[追憶•天界動乱-序]
††
───
天界・西都地方…電子技術の発達した"季節のない街"で顕現し、効率化された生活環境で育ち、時に割り切った判断を必要とされた。今のベルフェが清濁併せ呑むような性格をしているのは、そういった環境も影響しているのだろう。
───反骨雷鳴、スリサズ・ユピテ。
天界・東宮地方…愛艶やかな春を
そんな2人が、中央区で出会い…お互いの長所を利用し合いながら、力ある神族として台頭していくのに時間はかからなかった。
純粋な力では一歩及ばないベルフェは、口八丁手八丁で場を整えた後、トドメとして2mを越えるユピテの威圧感を利用した。
卑怯な手は好まなかったユピテも、自らの信念を嘲笑った故郷を見返す為だと、ベルフェの頭脳を利用した。
そうでもしないと…既に腐りきった天界では、真っ当な神族として生き残れなかった。
「こんままでは天界は
「ああ、分かっている。その為には、どんな手だって使ってやる…ベルフェ、お前の事もな」
「ハハッ、よかよか!心が強うなかと生き残れんけんな、どんどん利用せれや!」
天界が魔界と繋がっている事は、ベルフェはとっくに分かっていた。だからそれすら利用して魔界に忍び込み、何食わぬ顔で魔族達と仕事を共にした。自分が神族と知って襲ってくる者は、容赦なく
これは、今よりずっと昔の話───
-■■■■年前/天界・中央区-
───いつものように、ベルフェとユピテが中庭で雑談していると…中央区で最も大きな建造物、コロッセウムから
───『エヴィスト様ー!』
───『クライス様ぁ!』
───『ダーズル様、万歳!』
───『最高です!ディスガ様!』
天界の重鎮である"七大老"達を、誉め称え崇め奉る声。
それらは一見、大勢からの
「…気持ち悪か、虚無ん
「言うな、既に連中の
「ケッ、バカバカしか」
呆れ果てたユピテの言葉に、ベルフェも吐き捨てるような答えを返し、休憩も終わりかと重い腰を上げた───
直後
「───ッ!」
眼前に迫った手裏剣様の飛び道具を、済んでのところで弾き落とす。周囲から殺意は感じられず、また直前まで人影は見当たらなかったが───ベルフェは
「おい不意打ちやめれや、
───「ハハッ、悪かったよベルフェ。でも、勘は鈍ってはいないみたいで安心した」
その声の主は、ベルフェの斜め背後から…
少し癖のあるブロンドの長髪に、
「戯れが過ぎるぞファンメル」
「怒るなよユピテ、俺としては君達がもっともっと強くなることを望んでるだけなんだから。それは君にとっても悲願のハズだろ?」
「…物は言いようだな、
ユピテがため息混じりに皮肉を漏らすと、ファンメルの表情は分かりやすく不満に染まる。
「あ、その呼び方嫌いだなァ!俺は偉ぶりたいわけじゃないんだぞ、
「分かっとーけん、ユピテもそげん
「そうそう、何事も
「誉めとらんよ、呆れとーっちゃん」
「酷いな~、俺ショックです」
ファンメルは相変わらず
「…で?こげん所で油ば売っとってよかとか?」
「…意地悪だな、俺が
「ばってん、毎回こげぇして離席でくるとは限らんちゃろう?どげんすると?」
「だから、君達に強くなってもらいたいんだよ。俺は───コロッセウムを外から監視する、
ベルフェもユピテも、目を丸くして固まった。ファンメルは最高神───天界の現トップとはいえ、その発言は紛れもなく天界そのものへの
「正気か、ファンメル」
「俺らが告げ口するとは思っとらんと?」
「ハハッ、まさかぁ。君達があいつらに媚びへつらって、俺を売るような真似をするって?死んでもしないだろ」
「…ケッ、なんでんお見通し、か」
「そりゃあ、君達が中央入りした頃からの付き合いだしね。そうそう、あの頃のベルフェは」
「あーわかったもうよか!それでよかけん!」
ベルフェが慌ててファンメルの言葉を遮ると、ファンメルはニヤニヤ笑うが…すぐにその笑みを消す。その視線は、振り向きざまに再びコロッセウムの
