第2話 ノーベル賞に釣られて
販売開始から三か月、ついに、ジャポネット今井の今井社長からテレビショッピング打ち切りが言い渡された。ジャポネット側もヘンテコな商品に固執して会社のイメージに傷がつくことを恐れたのである。
倉庫には、まだ495台の在庫が眠っている。三か月で5台しか売れなかったのだ。打ち切られても文句は言えない。
「あかん、もうあかんわ、どないしょう」
ジュリーは、毎日宙を見つめて呟く。完全に思考が停止しているのだ。いくら知能指数300だと言っても、思考が停止すれば0と言うことである。
「コツコツ訪問販売でもしたらどうだ。フーテンの寅さんみたいに全国回ってよ。なんだったら俺の箱バン貸してやってもいいぞ。あれなら世界中回れるぜ」
渡辺は、からかったつもりだった。
だが、
「それいいわね。いっぺんに沢山売ろうとするから難しいのよ。大きな事はできませんが、小さな事からコツコツとよね」
ジュリーは、立ち上がってガッツポーズをしている。
「大―きな事はできませんが、小さな事からコツコツと」
今度は西川きよしの
「しかし、何でそんなの知ってるんだ?」
「子供の頃、おじいちゃんとビデオで漫才見てたもんね。やっぱヤスキヨが最高!」
「そうか、何で時々大阪弁が混じるのかよく分かったぜ。しかし、小さな事からコツコツともいいが、地球と人類救うのに何百年かかるぞ」
早速、あくる日から訪問販売が始まった。渡辺は運転手をやらされることになった。ジュリーは車の免許を持ってないのだ。営業と言っても、昼間は大学の仕事があるので、夕方からと土日祝日に限られる。
「何で俺が運転手やらんといかんのだ?」
最初は、きっぱり断った。
だが、
「渡辺、あんた、ノーベル賞なんて欲しくない?」
ジュリーは、交換条件を出してきた。
渡辺は息を飲んだ。
「欲しいに決まってるだろ。しかし、そう簡単に貰えるもんじゃないぜ」
「簡単よ。今まで何人も取らせてあげたわよ」
ジュリーは、あれを取るにはコツがあるのだと言う。
【それは、「馬鹿」になることらしい。この科学者の世界、普通の学者より2~3年先に行って自惚れているのをキッドと言い、5~10年先に行ってるのを天才と言う。20~30年先に行ってるのはゴッドと呼ばれ、50年以上先に行ってるのはマッドと呼ばれる。ノーベル賞と言うのは、キッドとゴッドとマッドには与えられない。5~10年先を行っている天才クラスを対象とした賞なのだ。だから、ゴッドとマッドはノーベル賞欲しけりゃ、天才クラスまでレヴェルを落とした研究をして、論文を書けばいいのだ】
ジュリーの説明はざっとこんなもんだった。
だが、ノーベル賞の魅力は何と言っても捨てがたいものがある。地位も名誉もおまけに賞金までもが付いてくる。講演の依頼なんかも引く手あまたで、東京大学名誉教授なんてのも十分ありだ。田舎の母校の校門に銅像が建つかもしれない。
「運転手でも何でもしまーす」
渡辺は、二つ返事で承諾した。
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