西方征伐

 リュオクス国から伝令が来る。ヴォルモント公爵からリュオクス国王から西方地域の支配権を持つ者の投降が求められた、と伝令が来たのだ。つまり、リュオクス国王は西方征伐を開始しようとしているのだろう。

 王の目的は恐らく、リュオクス国による大陸の統一だ。


 フィアの国を始めとして、大陸には小国が複数存在しているが、おおむね王都よりの統治をしている。前戦争と無関係である以上、王都にとってはそれほどの脅威ではないはずだ。


 ガルド人が負傷したことにより、以前王が口にしていた西方征伐のきっかけを与えてしまったようだった。

 フィアは間もなく出産を控えており、間が悪いのは事実だ。そろそろ促進を促し出産をしてしまった方が良い、とフィアは思っている。テオドールに知られる前に、赤子の様子を知っておきたかったのだ。


 テオドールはリュオクス国との戦争もいとわないようだが、ティアトタン国の戦力が十分だとは思えない。魔法を封じていない点においては、こちらに分がある。とはいえ、かつてリュオクス国との戦争で、ティアトタン国は破れているのだ。


 前戦争での敗因は、ティアトタン国内での裏切りにより、敵国に武器を与えてしまったことだったという。地下国に隠されていた強力な武器を奪われたことにより、ティアトタン国は破れたと言われている。

 今武器がどこに隠されているのかは分からないが、分が悪いのには違いない。


「出産を急いで、私が投降するわ。私なら騎士団に紛れられるし武器の所在を確認しに行く」

 とフィアが言えば、テオドールには却下される。大人しくしていろ、と言うのだ。テオドールがフィアに従順な妻であることを求めているのは明らかだった。


 私が相手でなければ、テオももっと幸福でしょうに、とフィアは思う。もっと生来心根の柔らかい相手であれば、テオドールの希望は叶うだろう、と思うのだ。


 半ば強引に結ばれた婚姻関係において、全身全霊を明け渡せ、とテオドールは求める。テオドールはフィアの身体の隅々までを調べ尽くし、

「オレの名を呼べ、他のことは一切考えるな」と求め続けた。


 とはいえ、人の心を自由にすることは出来ない。

 フィアもまた、テオドールの支配下に居続ければ、いつか窒息するに違いなかった。

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