[幕間•忠義ノススメ]

††


───福岡が死んで、ぼくが生まれた。


なぁんて冗談、冗談♪

福岡が博多は今も健在やけん、安心してよかよ♡


オジキ・・・に任されたぼくの役割は、九州の北部を広く支配下・・・に置くこと…支配下っち言うても、奴隷んごと人間を強制労働に駆り出すわけやなか。ぼくの能力・・───『人心掌握』を使って、人間を守る・・だけのことばい。


口の達者なぼくの才能を見込んで、オジキはぼくに命じた。

───昼は陽気な落語家・"名護屋ナゴヤ多ろく"として。

───夜は歓楽街を牛耳る八虎ハッコ組の頭・"宗像ムナカタ多禄タロク"として。

時間をかけて人間界に溶け込み、人間達の信頼を勝ち取れと。


正直、面倒やと思うたばってん思ったんだけど…オジキの命令なら仕方なか。

ぼくはこの生涯、オジキに全て捧げると決めとーけんね♡


…言うて、なんでぼくがこげんこんなオジキLOVE♡なんか、一応説明しとかんといかんか?そうせんと、ただオジキマンセー量産型チヤホヤマシーンんごと思われたっちゃシャクや。


ほんのちょっぴり教えちゃる。オジキには内緒ばい♡





-■■年前・???-


───我が軍略は何者にも負けぬ。

───我が謀略は何物にも劣らぬ。


あの小心者の■■も、酒宴に誘い出された■■も。猛き将と謳われた■■ですら、我が調略には平伏していた。


だから二度目・・・今生こんじょうも、軍師としての働きを期待しての登用なのだろう、と考えていた。


しかし───


『…我が策は不要、だと?』

「不要とは申さぬ。ただ、貴殿に任せたい役割がそうではないというだけの話だ」

『解せぬ!我が軍略を以てすれば、大概の敵対者は溶かせよう・・・・・。ならばその軍師の役を、一体誰が務めるのか?』

「───私だ」


揺れ動く蝋燭の灯りだけが照らす部屋で、我と向かい合って座る赤毛の"軍神"の双眸が、瞬きもせず我を見据えていた。


『───ふ、』


鼻で笑う、だけでは済まぬ。


『ふは、ははははは!笑わせるな軍神よ、貴殿はまさに、■■のように戦陣の真中に陣取るべきであろう!戦場での役割も理解できぬ者が、戦を語るとは片腹痛いぞ!』

「………………」


"軍神"の顔色は、恐ろしい程に変わらなかった。嘲笑ついでに侮辱してやったにも関わらず、金の双眸は歪むこともなく我を見据えたまま。いくらヒトではないとはいえ、さすがに気味悪さを覚えた。


『心を捨てでもしたか?いっそ貴殿ごと、我が軍略の駒とした方がよいのではないか』

やってみるがいい・・・・・・・・。何を言われようと、私は動じない」


"軍神"は相変わらず、眉ひとつ動かさず我を見据えている。しかし…今度はそれだけではない。


「もし私が、貴殿の支配下に置かれる程に弱い意志しか持たぬと分かれば───」


"軍神"が宙に浮かせた片手に───抜き身の刀・・・・・が顕現された。


「即刻、この場で切腹しよう。そもそも、それ程に脆弱な意志なら、私の本懐を遂げることなど不可能。たかだか数年生き延びるだけの木偶でくに、なんの意味がある」


───今度こそ、背筋が凍る。自身が役に立たないならば、この場で死ぬ。そんなことを、"軍神"は感情の起伏すら一切見せずに言ってのけている。歴戦の武士でさえ、自害に追い込まれれば心穏やかではいられまい。しかし…"軍神"の顔を改めて覗き、さらに息を飲む事になる。

その双眸の奥に揺らめくのは、ただ強い意志と覚悟…だけではない。

恐ろしいまでの、怒りの炎・・・・。怨嗟に満ちたような、暗い輝きが…瞳の奥で燃えていたのだ。


ああ、確かに。こんなもの・・・・・を従えようなどと、我が迂闊であった。何百年とかけようと、何千回と口説こうと…この"軍神"を落とす事はできるまい。そう諦めると同時に───


その暗い炎に・・・・・・妙に心惹かれた・・・・・・・


『───無礼を許されよ、軍神殿。我らの世は謀りの渦に荒れておりました故、一息に信用することは叶いませなんだ』

「構わぬ。こちらこそ、登用契約の場に刀を持ち出すなど無礼であった。許されよ」

『お互い帳消し、と相成ったならば…本題を。軍師としての働きでないのならば、貴殿は我に何を求める?』


"軍神"は顕現させていた刀を霧散させ、改めて我を見据える。


「…貴殿には、霊兵の最終的な役割・・・・・・から話した方がよいだろうな───」


重い口を開いた"軍神"の言葉に───思わず苦笑が漏れた。


「───四十番・・・殿よ、何故笑う?」

『"殿"など要らぬ、我は───貴殿の配下となるのであろう?』

「配下などではない、対等な協力関係を…」

我がそう望むのだ・・・・・・・・。どうか、我を心置きなく使い捨てよ・・・・・。いやはや、思い切った策を取る…その貴殿の危うさを、我はこの世界という大舞台のかぶりつき・・・・・で見ていたいのだ。貴殿の大願に、我も成就への手を貸そう。願わくば…貴殿には可能な限り稼働していきてもらいたいものだがな』


"軍神"は言った。自らには時間があまり残されていないと。だからこそ、我ら霊兵を登用するに至ったのだと。それでも…最期まで魂を燃やし尽くさんとする生き方に、希望と絶望が同居するその瞳に───どうしようもなく、我は魅入られてしまった。


「…遅かれ早かれ滅びゆく身だ。見ていて面白くはないだろうに」

『いや、いや。面白いとも。その眩い魂の輝きを、間近で我に見せてくれ。それ・・が、登用に応じる条件だ』


そこで、"軍神"は少し驚いたように呆け…やっと、小さく笑った。


「そうだな、この魂が燃え尽きるまで、見守っていてくれ」


…霊兵に、裏切り謀りは法度。だが、我は───

滅びに向かって煌めく、暗く美しい炎に、恋をした・・・・のだ。





††


───それで、ぼくが生まれた。

生まれたっち言うても、オジキ…ああ、"軍神ティール殿"が重苦しいっち言われたけん、こう呼ぶことにしとーとよ。そのオジキが、「人間界への潜入時に浮かなければ、外見は自由に決めていい」っち言うたけん、人当たりんよか話し方と、好き勝手な髪型にしてみたっち話ばい。髪の内側には…恋した相手、オジキとおんなじ髪の色を隠して。


「さぁて、今日もお仕事・・・せんといかんばい」


ここ博多には、魔界に通じる神族・・・・・・・・、そして───悪魔を狩る魔族・・・・・・・がおる。

まったく博多とは、相変わらず退屈せん街ばい。


「…そん前に、『Dragon』で1杯コーヒー飲んでからにしよ♡」


軽く伸びをして、ぼくは夕暮れの橙に染まる街へと溶け込んでいく。

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