王位奪還作戦
隠れ家にいた娘、リウラ・フェルミエールの容姿にフィアは魅了されていた。
そしてその衣服にも見惚れてしまっていたので、「あなたの姿に化けてもいい?」とフィアは尋ねる。
フィアは隠れ家に通いつめ、さらにはティアトタン国の都内を歩き回っていた。国でここまで自由に動き回った記憶がないフィアは、身分も様々な人たちと話すこと自体がとても楽しかったのだ。
そして一番心を傾けたのが、東方の出身だというリウラだった。リウラの国の紺碧の海の話や、白い砂浜、じりじりと肌を焼く赤い日差しの話を聞き、フィアは心躍らせる。フィアの国からは海は臨めないからだ。
リウラの話を聞いているうちに、フィアは彼女のことが好きになる。そして、先の発言になるのだった。
「寝屋に忍び込まなければいけないの。かの王様は王妃を選んでいるようだから、あなたの姿を借りたいの」
「いいえ、王様好みのお姿でなければ、呼ばれないと思います。私は身分ある者ではありませんもの。ここに来てから、お声がけがあったことはありません。けれど、一夜帰しの王様の噂はかねがね聞いております」
「一夜帰し?聞いていると、少し腹が立ってくるけれど。上手く忍び込むわ。だからお願い!あなたのことが好きなの、その見た目も大好き、ぜひ変身させて」
とフィアが言えば、周りがざわめくのだった。
「好きなの、と姫が告白する場面に居合わせることは、中々ないだろうな」と一人の男性言う。以前石を放って来た男性だ。
通い詰めていくうちに、隠れ家の面々とも親しくなる。フィアの「あなたのことが知りたいの攻撃」により、降参したと言ってもいい。その男性も、フィアのことを「フィア、よく来たな」と言って迎え入れるようになっていた。男性はセオルと名乗っている。
「セオルからもお願いして。リウラの姿を借りて、上手く王を陥落するからって」
フィアが言えば、男性は大笑いするのだった。
「王を陥落、してみろよ。リウラ、さっさと許可しろ。この面白い姫様に、王位を奪還してもらおう」と言うのだ。
周りからの後押しを貰い、ようやくリウラから許可をもらう。ビアンカを通して手に入れた魔法の封じ込めた指輪を使って、褐色の肌に赤毛の姿、そして、緋色の紗の着物を纏い、フィアはすっかりとその姿に変身した。
ただ一つ、瞳の色だけは変えられない。仕方ないのでベールで顔の上半分を隠すことにした。
こうして、リウラ・フェルミエールに変身し、従者をともなって王との謁見を希望する。アルフレートの後押しを貰い、宰相の父へ口添えしてもらった。カール・ディトリッヒは甘い菓子に目がないので、たっぷりのケーキや焼き菓子を手土産に、たおやかな振る舞いで頼みにいけば、話がついた。
「私の国を立て直すには、王との婚姻しか方法がないのですぅ。この通り身一つでやって参りましたぁ」
そんな風に哀れっぽく振る舞えば、効果的だと思うよ、父さんは哀れっぽく頼まれるのが好きだから、と白けた調子でアルフレートが言うのを参考にする。
「気の毒に。協力できることがあればしよう」と言う父をアルフレートは冷ややかに見つめていた。
謁見許可を得て、城に向かうことになる。
※※※
そして今――――。
王の間にいるのは、ほとんどが一見少年少女以下の、若年の者ばかりだ。
エナジーを吸われて少年となってしまったテオドールと、地下国で一度身体を滅ぼしてしまったフィアが対峙しており、ゼクスやアイン、ノインは脇に控えて、様子を伺っていた。
「首を取れ」と首を垂れテオドールが言うが、フィアは首を横に振る。
「必要ない、ただ王位継承の儀をしてほしいの」
「王位を手に入れてどうする。大人しく安寧に沈んでいればいいものを、何しに帰って来た?」
「あなたの追放して押さえつける王政は納得できない。地下国でも争いが起こっているし、あなたは後継者のノインまで追放した。それは許されない」
