第18話 提示金額

 早速ですが、今日はお願い事があってやってきました」

 ジュリーが話し始めようとした。だが、それを制して、ラッキースター7世の方から話し始めた。

「いえ、お願いがあるのはこちらの方です。博士のご用件と言うのも大体分かっております」

 ラッキースター7世は、ジュリーの開発した小型常温核融合発電機『リトル・サン』のことをすでに詳しく知っていた。最初に購入した正体不明の会社が、ラッキースター研究所のダミー会社だったのだ。研究所でリトル・サンの分析が行われ、つい先日、画期的発電システムで、安全性にも全く問題がないことが報告されてきたことを話した。

「早速、特許を譲っていただくか、それが無理としても、ライセンス生産ができないものか、相談に上がろうと思ってたところなんですよ」

 ラッキースター7世は、すでに敏腕ビジネスマンの顔になっている。

「ですが、あなたたち、あらぬ罪を着せられて逃亡中だというじゃありませんか。何処に居るか分からないとなると交渉しようがない訳で、困っていたところなんです」

「それはそれは失礼しました。全くドジな女で、やる事なす事、とんちんかんで、こっちは巻き込まれてしまって大変なんですよ、ハハハ」

 渡辺が間に入って、揉み手をしながらへつらう。ラッキースター7世と言う権威の前に、すでに茶坊主に成り下がってしまっているのだ。 

 ラッキースター7世は、渡辺を完全に無視して続けた。

「こちらから出向かないといけないところ、来てくれたんで大助かりです。感謝してます」

「いえ、私も逃げるところが無くて飛び込んできた次第です。ご迷惑じゃなかったかと思ってます」

 ジュリーの掛け値なしの本音だ。

「しかし、東大あずまひろしと言う男、何度か会ったこともあるのだが、あんなひどい奴とは思わなかった。何年か前の原発事故の賠償の事もあって、焦りもあったんだろうが、やり方が汚すぎる」

 ラッキースター7世は、ほとんどの経緯は分かっているらしい。CIAに匹敵すると言われるラッキースター財閥の情報収集能力は半端ではない。 

「では、本題に入りたいのですが、よろしいでしょうか」

 ラッキースター7世は、そう言うと威儀を正した。

「ええ、どうぞ」

 ジュリーも威儀を正した。そして、カレンに部屋から出るよう促した。渡辺もカレンと一緒に出ようとしたが、

「あなたも特許の1%は権利あるのよ。ここに居てもいいのよ」

 渡辺を引きとめた。

「いいよ、俺、こういうこと苦手だから任せるよ.さぁ、カレン行こ行こ、邪魔者じゃまものは立ち去るのみだ」

 渡辺とカレンは出て行った。遍路姿の二人は、出て行く時に「チ~ン」と鐘を鳴らして合掌した。せめてもの抵抗である。


「そちらから金額を提示していただけますか。私共が考えている上限の範囲内なら言い値で支払います」

 ラッキースター7世は切り出した。

「では、申し上げます。1億でいかがですか」

「3億…………それはいくらなんでも安すぎる。世界が引っくり返るような発明だ。私は、1000億は覚悟しないといけないと思ってるんですよ」

「いえ、私のような者が思わぬ大金を手にすると身の破滅の元ですから」

 ジュリーは答えた。

「しかし、3億にしたって大金と言えば大金だ。なにか合点がいきませんね」


 ジュリーは、この3億という金額は開発にかかった費用1億5千万と私財を投げ打って長年にわたり基礎研究をされたH大の水道橋教授とO大の高野教授に支払うべき金額の合計で、これさえ回収できれば利益は要らないのだという説明をした。


「それにしても、1億5千万もの開発費用、何処から捻出したのですか?」

 ラッキースター7世の問いに、初めて、ドルと円を勘違いしているのが分かった。

「私の預金からですわ。1億5千万円、円です」

「………」

「合計3億円ということは、400万ドルですか。いやはや、それは欲が無さすぎる。そんな金額でこの特許を手に入れたとなると、私の方が非難される。強欲爺ごうよくじじいにされてしまいますよ」

 ラッキースター7世は、困った顔で言った。  

「いえ、3億円で結構です。ただし、条件があります」

「条件?」

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