13話 メイド喫茶
露草の置手紙に書いてあったリンクをわざわざスマホに打ち直し、ゴーグルマップを頼りに学校に到着すると、そこには私にとって未知の世界が広がっていた。
大きな校門にはでかでかと『ようこそ、彼岸祭へ』と書かれている。
校門をくぐると両サイドには様々な看板、屋台が立ち並びゾンビの仮装やチアガールの服、ほかにもたくさんの種類の衣装を着た学生たちが闊歩している。そしてなによりも私の目を引いたのが――
「……うわああぁあ」
真正面にそびえたつ校舎だった。
……凄い。凄い! アニメで見た通り! あの真ん中についてる時計とかまんまだ! 全部が全部めちゃくちゃおっきい! この大きさ、四階建てだろうか!
てっぺんには屋上があるんだろうか! 露草たちは毎日こんなばかでかい学校に通っているのか、いいなあ~! できることなら、私もアニメやラノベのような学園生活を送ってみたかった。
「ねえ、そこのきみ」
そんな感じで私が校舎に見とれていると、背後から声をかけられる。振り返ると、メイド服姿の少女三人が立っていた。メイド服、もしかして露草と同じクラスだろうか。すると少女らは突如として瞳を輝かせ始めた。
「わあっ、可愛い~! お人形さんみたい~! 中学生!?」
「今日は何を見に来たの? もしかしてうちの高校志望の子?」
「かわいい~! どこちゅうどこちゅう!?」
「ふぇっ!?」
急に距離を詰めてくる少女ABC。私は若干気圧されてしまう。ど、ドコチュウってなんだ……。ピカチュウかアル中の友達だろうか。
「え、えぇと、」
「よかったらうちのクラス見てかない? メイド喫茶やってんの!」
そう言うと、少女Aはぐいっと私の目前まで顔を近づける。こいつら距離の詰め方おかしくないか!?
「……わ、私は、えぇと、露草の、クラスに、いきたくて」
「ツユちゃん!? あたしたち露草ちゃんと同クラだよ~!」
「……つ、ツユ? おな、くら?」
「ツユちゃんと知り合いなの? もしかして妹とか?」
「……い、いもうとっていうか」
「違うでしょ。髪の色が白いし。瞳も綺麗な赤色だし。外国の子なんじゃない? ツユちゃんの家にホームステイしてる、みたいな。ツユちゃんお嬢様だし」
と少女B。
「「ありそう~」」
「……そう、なの」
「ほらやっぱり」
そういうことにしておこう。露草の妹よりはいくらかマシである。
「じゃあうちらのメイド喫茶に行きたいってことでいいのかな?」
「……ん」
「そういうことならあたしらが案内したる! ほら、こっちこっち。こっちだよ~」
そういうや否や少女Aは私の手を引き走り出す。露草のクラスまで案内してくれるのは非常にありがたいのだけど、とんでもなく騒々しい三人につかまってしまった。女子高生ってみんなこうなんだろうか。
「今回の文化祭、絶対成功させるぞーって、ツユちゃん張り切ってたよ」
「……んぅ?」
忙しなく校舎内をキョロキョロしていると、少女Bがそんなことを話す。
「ツユちゃんいつも放課後残って今日の準備をしてたんだよ? 今思うと君にうちらの文化祭をみてほしかったからなのかもね?」
「……」
そうなのか、知らなかった。言われてみればたしかに最近は、露草が私の家に来る頻度が減っていた気が……しないな。毎日来てた。なんで?
「ツユちゃん凄いよね~。成績優秀、スポーツ万能、教師からもクラスメイトからも人望めちゃくちゃあるし。なにより超ド級が付くほどの美人だし」
と少女C。たしかに露草は成績優秀、スポーツ万能、教師からも生徒からも人望が厚く、美人な優等生。
「――ってそれ誰のこと言ってるの?」
「「「誰って、ツユちゃんのことに決まってんじゃん」」」
「は?」
露草が成績優秀、スポーツ万能、教師からも生徒からも人望が厚く、美人な優等生、だって……?
犯歴多数、セクハラ万能、頭が壊れた変態ロリコン女子高生の間違いだろ?
……自分で言っておいてあれだが、露草のことをロリコン呼ばわりするのは私にも飛び火するな……。
「露草が……?」
「あれ、知らないの? たしかにツユちゃん、自分でそんな話はしなさそうだしね。学校でのツユちゃんはね、それはもう凄いんだよ。スーパー女子高生を絵に描いたような人だよツユちゃんは。そのくせそんなこと鼻にかけずにフレンドリーに接してくれるし、優しいし、可愛いし、面白いし」
誰だそいつは……? もしかしてだが、私はいつの間にかマルチバースかなにかに迷い込んでしまったのだろうか。
「じゃあじゃあ、ツユちゃんがめちゃくちゃモテることも知らない感じ!?」
またもやグイっと距離を詰めてくるのは少女A。あいつがモテる……? たしかに見てくれだけは良いけれど、中身があれな露草だぞ?
「今日は文化祭だってこともあってね。ツユちゃんに告白する気の男子を少なくとも三人は知ってるよ? あ、これツユちゃんには秘密ね」
至急止めさせるべきだ。その男子たちのキャリアに傷がつく。
「……それ、ほんと?」
どうしても信じられない私は少女Aに再度聞くが、
「ほんとだって。でも考えてもみてよ。品行方正が服を着て歩いているような美人がモテないほうがおかしくない?」
考えてもみてよ、っていうか、私はその品行方正が服を着て歩いているような美人を知らない。私が知っているのは変態行動が服を着てセクハラをしているようなクリーチャーだ。
「あ、着いたよ。ここがうちらのクラスね」
すると少女Bは目の前のある教室を指さす。扉はピンク色を基調にラメやらなんやらで装飾されている。
「ツユちゃーん、お嬢様のお帰りでーす!」
「はーい!」
中からは聞き覚えのある、快活な声が響いた。
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