15話 客寄せパンダアイリス
「ぁぁぁああぁあ!! ンがわぃいいい~!! あ、アイリスたんごっちむいでぇえ!?」
「……」
「……はあぁ、はあぁ、ぃいよぉぉ~、かぁいいよぉ、アイリスたん……」
「……」
私は今、露草と同じメイド服に着替えて何故か変態に写真を撮られている。
「……」
なんでこうなった。
人手が足りないから手伝ってくれと言われたはずなのに、なぜ私は店の手伝いもせずにメイド服だけを着させられて写真を撮られているのだろう。
「んははぁ、いいねぇぇえ~、あっ、その表情いただきぃ~。ぃっひっひ……」
そしてこの変態はどうしてこうも仕上がっているのだろう。
「……ねえ、もういい?」
「まだ駄目だよ全然足りない! お菓子の借りをもう忘れたの!?」
さっきは気にしなくていいとか言っていたくせに……。なんてあくどいのだろう。
「……はあ。人手が足りないんじゃなかったの?」
「ん? まあ人手は足りてないけどさ。メイド服姿のアイリスたん見ちゃったら欲望を抑えきれなかった」
それじゃちょっと世間は許してくれないと思う。
「それにさ、アイリスたんにまともな接客ができるとも思えないし」
「なっ!? それどういう意味!?」
「だって、アイリスたん剣と魔法の異世界出身のバーサーカーじゃん。日本じゃ引きこもりダメニートだし」
「……」
言い返せない自分が悔しかった。
「そんなアイリスたんに無理やり接客させるよりも、アイリスたんは天使なんか目じゃないレベルで可愛いんだしさ! こうやってわたしに愛でられている方が世界のためになると思わない!?」
その物言いに、流石の私もカチンと来てしまう。
「接客くらい、できるもん」
「アイリスたん無理はしなくていいよ……」
「なんだその憐れむような目は!?」
こいつ……。少し私を舐めすぎなんじゃないか?
「いい? 露草は知らないかもしれないけど、私はあの恐るべき魔王だって倒した名実ともに世界最強の吸血鬼。その私にできないことなんてない」
「そうだねー、アイリスたんは世界最強だねー、可愛いからこっちきてポーズとってくれるかなー?」
こ、このやろう……!
「み、みてろ露草!? 私を馬鹿にしたこと、後悔させてやる!」
「あ、アイリスたん? 何する気?」
「なにって、決まってる。接客をするの。私が凄い吸血鬼だってことを露草には知らしめる必要がある!」
「悪いことはいわないから――」
「――うっさいっ!」
私は少し乱れていたメイド服を整える。そして、やいやいと騒いでいる露草をしり目に、接客をするため教室内へと入っていった――
「……ごめん、なさい」
私は現在、露草そしてほかのクラスメイト達に向かって正座をしている。何故かなんて聞くまでもないだろう。即落ち二コマもいいところだった。
「お客さんにオムライスぶっかけたり、コーヒー頭からかぶったり、何を思ったかお皿を投げて虫を撃退したり……。正直ここまでとは思わなかった」
「……ごめんなさい」
「ああ、ちがうくて! 責めてるわけじゃないよ! 幸い怒ってる人もいないし、怪我人も出なかったし、そんなに落ち込まないで? いい経験になったと思えばいいと思うよ」
「つ、つゆくさ……!」
露草の周りのクラスメイト達もうんうんとうなずいてくれている。少女ABCも「まあどんまい!」と笑いながら私を励まそうとしてくれている。私は涙が出そうになった。なんて暖かい職場なんだ……。
「ありがとうみんな。これからは誠心誠意心を入れ替えて――」
「「「「接客はもういいよ」」」」
その場にいた私以外の全員が、口を合わせてそう言った。
「……」
「アイリスたんめちゃくちゃメイド服似合ってるし、超絶美少女なんだし、客引きなら物凄い力を発揮してくれそうじゃない!?」
「たしかに、ツユちゃんナイスアイディア!」
「アイリスちゃんが客引きしてくれたら千客万来だね! んじゃそういうことで仕切り直してこー!」
「「「「おー!!」」」」
やらかしまくった私に拒否権なんてあるわけもなく。そうして私は二年B組メイド喫茶の客寄せパンダになったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます