第9話
「だから、言ったじゃない。早乙女に苦手なフィールドだって」
私が攻撃して来たらカウンターだから、逃げて攻撃方法を考えていくしかない。
隠れる場所がなく、ワイヤー移動もできないため移動もダッシュのみ。
持久力に関しては、100kmは走り切れるだけの体力がある。
だから、白い塊にぶつからないように走り始めた。
「なるほど、逃げるってわけ。お望み通り攻撃してあげる」
北海は指をさして白い塊を落としてきている。
ドンッと音が鳴り響いており、威力は十分だ。
北海は白い塊の何度も落としており、周囲は白い塊とゴミが散乱している。
それにしても少しひんやりしてきているな。
ひんやりじゃなくて寒い。寒さで体が固まってしまうんだけど
まさか、白い塊って雪玉!?
「あなたが暑いコート着ている理由が分かりました。寒さから自分を守り、持久戦に持ち込むつもりなんですね」
「巨大な雪玉を何度も出しつづけたら、あなた能力の残量も尽きてしまうでしょう。あなたにこんなに重い能力の代償をたくさん払ったと思えない」
「そっか……」
どこか悲しそうな表情を浮かべており、想像できないようなつらい経験を送ってきた。
きっと、それだけ代償が重いのであろう。
3人の妹を養っている私よりも苦労している顔を浮かべている。
「私もね。持久戦やることに関してはメリットを感じていないの。すぐに降参してくれるとありがたいな。能力も温存したいしね」
イライラを抑えている北海は無理やり言葉を穏やかにしている。
私は彼女の苛立ちの正体が分からない。
何も話さずに呆然と立ってしまっている。
「確かに私の代償は重いよ。同情するような顔を浮かべてくるんだったらさ、勝ちをよこせって言っているの!!」
北海の覚悟を低く見積もってしまっていることへの苛立ち。
私は知らず知らずのうちに彼女の苛立ちのスイッチを押してしまっている。
「代償なら10000発払ってきたから、持久戦に持ち込もうとしても勝てないよ」
「私はね。全身を裸で雪の中にトータル100時間埋まり続けてきたから覚悟が違うの」
「嘘だと思っている?私には代償を払うだけの理由があるの。シルバーファングの氷ホルダーチームに入りたいの」
シルバーファングって氷裂をモルモットにしているコードネーム。
倫理観が狂っているやばい奴のところに入りたいって理由が見えない。
「どういうことですか?シルバーファングってどのような人か理解しているのですか?」
「氷裂って化け物を育ってあげているマッドサイエンティストって知っているわ。それでもね。不当に扱われている氷能力者を助けたいの」
氷能力者の不当に扱われていることは、ネットニュースで見たことがある。
高エネルギーの実験施設にて、エネルギー暴走を抑制するに氷能力者を大量に雇われている。その実験施設の熱暴走はあまりにも巨大であったため、氷能力者が大量に死んでしまった事件。
スキーリゾート施設での雪生成の月250時間の長時間労働問題。
能力者差別のある世界であり、氷能力者のみならず能力者であれば差別は起こってしまっている。能力者が人口の1割という圧倒的マイノリティー故の問題
氷能力者の不当に扱われていることが、シルバーファング隊に入ることで救えるかどうかの疑問が出てくる。出来事の繋がりが全く感じないため合理性が成立されていない。
「そんなことで救えるんですか?」
自暴自棄になっている北海の理屈を知りたいため、純粋に聞いてしまっている。
「分からないわよ!!」
北海は自暴自棄になっており怒鳴っている。
不確実な未来であることを理解しつつも、ただ前に進むしかない。
そんな自己矛盾なんて彼女は気付いている。彼女は暴れているのだ。
「シルバーファング率いる氷の部隊が活躍すれば、氷の能力者への世間の目が少しは変わってくれるって信じているの!!」
「お母さんがたくさん雪玉作って、才能のない私のために過労死した理由が消えそうで怖いのよ」
突き進むしかない北海は使命に苦しめ続けられており、吐露し続けていた。
見えない希望のためにこんなにも食らいつけるのか。
代償も死と隣り合わせじゃないか。私と全然違う。
北海の吐露で降参してあげてもいいのかなと思った。
参りましたの“ま”という言葉を話した瞬間、女の子の声が聞こえてきた。
早乙女りんに転生してしまったから、当たり前のこと。
当たり前のことから、『俺は彼女の人生を残酷に奪ってしまっている』を思い出した。
そっか、私は彼女が積み上げてきたものを守らないといけないんだ。
降参したらそれを壊してしまう。転生してきた意味が本当の意味でなくなってしまうんだ
偽物の体、偽物の家族、偽物の設定に纏まれた私。
だからこそ、気持ちは偽物にしたくないんだよ!!
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