可愛いわたしの子ども達へ

 フランツ・ヴォルモントは一時的とはいえ、魔法エネルギーが戻って来たことにとても満足していた。庭園のバラたちはとても健やかに育ち始めていたし、魔法エネルギーのこもった鉱物たちは光り輝いている。森林も青々と茂っているし、川の水一滴までエネルギーが充溢していて、土地そのものが喜んでいる、とフランツは思うのだ。


 アインとのアインの奮闘を想像し、またフィアやゼクスの幸いを祈りながら、彼らに密かにご褒美をあげようと思っていた。

 フランツからすれば、この大陸にいる者たちはすべて、可愛らしい子どものようなものだ。ご褒美には何がいいだろう?と思っていたところで、ビアンカ・オイラーから連絡が来る。


 ビアンカはフィアのごくごく親しい友人であり、フランツからしても交易を好む彼女はありがたい存在だ。各地の面白い品物を集めてくれるのだった。

「私達の姫様が、魔法を封じ込めた装飾品を作りたいそうです」

 とビアンカから届いた手紙は端的だ。続けて、封じ込めたい魔法が記されていた。

 一、変身魔法

 二、能力の封印魔法

 三、封印解除魔法

 ……と。

 希望する魔法が書かれている。

 最後には、可愛い姫君のために、お願いしますね。と締めくくられていた。


 フランツの領地でとれる草木から抽出できる魔法ではあるが、フランツ自身は魔法を抽出する技術はない。どこからか、技術者を連れてくる必要があった。我らのような者たちが強硬手段をとるのはいけない、と長年妹には言われている。けれど、今回はご褒美だ、多少の強硬手段は、大目に見て欲しい、とフランツは自分に自分で言い訳をするのだ。

 妹であるライアだって、時にはかなり強引な手を取るじゃないか、とも思う。

 庭園に魔方陣を描き、息子を呼び寄せるのだ。


 白衣を纏った温和な顔つきの青年に、フランツは告げる。

「やあ、君の友人のために尽力する気はあるかい?」と。

「ちょうどよかった、父さん。今王都は大変だよ。地下国から色々な人たちがぞろぞろと出ていている」

 とのんびりとした口調で言うので、まったく大変そうではない。彼はどんな場面でもこのペースを維持している。

「君の叔母様が、あちこちでそそのかすからだよ」

「父さんの妹君でもあるけれどね。父さんからすれば、可愛い妹の所業だから。大目に見るのかな」

 と青年は言う。

「それはともかく、君の大事な友人のために、その技術を使ってくれないか?」とフランツは言うのだ。

「フィアとゼクスだね。地下に落ちたきりだったから、気になっていたんだ。ただ、前にフィアのリキッドの調合を失敗をしてしまったことがあるんだ。混ぜるつもりではなかった魔法を混ぜてしまった。申し訳ないことをしてしまったと思う」


 どこをどう失敗したのか、青年は誰にも話していない。けれど、

「その失敗は、実は大きな成功だったかもしれないよ」とフランツは言う。

「とにかく」ビアンカの手紙を見せて、この魔法を宝石に封じ込める必要があるんだ。と告げた。

「分かった。お詫びの意味も込めて、善処するよ」と青年は言う。

 その代わり、終わったら研究所にちゃんと送り届けて欲しい。とも青年は言うのだ。友人が取り計らってくれた研究職に、彼は誇りを持っていた。

 彼、ルインの貢献により、魔法の抽出に成功する。


 その後、フランツのコレクションの宝石の中に、魔法を封じ込めた。これはフランツの得意とするところだ。

 磨き上げた宝石の中に、魔法を注ぎ込む。フィアが望むものを得られるような手助けをしたいと思う。それでこそ、ご褒美だ。

 フィアの瞳の色のエメラルドや、ゼクスの瞳の色に似たブラウンダイヤモンド。ノインやアインの瞳にも似たルビーやイエローダイヤモンドなど、フランツ選定の宝石の中に注ぎ込んで、指輪に加工した。かの王様の瞳の色のブラックダイヤモンドも用意する。大切な友人達のために、手を動かすのは本望だ。

 フィアに関しては友人というよりは、本来親族であり、もっと言えば姪なのだが、フランツはそうは思っていない。アイル・エレボスがフランツの本来の名前だが、この名前はとっくに捨てていた。

 出来上がった宝石を、ビアンカあてに送る。

 幸いを祈るよ、と書き記しておく。


 フランツからすれば、この大陸、もっと言えば万物が可愛い子ども達なのだ。

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