[幕間•集いし霊兵達]

-■■年前・???-


───これは数十年前…ティール・アウラブロッサが昏睡スリープ状態に至るより前の話。


薄暗い和室の上座、金の屏風の前で、赤毛の軍神ティールは腕を組んで仁王立ちしていた。しかしその表情は、立ち姿に反して穏やかだった。


そんなティールに一斉に向き合っているのは───陣羽織を纏う老若入り混ざった男達。彼らは一様に、澄んだ瞳でティールを見つめていた。


「皆の者、揃ったか」


ティールの問いかけに、濃い紫の長いポニーテールの男が無邪気に笑いながら手を振る。


殿との~お疲れ~!」

「いや友達じゃないんだから。相手は軍神って言ってなかった?」

「………………………」


丸眼鏡をかけ髪を団子にまとめた初老の男に咎められると、ポニーテールの男は瞬時に笑顔を消して、初老の男に無言の圧をかけた。それを…


「うわっはっは!三十四番・・・・十三番・・・も落ち着けよ!ここに集うは、今生限り志を同じくした同胞だろう!つまらん事で諍いを起こすなよ!」


明るく笑い飛ばしたのは、焦げ茶色に近い黒髪に赤のエクステを差した体格のいい男。ポニーテールの男…三十四番と、初老の男…十三番は、うんざりした様子で黒髪の男を見やってから、長いため息をついて睨み合うのをやめた。しかし今度は、十三番の標的が黒髪の男へと変わる。


「相変わらずうるっさいね、十九番・・・。そうやってまた偉そうに説教するわけ?ほんっと昔からそういうとこ変わらないよね。鬱陶しい」


十三番の刺々しい言葉に、黒髪の男…十九番の側に控えていた若い男が殺気を放つ。


「貴様───」

「まあまあ落ち着け二十番・・・、俺は気にしていない」

「ですが」

俺は勝者だ・・・・・。何も響きはしない」


十九番黒髪の余裕に満ちた言葉に、今度は十三番初老が殺気を高める。その様子を見て逆に二十番若い男は怒りを収め、十三番初老にニヤリと笑みを向けながら鼻で笑った。


その様子を近くで冷ややかに見ていたのは、銀髪を高い位置で纏めた少年の姿をした男。少年は呆れきったように長いため息をつくと、様子を窺っているティールの前へと歩み出る。


「おい、軍神。このままでは埒があかんぞ、さっさと号令を出さんか。これ以上はワシも我慢がきかず、あの阿呆共を蹴り飛ばしに行ってしまうわ」

「申し訳ない、二十二番・・・・。私に止める資格はないと思ったものでね」

「構うか、いっそ殴ってでも止めてやれ。見ての通り、あの阿呆共は死んでも・・・・いがみ合う。あいつらに付き合っとったら、永遠に話が進まんぞ」

「そうばいオジキ・・・~♡♡♡」


二十二番少年とティールとの会話を中断する形で、色付き丸眼鏡の男が横っ面からティールに抱きついてきた。藍色の髪は肩辺りで切り揃えているものの長さは左右非対称で、左側の方がやや短く見える。さらに髪の内側には、ティールと同じ・・・・・・・濃朱色のインナーカラーまで入れている。その意味とは…


四十番・・・?」

「あぁん♡その呼び方、機械的で好・き♡オジキやったら、ぼくの事もっと冷とうたくボロ雑巾んごとみたく使い捨ててよかよ♡」


四十番と呼ばれた眼鏡の男は、ティールに対して頬擦りまでする始末だが、ティール自身は表情ひとつ変えずに為すがままにされている。その代わりに、呆れを通り越してドン引き状態の二十二番少年四十番・乙眼鏡の男を咎める。


「貴様も害悪度合いは大して変わらんぞ、さっさと離れろ四十番・乙」

「きさんに呼ばれてんなーんも嬉しくなか」


急に真顔に戻った四十番・乙眼鏡の男は、名残惜しそうにティールから離れると───


その場に片膝をつき、ティールに対して頭を垂れた。


「───非礼をお許し下さい、我が主殿あるじどの。貴殿と暫しの別れを惜しむ戯れにて。この登用霊兵、之四十番・乙。貴殿の主命とあらば、何であろうと拝して見せましょう。さあ、ご下命を」


それに倣い…部屋にいた陣羽織の男達は、次々とティールに向けて片膝をつき頭を垂れた。


───「「「さあ、ご下命を」」」


その壮観な様子にティールは少し面食らっていたが、すぐに表情を厳しい真顔に整える。


「承知。貴殿らの覚悟は私が預かろう。命は個々に下す事とする」


そして…ティールの表情は、そこで少し悲しみを帯びたものに変わった。


「───契約の通り、長い戦い・・・・厳しい結末・・・・・となるだろう。それでもよいと手を貸してくれた貴殿らの尽力に、私も全霊を賭して応えよう」

「我ら、そのようなこと・・・・・・・は恐れませぬ。どうかお気に病まず」


そう即答したのは、やはりと言うべきか四十番・乙眼鏡の男


「…脅威を排し、再び戦なき世を作れるならば」

「ああ、この身を再び・・戦禍に投じる事に迷いなし」


そこに、十三番初老十九番黒髪も続けた。


「下らぬ命を下したら承知せんぞ」

「貴方様を信じます。どうか我らに意味ある役割を」


二十二番少年二十番若い男も。そして…


「遠慮めされるな、殿。我らは殿の手足となり、その大願を果たす為に此処にいる。我らに情け容赦は無用───世界を救おう・・・・・・、我が『友』よ」


最初に明るく返事をしていた、三十四番ポニーテールも重々しくティールに告げた。


───彼らは、登用霊兵。

かつて戦場を駆けた魂・・・・・・・の再雇用、と呼ぶに相応しい…ティールの神力を分けた不死の兵達・・・・・だった。

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