第17話 ジミー・ラッキースター7世

「これが世界一?」

 ポールには、まだワープの実感がない上に、日本製のこの箱バンは、ポールの頭で想像するところのワープ装置からは対極の位置にある。つまりは、恰好悪すぎなのだ。

「おい、若いの。人間も機械も見てくれじゃないぜ」

 子供が玩具を自慢するのと気分は同じだ。渡辺の言葉を側でカレンが同時通訳をしている。とりあえず、後ろに倒れそうな渡辺の背中を支える役目からは解放されていた。

「さぁ、乗って、乗って、あんな車でブッ飛ばしたりしたら危ないわよ。もしものことがあったら、あんたのママ、狂っちゃうわよ」

 ジュリーが強引にポールをスバルサンバーに押し込んだ。

「これがワープ装置?」

「そうだよーだ」

 カレンが、助手席ではしゃぐ。

 渡辺は、ポールのママのバースデイパーティーとやらが催されるラッキースター家の別宅に座標軸を合わせた。

「カレン、行くぞ、そーれ、ワープ!」

 渡辺とカレンは、ワープするときは何故かこの言葉を合唱する。


 芝生が敷き詰められた広い中庭に車は現れた。

「はい、到着ですよ」

 渡辺が天井の計器のスイッチを切りながら言う。


「グレイト、グレイテスト、マーベラス!」


 ポールが、あたりを見渡しながら感嘆の声を上げる。

 カレンが、早速、車から出て中庭を走り回っている。子供は芝生を走り回るのが好きだ。

「あらあら、この子、どこの子?」

 上品な身なりの初老の婦人が、走り回るカレンを見つけて近寄って来た。遍路姿の子供にたいそう興味をひかれたらしい。

「ママ、僕のお客さんだよ」

 ポールが返事をした。

「あら、ポールじゃない。早かったわね。まだパーティーは準備もできてないわよ」

「いや、遅れそうだったんで、この車で連れてきてもらったんだ。あっという間に着いたよ」

 ポールが指差した車を見て、パティー・ラッキースター夫人はけげんな顔をした。

「たいそう速そうな車ね」

「そう、世界一、いや、宇宙一かな」

「………?」

「また後で説明するよ。それよりパパは? この人たちパパに話があるんだって」


 ポールに案内されて、別荘の中に入った。別荘と言っても、ちょっとした宮殿ぐらいの大きさはある。

「俺の住処とえらい違いだな」

 渡辺が、きょろきょろ辺りを見ながらジュリーの耳元で囁く。。

「比べる方がどうかしてるわよ」

「…………」

 三人は応接室に案内された。ポールの父親、ジミー・ラッキースター7世が、にこやかな笑顔で三人を迎える。ポールが三人を父親に紹介した。

「ジミー・ラッキースターです。あなたが、ジュリー・ワシントン博士ですか。お噂はかねてよりポールから伺っております。ポールがたいそうお世話になったそうで、遅ればせながらお礼申し上げます」

 見上げるような大男だ。頭は禿げ上がって大海坊主おおうみぼうずかと思わんばかり。肩幅が尋常ではない。かつて、ハーバード大学野球部のエースで、IBリーグの奪三振の記録を持っているというのも頷ける。ちなみに、その時にバッテリーを組んでいたのが、前大統領 ジョン・F・ボキャナン。ちなみに、ちなみに、その時に二番を打っていたのが、ディック・スモーラー・ジュニアで、奪四死球と犠打の記録を持っている。当たってもいないのに、当たったふりをして退場になったこと、しめて8回、これもIBリーグの記録である。

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