「───自分達の信仰が薄れたからと、
「フン、老害が。影響力を失ったのなら、大人しく退場すればいいものを」
「そう言うなよユピテ、歳を重ねるほど生に執着するものだ。ま、老害、はその通りだけどね。汚い奴ほど死なないんだよな、不思議と」
ファンメルは呆れたように言うと、再びベルフェ達の方へと向き直る。
「一応言っておくけど、俺が別の組織を立ち上げようとしてるのは単なる思い付きじゃない。何年も前から考えてたことだ」
「それは分かるばってん…」
「───あいつら、
ファンメルの言葉を受けて、ベルフェとユピテの表情が険しくなる。
「戦争、って…」
「奴らは魔界と繋がっているのだろう、であれば何処と戦争を起こすと?まさか、人間界に…」
「イヤ、そうじゃない。
「やったら、ファンメルが
「…そうもいかないみたいでね」
ファンメルは…苦笑混じりに続ける。
「俺の神力が
「…そんな」
ベルフェもユピテも、旧知の仲であるファンメルの、突然の予死宣告に顔色を青くした。
───神族はまず、人々の願いを抱えて天界の各地に『幼年期』の姿で顕現する。生まれ落ちた土地で『幼年期』『少年期』を経て最後に『青年期』へと"
その理に背き、減少した"信仰"を水増しして生き長らえているのがコロッセウムの上役達…"七大老"と呼ばれている存在だ。とはいえ、積極的に手を染めているのはそのうち4名ではあるが。"彼ら"は死した人間の魂から記憶と感情を抜き取って"漂白"し、"白痴"と呼ばれるヒトのかたちをしただけの空っぽの存在へと造り変える。そして行動原理に自らを"信仰"するよう、それだけを入力し…ただ己を崇め奉るだけの人形を量産している。
その思いは、ただ
「悄気るなって。神族の
ファンメルはベルフェとユピテの肩を叩くと、中央区の入口…花と虹で彩られた大きな門の方へと視線を向ける。
「俺の後には君達がいる。それだけじゃない、
「…ファンメルの代わりだと思え、と?」
「そうじゃない、味方は多い方がいいだろう?若い神族は良くも悪くも
「何も知らない若い神族を、ファンメルが目指す新時代の旗手にするという魂胆か」
「悪意のある言い方だねェ、もっと表現の仕方があるだろ?ヒーローとか救世主とかさぁ」
「言うがままに従うお人形さんを救世主とは呼びたくないぞ」
「従わせるんじゃない、導くんだ。そしてその立場は、いずれきっと
ファンメルの言葉を聞いても、ベルフェもユピテも腑に落ちなかった。それどころか、ただチヤホヤされて祭り上げられるだけの人形など必要ないと警戒を強めていた。その時…
「…落ち着いてきたか。あ~あ…戻らないと、あいつら何企んでるか分からないからねェ」
ファンメルは
「───ただ生きているだけの木偶に、今更何ができる」
今までの朗らかさが嘘のように、憎々しげに低く呟いた。
「…ファンメル」
「だーい丈夫、何もしないよ。今はまだ、ね。…じゃ、俺行くよ。休憩中に邪魔して悪かったね」
そう言うと、ファンメルは
「…ユピテ」
「分かっている、今の話は他言無用だ…そして、この話が現実になった時は、俺達はファンメルの側につく。だろう?」
「分かっとろうもん、当たり前ばい。あの老害共を一気に蹴り出すチャンス…乗らな損やろうが」
「承知した。お前と意見が合うのは少々癪だが、目指すところは一緒なのだと安心もした。複雑な気分だ」
そこでベルフェは目線だけでなく顔もユピテの方に向け、目を細めて呆れたように返す。
「素直に同じ意見や、って言えんとか」
「癪だと言ったろう…ん?」
ユピテの視線が、ベルフェから虹の門へと移る。そこでちょうど、見慣れない人影───赤毛の"少年"が門をくぐろうとしていた。
"少年"の見た目は15歳前後。横髪だけが長い短髪かと思えば、うなじ辺りで結わえた長い髪が風に揺れている。青いセーラー服のような衣装には、所々に青緑色の軽鎧を取り付け、足元は片方がブーツで片方が草履という一見奇異な出で立ちだった。その瞳は鋭く金色に輝き、今しがた自身を見つめるユピテに気づくと真っ直ぐに視線を合わせた。
