第20話 ローマの休日
ジュリーの話を聞いていたラッキースター7世は、頷き、そして微笑みながら返した。
「私は、正直言って、金銭欲とか物欲とかは全く無いのです。物心ついた時からお金も物もあり余るほどあったしね。欲といえば、私の場合、代々の当主よりも大きい仕事をしたい。人々の尊敬を集めたい。と云った子供じみた名誉欲だったんですよ。
だけど、それも、この歳になると何処かへ出て行ってしまったみたいでね。ジュリーと同じ様な心境かな」
ラッキースター7世は、席を立って窓から中庭を見下ろした。
その時、
中庭に緑色のプラズマが現れ、七色の閃光が交差し始めた。そして、プラズマが消え去ると、そこにはスバルサンバーがあった。
ドアを開け、最初に出て来たのはパティー夫人だった。
「おい、パティー、どういうことだ?」
ラッキースター7世は、驚いて叫んだ。
「あら、あなた、ちょっと里帰りをしてたのよ。お土産も買ってきたわよ」
パティー夫人は、土産の袋を高くかざした。
ラッキースター7世は、急いで階段を駆け下りるとパティーの側にやって来た。息が上がっている。
「確かに突然現れた。この目で見た。何が何だかよく分からん」
「あなた、ワープって言うんですって。面白いのよ」
「ワープ?」
「そう、いわゆる瞬間移動ね。それよりこれこれ。買ってきたのよ。前にも話したでしょう。サクラメントのカフェ・トラップの苺のゼリー、本当に美味しいのよ」
パティー夫人は、困惑する夫を前に優越感に浸っている。
「パパ、この車にはワープシステムが搭載されているんだ。何処にだって瞬時に行けるよ。此処に居る渡辺教授が開発したんだ。さすが、ジュリー先生のボスだけあって、超天才だな」
ポールが、ワープシステムの概要を説明した。ラッキースター7世の渡辺を見る眼差しがどんどん変わって行く。渡辺はすでに後ろに倒れそうなほど反り返っている。後ろで、カレンが、かろうじて支えている。
「本当かね、なんだかにわかには信じられんが・・・」
「あなたも乗せてもらったらいいのよ、もうワンダフルよ」
パティー夫人が、少女のようにはしゃぐ。
「いいですよ。今度は何処に行きますか? 今までお二人が訪れた街で一番素晴らしかった街にもう一度行ってみましょうか」
渡辺は、ヨイショに余念がない。金持ちのご機嫌を取っておいて損はないことを、この男は本能的に心得ている。
「一番素晴らしかった街ね………そうね、それぞれ忘れられない思い出があるけど、一つだけ選ぶとしたら、そう、ローマ、何と言ってもローマよ!」
パティー夫人の心はすでにローマに跳んでいる。
「ハネムーンで行った街なんだ。やはりローマだな」
ラッキースター7世がちょっと照れながら相槌を打つ。
「では、ローマ行き特急便が発車しますよ。さあ、乗った乗った」
その、数秒後、スバルサンバーは、ローマの大通りを走っている。
「オー・マイ・ガー、アンビリーバブル、グレイト、グレイテスト!マーベラス!」
ラッキースター7世は何度も叫んだ。
「この通りをね、私たち、グレゴリーとオードリーに成り切って、スクーターで走ったのよ。気が付いたら何組も成り切りカップルがいるじゃない。笑っちゃったわよね、あなた」
側のパティー夫人の言葉も耳に届かない。ラッキースター7世の興奮は冷めそうにもなかった。
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