第2話 もふもふ

軽装の男に殴られ気を失っていた俺は、パーティーで借りていた家の外に荷物を放り出されていた。


召喚したゴブリンが漁ったのであろう。荷物はぐちゃぐちゃになっており、つかえるものは金物類だけのようだ。


俺は信用していた仲間から見放され、呆然と立ちすくむ。家の中からは先ほどまでパーティーを組んでいた元仲間たちの笑い声が響き渡っていた。


むしゃくしゃした俺は、契約の対価も用意せずに召喚を行う。


契約が成立しなかった場合は、そこら中にあふれている魔物と変わらず人間を襲ってくる。そんなことはどうでもよくなった俺は、召喚を行いそこら中にあふれている人たちを巻き込んでしまいたい衝動にかられた。


しかし、俺が今まで召喚に成功したのはゴブリンのみである。ゴブリンは知能が低いため、戦闘の役にもあまりたたない。俺は使い捨ての斥候役として利用していた。


この行為に対して文句を言う人間はいない。唯一、一部の召喚士が先人の知恵として忠告してくれる程度だ。まだ12歳の俺には正直、受け止められない現実だが、最近は夢にゴブリンの死に姿を見るのでよくないことのような気がしている。


しかし、魔物を敵視しないのは召喚士だけなのだ。パーティーのメンバーはゴブリンに早く魔物を探させろと言わんばかりの行動をとっていた。


そんな俺は、ゴブリンになら殺されてもいいかと思い、召喚を行う。召喚はこことは別の場所と自分の位置をつなげる行為であり魔法ではない。というよりこの世界に魔法というものは存在しない。


では何なのかと言われると説明はできないのだが・・・


それはともかく、周りの人たちを含めて集団自殺を図ろうと俺は召喚を発動した。


出てくるのはゴブリンだった場合は目の前の元パーティーのメンバーすら殺すことはできないであろうが・・・


そんな簡単なことも考えつかずに俺は召喚した。いつも自分の背丈の胸当たりぐらいの緑色の般若が出てくるのだが、今回に限ってはそこには何も現れなかった。


いや。もっと下の見てみると、そこにはふわふわの毛をまとった狐の姿があった。


「なんで。なぜ、こんな時に動物を召喚してしまうんだ」


俺はその場で崩れ落ちた。その時、狐はというとこちらを見て何も行動を起こさない。いや。見ているのはアキヨシではなく、その後ろにいるゴブリンのようだった。


召喚には契約が必要。それは動物相手にも変わらない。


俺は残った食料である稲荷ずしを狐へ献上した。


狐はそれをまじまじと見つめていたが、数分後にそれを食べると大喜びしているようだった。


その様子を見て、少しは追放された溜飲が下がったがこの後のことを考えるとまた憂鬱な気持ちになる。


そこで思いもよらないことが起きる。


なんと、今までコミュニケーションをとることのなかった相棒のゴブリンが俺を慰めようとしていた。

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