[幕間•忠義ノススメ]
††
───福岡が死んで、ぼくが生まれた。
なぁんて冗談、冗談♪
福岡が博多は今も健在やけん、安心してよかよ♡
口の達者なぼくの才能を見込んで、オジキはぼくに命じた。
───昼は陽気な落語家・"
───夜は歓楽街を牛耳る
時間をかけて人間界に溶け込み、人間達の信頼を勝ち取れと。
正直、面倒やと
ぼくはこの生涯、オジキに全て捧げると決めとーけんね♡
…言うて、なんでぼくが
ほんのちょっぴり教えちゃる。オジキには内緒ばい♡
-■■年前・???-
───我が軍略は何者にも負けぬ。
───我が謀略は何物にも劣らぬ。
あの小心者の■■も、酒宴に誘い出された■■も。猛き将と謳われた■■ですら、我が調略には平伏していた。
だから
しかし───
『…我が策は不要、だと?』
「不要とは申さぬ。ただ、貴殿に任せたい役割がそうではないというだけの話だ」
『解せぬ!我が軍略を以てすれば、大概の敵対者は
「───私だ」
揺れ動く蝋燭の灯りだけが照らす部屋で、我と向かい合って座る赤毛の"軍神"の双眸が、瞬きもせず我を見据えていた。
『───ふ、』
鼻で笑う、だけでは済まぬ。
『ふは、ははははは!笑わせるな軍神よ、貴殿はまさに、■■のように戦陣の真中に陣取るべきであろう!戦場での役割も理解できぬ者が、戦を語るとは片腹痛いぞ!』
「………………」
"軍神"の顔色は、恐ろしい程に変わらなかった。嘲笑ついでに侮辱してやったにも関わらず、金の双眸は歪むこともなく我を見据えたまま。いくらヒトではないとはいえ、さすがに気味悪さを覚えた。
『心を捨てでもしたか?いっそ貴殿ごと、我が軍略の駒とした方がよいのではないか』
「
"軍神"は相変わらず、眉ひとつ動かさず我を見据えている。しかし…今度はそれだけではない。
「もし私が、貴殿の支配下に置かれる程に弱い意志しか持たぬと分かれば───」
"軍神"が宙に浮かせた片手に───
「即刻、この場で切腹しよう。そもそも、それ程に脆弱な意志なら、私の本懐を遂げることなど不可能。たかだか数年生き延びるだけの
───今度こそ、背筋が凍る。自身が役に立たないならば、この場で死ぬ。そんなことを、"軍神"は感情の起伏すら一切見せずに言ってのけている。歴戦の武士でさえ、自害に追い込まれれば心穏やかではいられまい。しかし…"軍神"の顔を改めて覗き、さらに息を飲む事になる。
その双眸の奥に揺らめくのは、ただ強い意志と覚悟…だけではない。
恐ろしいまでの、
ああ、確かに。
『───無礼を許されよ、軍神殿。我らの世は謀りの渦に荒れておりました故、一息に信用することは叶いませなんだ』
「構わぬ。こちらこそ、登用契約の場に刀を持ち出すなど無礼であった。許されよ」
『お互い帳消し、と相成ったならば…本題を。軍師としての働きでないのならば、貴殿は我に何を求める?』
"軍神"は顕現させていた刀を霧散させ、改めて我を見据える。
「…貴殿には、霊兵の
重い口を開いた"軍神"の言葉に───思わず苦笑が漏れた。
「───
『"殿"など要らぬ、我は───貴殿の配下となるのであろう?』
「配下などではない、対等な協力関係を…」
『
"軍神"は言った。自らには時間があまり残されていないと。だからこそ、我ら霊兵を登用するに至ったのだと。それでも…最期まで魂を燃やし尽くさんとする生き方に、希望と絶望が同居するその瞳に───どうしようもなく、我は魅入られてしまった。
「…遅かれ早かれ滅びゆく身だ。見ていて面白くはないだろうに」
『いや、いや。面白いとも。その眩い魂の輝きを、間近で我に見せてくれ。
そこで、"軍神"は少し驚いたように呆け…やっと、小さく笑った。
「そうだな、この魂が燃え尽きるまで、見守っていてくれ」
…霊兵に、裏切り謀りは法度。だが、我は───
滅びに向かって煌めく、暗く美しい炎に、
††
───それで、ぼくが生まれた。
生まれたっち言うても、オジキ…ああ、"
「さぁて、今日も
ここ博多には、
まったく博多とは、相変わらず退屈せん街ばい。
「…そん前に、『Dragon』で1杯コーヒー飲んでからにしよ♡」
軽く伸びをして、ぼくは夕暮れの橙に染まる街へと溶け込んでいく。
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