第3話 ジュリーの営業

 最初の販売先は、ワープ装置の売り込みで渡辺が失敗した『関東日本ツーリスト』だった。ここの社長、近藤鉄三は快く会ってくれた。ジュリーの説明を聞いて納得はしてくれたが試用期間が欲しいと言う。とりあえず、本社ビルでひと月ほど試してみてからの契約ということになった。


「トップを落とせは後はチョロイもんよ」

 ジュリーは、帰りの車の中でうそぶいた。

「すごいな。あんた、営業やらせても天才か?」

「何言ってんのよ。これ、渡辺に教えてもらったんじゃない」

 渡辺は、ワープ装置の売り込みをした時に自らうそぶいたセリフはとうに忘れている。

「それにしても、あの30階建のビル位だったらリミッター外せば1台で十分だろう。30階だから30台は必要ね、なんてよく言うぜ。ほとんど詐欺じゃねぇか」

「あのね、詐欺と言うのは被害が出て初めて詐欺なのよ。被害が出るどころか、反対に儲かるんだから詐欺なんかじゃないわよ。人聞きの悪いこと言わないでよ」

 リトル・サンをセットするのと同時に、売電のセットもしておいたのだ。

 売電の設備は、渡辺の仕事だった。1台で2万円の仕事だったが、簡単な仕事で重宝した。これでノーベル賞が取れるのだから笑いが止まらない。


 それからひと月ほどして渡辺の研究室の電話が鳴った。

「すごい、本当にすごい! 電気代が本当に只だ! おまけに売電料が1500万、代金、今日、口座に振り込んでおいたからな。売電料で釣りがくるよ。しかし、どうなってんだ? わしゃ、分けがわからん」

 近藤鉄三の興奮した声だった。

 あくる日、近藤鉄三は研究室までやって来た。おおよそでいいから仕組みを聞かせてくれという。ある程度仕組が分からないと、使っていて気味が悪いらしい。

「わたしにも全部分かっているわけじゃないんです。8割程度かな。2割はまだ分からないわ」

 ジュリーは、これはすでに確認されている現象で、自分はある程度の理論的根拠を構築した上で、実用化したのだと言う。実験段階では、H大の水道橋博士や、O大の高田博士らによって成功しているのだと説明した。

「お前、理論的根拠もあやふやなままで、物だけ造ったのか?」

 渡辺があきれて言う。

「そうよ、2割の部分はまだ分からないわ。でも、結果があるんだから使わない手はないじゃない。最初に火を使った原始人、これは何故燃えているのかなんて考えて使った? そんな訳ないじゃない。炭素と酸素が化学反応を起こして熱を出すのが分かったのは、人類が火を使い始めて何十万年も後のことよ」

「そうか、そういう考え方もありだな。俺たち学者はすぐに理論、理論という。理論で説明できない事象はなかなか認めない。悪いとこかもしれんな」 


 関東電鉄グルーブの総帥で財界の重鎮でもある近藤鉄三が、企業を紹介してくれることになった。近藤鉄三の紹介は金看板を掲げて営業に行くようなものである。順調に在庫は減り始めた。

 大会社だけではない。近藤鉄三の小学校の同級生がやっている葛飾柴又の小さな印刷工場、日のひので印刷にも行った。出て来た親父は、人がよさそうで、且、スケベ丸出しの剥げた親父だった。

「社長の太宰だざいです。鉄ちゃんにはイカ社長と云われてます。鉄ちゃんから聞いてるよ。あの赤パンのジュリー先生でしょ」

 親父は、名刺を差し出しながらにやけた顔で言った。

 だが、ジュリーは一向に意に介さない。すでに営業モードに入っている。

 名刺を差し出し、

「そうです。赤パンのジュリーです。この度は私共の商品を試していただけると聞きまして、急いで参上しました。早速説明をさせていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか」

 と切り出した。


“凄い! 一流の営業だ!”


 渡辺は感心した。

 一応の説明が終わり、では、という段階になって、日の出印刷の社長の太宰は、また、にやけた顔で言った。

「ジュリー先生のパンチラもう一回見てみたいね」

「あら、あんなのでよかったらいくらでもお見せしますわよ。残念ながら今日は赤じゃなくてピンクですけど」

「ピンクか、そりゃそりゃ、なおさらいい」

「では失礼して」

 と言うと、ジュリーは机に片足を上げてピンクのパンティを見せた。

 そして、

「毎度ありがとうございます」

 と言うと、契約書を差し出した。 

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