第7話 二人の懸賞金

「どさくさに紛れてうまいことやったな。大将、びっくりしてたぞ」

「どさくさなんて言わないでよ。私たちには愛があるのよ」

「私たち? よく言うぜ。あんたの一方的愛だろう」

 スバルサンバーは、早朝の東北自車動車道を北上している。車にはカレンを加えた三人が乗っている。学校に行ってカレンを拾い研究室まで戻った時、すでに研究室は取り囲まれていた。ジュリーのマンションの周りにも目つきの悪いのが大勢うろついている。ろくろく準備もおぼつかぬまま逃走を始めるしかなかった。

 とりあえずの金が無い。慌てふためいて逃げたので、金は二人の持ち合わせと借りた山竜の一日の売上合計、\.158,781….


「なんか、腹減ったなぁー、飯でも食おうか」

 渡辺の腹は先程からピーピー泣いている。

「そうね、腹が減っては戦はできぬって言うしね」

「戦に負けて落ち武者になってるという方が正確だな。しかし、よくそんな古い日本語出てくるな」

「おじいちゃんの口癖だったのよ。深く追求するな」

「ああ、分かったよ。次のサービスエリアで何か食おう」

「そうね」

 サービスエリアの食堂で一番安いかけうどんを三人で食べた。食事が終わって一息ついているところに、テレビの速報テロップが流れた。


“怪しげな発電機を売り歩いていた二人組に逮捕状が執行されるも、二人は現在逃走中の模様。発電機は放射能漏れの疑いが濃厚”


「おいおい、遂にお尋ね者かよ…トホホ」

「そのようね」

「他人事みたいに言うなよ」

 

 テレビの画面が臨時ニュースに変わった。アナウンサーが原稿を読み上げる。

「小型常温核融合発電機、リトル・サンを販売していた男女二人組、渡辺太郎教授とジュリー・ワシントン助手に逮捕状が執行されました。リトル・サンは放射能漏れの危険性が高く、もし漏れれば重大な事態を引き起こすことになりかねないと原子力委員会は指摘しています。ほとんどは回収されましたが、まだ10数台回収できておりませんので、お持ちの方は速やかに届け出てください。

 なお、二人は、現在逃走中です。スバルサンバーを使用していると推測されています。二人のほかに、ジュリー・ワシントンの娘、小学校5年生の児童を連れていると思われます。

 また、二人には、帝都電力様のご協力により、それぞれ、ジュリー・ワシントンに一億五千万円、渡辺太郎に150万円の懸賞金が掛けられております」

 そのあと、二人の写真が画面にアップになった。 


「すげーな。一億五千万だってよ。聞いたか?」

「ああ、聞いたよ。捕まえたら一生遊んで暮らせるぜ」

「ハッハッハ…トラックの運ちゃんなんて、とっととおさらばだぜ」

 食堂にいたトラックの運転手たちが、盛り上がっている。

 おそらく、全国で同じ事が起こっているのだろう。一億五千万と言う金額は、日本国民すべてにインパクトを与えるに十分だ。今までの数百万単位の賞金とは違い、二億の眼が二人を追いかけることになる。


「何でジュリーが一億五千万で、俺が150万なんだよ。傷付くじゃねーか」

 渡辺はぼやく。ぼやいているような場合じゃないのだが、百分の一の評価額は、さすがに気が滅入る。

「なかなかいい線付いてるわね」

 反対に、ジュリーはご機嫌だ。ご機嫌やってるような場合じゃないのだが。 

 その時、アナウンサーが、新たに差し出された原稿を読み始めた。


“ここで新しい情報が入りました。容疑者二人が乗っていると思われる軽の箱バンが、東北自動車道を北に向かっている映像が自動車道に設置されている自動カメラに捉えられました。間もなく映像が映し出されると思います。しばらくお待ちください”


 数秒後、箱バンが走っていく姿がほんの一瞬映し出された。


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