「おっ…」
───「
"少年"はやや距離があるユピテに対して、走り寄りながら笑顔で声をかけたものの…
「え、なん…なんて?」
「あー、そういやぁファンメルが言いよったな、南泉出身やって…。あん方言、よりによって
「ベルフェ、分かるのか?」
「俺ん出身は西都地方ばい、分かるわけなかろう」
狼狽える2人を見かねた"少年"は、ああ、と目をしばたたいた。
「
「あ、標準語できると?助かった…」
「このまま意志疎通ができないかと思ったぞ…」
「ほんのこてすま…あ、本当にすまない」
"少年"のまだ辿々しい標準語に、ベルフェとユピテは半分安心半分不安に思いながら、"彼"の言葉の続きを待った。
「
"少年"…ティールはユピテどころかベルフェよりも背が低い程だったが、その真っ直ぐな瞳は希望に輝き、強い光を放っているように見えた。だから───
「(───可能なら、"彼"をこのまま追い返して故郷に帰らせたい。こんな…穢れを知らない綺麗な瞳に、腐っていく中央区の現実を映させたくない)」
ユピテは迷った。ティールが本当にファンメルが言っていた神族なら、追い返すなど許されない。だが、この希望に満ちた瞳の輝きは…中央区にいたら遅かれ早かれくすんでいく事になる。その地獄のような過程を…自分は黙って見ていられるだろうかと。
「…お前に」
「ん?」
「お前に、この天界を変える覚悟はあるか?どれだけ理不尽な目に遭おうと、どれだけ地獄のような光景に立ち会おうと、決して折れないと誓えるか?」
ユピテの低い声の問いに目をしばたたくティールとは逆に、ベルフェは眉を潜め怪訝な表情へと変わる。
「(あいつ…!いきなり何ば聞いとーったい、来たばっかりで此処ん状況が分かるわけもなかとに、質問が重かっちゃん!)」
見かねたベルフェはティールをフォローしようと口を挟む。
「おい、今すぐ結論ば出さんでもよか。まずは中央区ん様子ば見て…」
「ああ、誓おう。
ティールは…機械的でも、悲観するでもなく、笑みすら浮かべて真っ直ぐにユピテを見据えて言い切った。ユピテ自身も、まさか微笑みながら即答されるとは思っておらず、次の言葉に詰まっている。ベルフェの方は…
「役割、な。やっぱりきさんは、他人の意志に従うだけんお人形さんなんか?」
「いいや、違うとも…勘違いさせたようならすまない、だけど
「…フン、ご立派な心やなあ」
ベルフェはつい皮肉を吐いたが───
ティールが言った言葉の
───それ以来、ベルフェとユピテはファンメルの言いつけ通り、まだ若いティールのお目付け役として、中央区での面倒を見てやっていた。ファンメルの言っていた通り、ティールは多くの武芸に通じ、中でも刀を用いた剣術は中央区の熟練兵士でも勝ちきれない程の腕前だった。ティールが用いる南泉剣術の初太刀は重く、対峙した相手は口を揃えて"受けてはならない、避けねばならない"と言う程だった。しかし避けきれる実力のある相手ならまだしも、半端な実力の者がうっかり受けてしまえば、その一撃で勝負が決する事もあった。そうして兵士達を訓練で打ち倒していったティールの名は、着実に中央区に広まっていった。
そんなティールに、武芸百般のファンメルが興味を持たない筈はなかった。それはたとえ、ファンメルに天界動乱の思惑がなかったとしても変わらなかったろう。
「凄いねェ、もう中央区じゃ敵なしでしょ?
「ファンメル、何度も言うがこいつの名は
「ごめんごめん、なんか発音しづらくって」
ユピテの指摘を受け、ファンメルはいつものように
此処にベルフェとティールを加えた4人は、花と緑の咲き誇る中庭で、白い鳥籠のような柵で覆われたスペースにある4人掛の白い小円卓を囲んでいた。雲ひとつない青空の下、何処からか聞こえるピアノの音楽を背景に、いつも通りの雑談を交わしていた。
「どうティウ、中央区には慣れた?
