第16話 近頃の若い者には

 ボストン郊外のポール・ラッキースターが住むアパートの駐車場に、三人の乗った箱バンは緑のプラズマとともに現れた。ボストンは真昼間だ。深夜の日本からいきなりやって来たので日光に目が眩む。

「確かこのアパートだったような気が……?」

 ジュリーが、車から降りて駐車場の側に建っているビルを見上げながら言った時、

「ジュリー、ジュリー先生じゃないか、ワオー!」

 若い男が駆け寄ってきた。

「ポール、久しぶり、元気にしてた」

 二人はハイタッチを交わす。

「元気、元気、ところで、何で此処に? なんか、日本で指名手配くらって逃げ回ってるってニュースでやってたけど」

「あら、もう世界のニュースになってるのね。そうよ、逃げ回って行き場がなくなって此処にやって来たってわけ」

「しかし、どうやって…………?」

 ポールはワープシステムの事は知らない。アメリカ合衆国政府によって情報は完全に管理されているようだ。

「ワープよ、ワープして来たのよ」

 ジュリーが答えた。

「でも、ワープって? もしかして、瞬間移動のワープ?」

「そう、それそれ、ピンポーン」

 ジュリーは、ポールの戸惑う顔を見て笑っている。

「で、その恰好は……?」

 三人とも、まだ遍路姿のままなのだ。

「お遍路さんやってたんだもーん」

 カレンが答えた。

「カレンじゃないか、大きくなって」

 ポールはカレンを抱き上げた。

「で、こちらの方は……?」

 ポールは、カレンを肩に抱いたまま、車の横に立っている渡辺を見て、ジュリーに訊いた。

「渡辺教授、一応、私のボスよ。このワープシステムの開発者」

 ポールの渡辺を見る目がいっぺんに変わった。

「やっぱり噂は本当だったんだ。日本の渡辺って学者がワープシステムを開発したが、アメリカ政府が厳重にこれを管理しているという噂がここのところしきりに流れてたんだ」

「そう、そのとおりよ。噂は本当よ。ただ、私がいなかったらこうも簡単にはいかなかったでしょうね」

 ジュリーは、一言付け加えるのは忘れなかった。。

「あなたが渡辺教授でしたか、お会いできて光栄です。ポール・ラッキースターと申します。駆け出しの研究者です。よろしくお願いします」

 ポールは渡辺に近づくと握手を求めた。

 渡辺は、握手をしながら上機嫌だ。

「おいおい、ジュリー、近頃じゃ珍しい礼儀正しい若者じゃないか。ポールって言ったね、気に入ったよ。ワッハハハ」

 体は反り返り、後ろに倒れそうだ。カレンが背中を支えている。  

「ポール、何処かお出かけみたいね?」

 ジュリーは、ポールがスーツケースを携えているのを見て訊いた。

「今日は、ママの60歳の誕生日でね、バースデイパーティーがあるんだ。今から出るんだけど、車でブッ飛ばしても間に合いそうもないんだ」

 ポールは、愛車のZのドアを開けながら言った。

「Zかよ。普通じゃねぇか。てっきり、ランボルギーニとかフェラーリなんてのを期待してたんだけどな」

 渡辺が呟く。

「間に合うわよ。でも、そんな遅い車じゃ駄目よ。世界一速いこのスバルサンバートランスポーターで送って行くわ。あなたのパパにお話もあるし」

 ジュリーが、箱バンを指さしながら言った。

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