第15話 聖女は偽物?(王様視点)

 ……困ったことになってしまった。

 このままでは、東方の貴族たちの不満を抑えることができない。


 もはや聖女の威厳は失墜し、その評判は地に落ちたと言っていい。

 王の御名のもと、高らかに宣言したというのに。


 ……まさか間違いだったのか?

 考えたくはないが、本当に間違いだったとしたら――。


「誰か! 誰かおらぬか!」

「はっ。ここに」

「エイデンとアデリーンの婚約披露パーティーの件で、シュヴェルニ男爵家に使わせた使者を呼べ」

「承知しました」





「王様。私をお呼びとのことで」

「ああ。お前、シュヴェルニ男爵家でクリスタルが発見されたとき、シャノンが持って光ったと言っておったな」

「はい。それはもう、なんとも言えない光景でした。光の粒がそこら中に――」


 思い出すだけで、そこまでうっとりするのならば、クリスタルが光を放ったのは本当なのだろう。


「確認だが、本当にシャノンが持ったから光ったのだな?」

「……と仰いますと?」

「アデリーンは触ってはおらぬか?」

「アデリーン様ですか?」

「シャノンは触ったと申しておったぞ」


 使者は怪訝な表情を浮かべながらも、思い出したらしい。


「ああ、そう言えば。アデリーン様が手を伸ばされたとき、クリスタルに触れられたかもしれません」

「なんだと! ではどうして、シャノンが光らせたと申したのだ」

「い、いえ、でも。シャノン様がしっかりと握ってらっしゃいましたし、母君のバルバラ様も、シャノン様が聖女で間違いないと――」


 ……なんということだ。

 目眩いがする。


「もうよい。下がれ!」

「は、はあ」

「下がれと言ったであろう!」

「はっ!」




 まさかとは思うが。

 ……あの噂はそういうことなのか?


 ジャンポール侯爵夫人――アデリーンが、不思議な力を使うという噂。


 東方の領主たちからは、農作物の不作と魔物による被害のため、税の徴収が難しい――王宮への納税を一部免除してほしい――と嘆願書が届いている。

 だが西方は違う。

 天候不順で苦しんでいるという報告があったのに、蓋を開ければ例年並みか、それ以上の収穫があったというのだ。


 これは何を意味するのだ?

 確かめねばなるまい。


「テオ! テオはおるか!」

「はっ。お呼びでしょうか」


 付かず離れず警護についているだけあって、呼んだときには、すぐさま足元にひざまずく。


「此度の魔物討伐失敗の件、聞いておろう」

「はい。聖女様がお救いになられなかった理由を知りたいと、領民たちは気が立っており、今にも暴動に発展しそうだとか」

「うむ。王宮から遣わしたのだからな。その矛先が王宮に向かないとも限らぬ」

「……はい」


 だが今は、聖女が本物かどうかよりも、トリアノン領の魔物だ。


「王様。トリアノン領の魔物討伐は、待ったなしの状況です。すぐにでも第二陣を送らねば、それこそ王宮の怠慢だと国民の不安を増大させかねません」


 テオには私の頭の中がのぞけるようだ。


「その通りだ。だが、どうする? 魔物出現の範囲は広がっておる。トリアノン領だけに騎士団を集結させる訳にはいかぬぞ」

「差し出がましいこととは存じますが、ご提案がございます」


「申してみよ」

「聖女様とアデリーン様、両者共に討伐を依頼されてはいかがでしょうか。聖女様がお力を発揮できれば全て解決しますし、それが無理でも、アデリーン様の不思議な力が魔物に効けば、時間稼ぎはできます」


 ……ふむ。なるほどな。


「よかろう。だが、アデリーンは侯爵夫人だ。何かあっては困る。討伐隊はお前が率いてくれ。アデリーンには、隊の同行者として加わってもらう。くれぐれもアデリーンの噂については伏せておくのだぞ」

「はっ」

「では、お前は早速、騎士の選抜にとりかかれ」

「はっ」


 ジャンポール領からトリアノン領までは、三日、いや四日はかかるか。

 支度もあるだろうから、一週間後だな。


「誰か」

「はっ」

「聞いておったな」

「はい」

「宰相に伝えよ。一週間後に、トリアノン領に魔物討伐の第二陣を送れと。聖女様とジャンポール侯爵夫人だ。急げ」

「はっ」

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