「いや、とてもいい修行になっているし、私の知らない戦法は刺激になっている。彼らは強い、全力で学ばせてもらっている」
「時間ができたら、俺も稽古をつけてあげようかなとか思ったりしてるんだけど、なかなかねェ…ごめんね?口ばっかりでさ」
「おいファンメル、折角の新人を壊す気か?お前が手出ししたら怪我では済まんだろう」
ユピテに咎められたファンメルは、悄気て俯いた───
かと思うと
次の瞬間、ファンメルとティールは座ったまま、そして顔色ひとつ変えないままに
「…へえ、これに対応できるのか。あの2人のスパルタに耐えられるわけだ」
「急に攻撃されるとは思っていなかったから
「あはは、驚いてるようには見えないなァ。俺本気で稽古つけたくなってきたんだけど」
ファンメルはいつものように笑いながら話すが───その実、目は一切笑っていない"本気"の表情だった。そこで、まずベルフェが我に返り…
「おいアホ!こげん所で暴れなしゃんなや!机が
「イヤもう手遅れだな、ヒビが入っている」
「あーあ、後でちゃんと直しとけやファンメル」
「てへ、やっちゃった☆」
そしてファンメルも漸く戦意を引っ込め、顕現していた刀を鍔の状態へと戻す。それを見たティールも、同じように刀を収めた。
「やっぱりなんとか時間作って、君とまた手合わせしたいなァ。君は大物になる予感しかしないよ」
「いや、
「相変わらず堅苦しいなァ~君は、多少訛ったぐらいじゃ笑ったりしないよ。まあ、その訛りを理解できるかは別だけど…俺の出身は同じ南泉地方でも山奥の方だから、君が育った地域とはちょっと距離があるんだよねェ」
「…すまない、今は訛らないよう相手に伝わるような言葉で話すのが精一杯で、会話の柔軟性にまで気が回らない。今後ももし、私の話し方で気に触る事があれば伝えてほしい」
「えっそれ訛りまくっとー俺に対する嫌味か?」
「
ベルフェの意地悪に頭を抱えながら…ファンメルは一息ついて、改めて横に座るティールに向き直る。
「さて…少し前に言った通り、そろそろ俺も動こうと思う。君の実力は十分に知れた、あとは…君に俺の後を継ぐ心の準備ができているかどうかだねェ」
「…正直、私はまだ貴殿には遠く及ばない。それこそ、ユピテの方がずっと適任なのではないか?」
ティールの問いに、ファンメルはため息をついて首を振る。
「ユピテは総合力は申し分ないんだけど、
「ではベルフェは…」
「ベルフェは他人の意見を広く受け入れる柔軟性はあるけど、今度は正面突破の武力に弱い。責任感も強いとは言えないし、何よりベルフェは一定の肩書きに縛られるタイプじゃない。任命するなら最高神じゃなく、最高神の補佐役…自由に動ける遊撃的な立場の方が、ベルフェの持ち味を最大限活かせると思うんだよねェ」
「おう俺ボッコボコやなかか、フォローしきれとらんばい」
ファンメルの意見を聞いても、ティールはまだ納得がいかない様子だった。
「…何故、未熟な私を貴殿の後継にしようと?」
「未熟だからこそ伸び代があるのと…まあ、他のメンツに断られたりしたのもあるんだけどね。一応
「しょ、消去法…」
「冗談だよ…いや今言ったのは事実だけど、君を選ぼうとしているのにはちゃんと理由がある」
ファンメルは笑顔のまま話すが…ベルフェとユピテには分かった。
その笑顔の奥に、
「君が───
その言葉を聞いて、ベルフェは思い出す。
───『
───『誰かの思いには、願いには応えなくてはならない』───
ティールが発した、重い言葉を。
その真意は未だはっきりとは分からない。だとしても、今のファンメルの態度で理解した───あの言葉達はただの綺麗事として発されたものではないのだと、今になってベルフェの心に重石のようにのしかかってくる。
「(…皮肉なんて言わなよかった。俺は…なんも分かっとらんやったとに)」
「…ベルフェ、大丈夫か?表情が暗いぞ」
「………っ!な、何でんなか!」
よりによって罪悪感を抱いた相手であるティール本人に指摘され、慌てて取り繕うが…どうにも気まずさが拭い去れない。それを察したのか、沈黙を破ったのはユピテだった。
「…俺達に対するファンメルの指摘は正しい。ダメ出しをされただけではないし、俺達の活かし所を理解した上での判断なら口を挟むつもりもない。ティールを後継に据えるのならばそれで構わないし、俺がその補佐に回る事に異議はない。むしろ、まだ若い神族に天界の王という重い役割を押し付けるようで気が引けるが、可能な限りの手助けはするつもりだ。それはベルフェ、お前も同じだろう?」
「お、おう…分かっとー、当たり前や…」
「そういうことだ、俺達に不満はない。だからお前が気にする事はない、ティール」
「…了解した。私はまだまだ若輩者ゆえ、最高神を拝命した後も迷惑をかける事が多々あるだろう。ご指導ご鞭撻、宜しく頼む。いかに厳しい言葉であろうと、私は真摯に受け止める所存だ」
3人の話が纏まったのを見届けたファンメルは…
「決まりだね」
「
───ファンメルの声を合図に、宝石からは明るい青緑色の光の束が何本も生み出され、上空へと延びていく。その光は編まれ、折り重なり、徐々に
「
「なんということだ…これだけの神力、いつの間に
「ハハッ…コロッセウムん老害連中、
「わっぜすごい…」
3人が呆然と頭上を見上げる様子を眺めながら、ファンメルは改めて自信に満ちた笑みを浮かべた。
「これが、俺達の居城…老害達が支配する
「軍都…ユグドラシル………」
ファンメルの神力によって生み出された、自分達の陣地を見上げるティールの瞳は…その像を映しながら輝いていた。
「圧倒されてる場合じゃないぞ、これから先は、君がこのユグドラシルの頂点に立って、纏めて、戦っていくんだから。勿論、安定するまでは俺もある程度は助けてあげるけど…これで
「え…これから先、って」
「うーん、もうユグドラシルも建てちゃったし、連中にも視認された筈だよねェ。だから…
ファンメルの発言に、ベルフェとユピテも目を丸くした。
「何もかも急すぎるぞ、ファンメル」
「そうだぞ、式て言うたっちゃ、今聞いたばかりで準備だってなんもできとらんのに…」
「
そしてファンメルは、今できたばかりのユグドラシルへと足を踏み入れる。
「とはいえ、もう少し仲間を増やしておきたいねェ…
「お、おいファンメル…」
「何してるの3人共、ついてきなよ。誰より早く、
ファンメルの促しのままに、ユピテ達3人もその背を追う。建物中央には円陣が描かれた丸い床があり、4人が乗ると上階へ向かって移動し始めた───所謂、壁のないエレベーターだ。
「おぉ、ちょ…
「アハハ、足滑らせたら終わりだからねェ。さすがに柵はつけないとまずいかな、後で追加しておくよ」
ファンメルが笑う間に、4人は最上部へと到達し…
「───わっぜ、すごい」
ティールの金の瞳が、眼下に広がる雄大な景色と、"
「目に焼き付けるんだ。これが───君が、君達が守っていく景色。君達はこの景色を見て、今何を思った?その気持ちを忘れずに…コロッセウムの老害達と喧嘩して、渡り合っていこうじゃないか」
ティールも…ユピテもベルフェも、お互いの顔を見合って苦笑した。此処から自分達の新たな道が始まるのだと、4人は決意を新たに拳を合わせた。
───
"彼ら"はまだ知らない。此処から
後を託したファンメルの笑顔を見るのは、これが最後になる事を。
───純粋
これは、法治院コロッセウムと軍都ユグドラシルの、長い長い確執の始まり。残酷な裏切りと、悲しみの記録。
───「許さない。私は一生、許さない」───
ティールにとっては忘れられない、呪いの記憶───。
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