ワープ 03 ~常温核融合装置~

かわごえともぞう

第1話 常温核融合装置 リトル・サン

 家庭用常温核融合発電機『リトル・サン』は、話題を呼んだが、話題だけだった。全然売れない。発売して一週間になったが、売れたのはわずか2台。買ったのは、放送開始後すぐに注文を入れた正体不明の男と正体不明の会社。あとは問い合わせもない。ちなみに、正体不明の男は、無論、ディック・スモーラー・ジュニアである。二匹目の泥鰌どじょうを狙ってのことだ。


「何で売れないのよ?」


 毎日、ジュリーの愚痴を聞く羽目になった渡辺だが、本質的貧乏人の渡辺にはなんとなくその理由は分かっていた。

 要するに、


「値段が高いのだ」


 \.499,980、50万で20円の釣りがくるというのも人を舐めてはいるが、一般家庭にとって50万円と言うのは、なかなかに「ポン」とは出せない金額なのだ。

 そして


「いかがわしいのだ」


 永遠に電気代が只などと言うことは、信じられることではない。貧乏人は、ちょっとおいしい話には敏感に反応するが、おいしすぎる話には警戒して近づこうとしないものだ。金持ちは、ちょっとおいしい話にも関心を示さない

 さらに、


「また手品かなんかだと勘違いされているのだ」


 これは、前回のワープ装置が、うやむやのうちに消えてしまったことに起因する。また、同じようなパターンの芸を引っ提げてこのジュリー、渡辺のコンビが出て来たと世間では受け取っているのだ。


「どうするのよ。まだ在庫相当残ってるのよ。倉庫代も馬鹿にならないし」

 売れることを見越して、500台を造っておいたのだが、売り出して一か月たった今も売れたのは、たったの3台。

「どうするったって、これには俺は手伝いはしたが、ほとんどタッチしてないんだからな。特許権だって俺の分は1%じゃないか。ジュリー、あんたが、地球を救うとか何とかでかいこと言って開発したんだろ、自分が責任とれよな」

「冷たいわね」

「まあそう言うな。俺も多少は関わったんで、とりあえず1台買ってやるよ。まけとけよ」

「え! ホント、毎度ありがとうございます。大サービスと言うことで、2万円ほど勉強させてもらいます」

 ジュリーは、慣れぬ揉み手をしながら満面のスマイルである。

「たった2万かよ。それにしても、コロコロ態度変わる奴だな」

 もう少し値切ってやろうかと思った時、ジュリーが言った。

「あのポンコツの箱バンに使うんでしょう」

「………」

 当たりである。


  “それにしても可愛げの無い奴、客の都合まで当てるんじゃねぇ”


 と言いたいところだが、まじめに相手をするのも大人げない。

「まぁーな」

 と答えるしかなかった。

 実際、ワープをするにはかなりの電力が必要なのだが、プリウスの電池を使っている現在では長距離のワープは,2~3回が限界なのだ。この『リトル・サン』を搭載すれば何回でも可能になる。

 渡辺は、現在。この箱バン、スバルサンバー・トランスポーターの改造に余念がない。暇を持て余してというところもあるが、子供が玩具をいじくり回す、あの乗りである。

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