後継者、の言葉にテオドールとゼクスの間で、微妙な空気が流れ始めたのを、フィアは知らない。フィアはノインが自分とテオドールの子どもだと思っているが、そうではないことを、テオドールとゼクスは知っている。
「お前が王にふさわしい証明は、どこにある。前王はもういない。継承権を証明できる者はいないだろう」
「それは、そうかもしれないけれど。じゃあ逆に、テオあなたが王を望む理由は何?お母様が亡くなったことが原因なの?この国に幻滅したから?」
テオドールはフィアの髪の房を取る。
「お前を生んだのが、この国ならば少しばかりは価値があると思った。だが、それは幻想だ。そもそも根腐れしたこの国はどうにもならない」
「フィアが生まれたこの国は嫌いではない、だな」
と後ろに控えていたゼクスが口を挟み、テオドールはそちらを睨みつける。
「申し訳ない。王の言葉には、少々翻訳が必要だと思ってな」
と嘯くのだ。
「今度会ったら、殺すと言ったはずだが」
「いや、フィアを頼む、ではなかったか?」とさらに飄々と語るゼクスに、テオドールは歯噛みするのだ。
「何を言っているの?」
「この通り。そちらの国の姫君は魅力的だが少々鈍感だ。そして、どうも友人に許す範囲が広いらしい」
「敵に塩を送るような真似をするのが、王都の流儀か」
とテオドールは言う。
「騎士道精神と言ってくれ。降参して、女王陛下を擁立するのもまた、愛の注ぎ方かと思うが。怪力とそして異形なる姿を持つ女王、最高だ」
と賛辞を述べるゼクスにテオドールは顔をしかめて、「理解しかねる嗜好だ」と吐き捨てた。
「王位が欲しいならば、強引に奪えばいい。宝剣を使わせて同じように継承の儀をすれば、王位継承権は移行する」
「それでは意味がないでしょ。テオが納得して、私に王位を渡して欲しい」
じっと見つめて見れば、テオドールの深淵な瞳の奥に、迷いの色が浮かぶのが分かる。ゼクスは愛し方、と言っていた。矢面に立ち痛みを引き受ける、愛し方?
テオドールは権力が欲しいだけだと思っていた。
「土台無理な相談だ。女であるお前を王として擁立はしない」
「矢面に立ち、護る。それが、あなたの愛し方なの?」
と言ったら、テオドールが目を見開いた。そしてその頬が少しだけ赤みを帯びるので、フィアの方が驚いてしまう。
「テオ?」
テオドールは何も言わず、じっとフィアを見つめて来た。かと思えば、
「そうだ。その愛らしい姿が傷つくのは見たくない。自分だけの元に閉じ込めたくて仕方ないんだ」なぜかゼクスが言い、
「そこのお前、黙っていろ」とテオドールが言い放つ。そのコンビネーションにフィアは目を見張った。
この二人はほぼ初対面と変わりないはずなのに?なぜそんなに息があっているの?と。
「あなた達は、打てば響くみたいな感じね。変なの」
「テオドールはフィアの友人であり夫なんだろう?そして、ノインの父だろうか?とても興味深いな」
「お前」
とテオドールはみなまで言わずに、ゼクスを睨みつけるが、当の本人はどこ吹く風だ。
ゼクスが「友人」の言葉を当てつけのように使うのは、かつて、その単語に過剰に煽られてしまった自分への戒めでもある。ただ、それは、フィアももちろん、テオドールも知るよしはない。
「お父様たち、楽しそうだね?」
「楽しそう?僕にはバチバチ火花が見えるけど」
奇妙な三角関係に、アインとノインは首をかしげていた。ノインは少しだけ気を他にやっている。
「お前達。すっかり忘れてくれているけど。俺にも継承の権利があるはずだ」
と王の間の隅で、横たわっているクロストが言う。
「ラヌス王を討ち取ったのは」そう言いかけたところで、テオドールがなけなしの魔法で、口を封じる。
「お前は論外だ。即座に追放したいが、今は魔力が足りない」とにべもなく言うのだ。
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