く来店したのでかなり疲れていた。


 先輩の車に乗って、帰路に着く。


 車を運転している先輩が、急にこちらをバックミラー越しに見ながら話しかけてきた。




「そういえばこの前、お前女といただろ!彼女出来たのかよ羨ましいなあ」


「……いや、彼女じゃないですよ」


「え?おっかしいなぁ…俺の見間違いか?」




 彼女ではない。だって、ソレは俺が一番よく知っているから。




「ミテル、ヨ?」




 今も、俺の身体に巻き付いて離さない、"カノジョ"だということを。

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