第5話


私と碧はゴーレムを10体狩っており、試験自体は順調に進んでいる。

深淵の森の中をワイヤーアクションしながら、木々を乗り移っている。


「10体倒したから70点か。1位を目指すのにもっと点数は必要かな。りんの場合は30点で心もとないだろう。だから、もっと取るぞ」


「点数のところはありがたいのですが、1位になることは確定でしょう」


「そんなことはないよ。だって、天王寺と氷裂の化け物がいるんだよ」


2人ともメインキャラであり、力はそれなりに貰っているのだろう。

メインキャラを特別視するのはしょうがないか。


「噂をすれば天王寺がいるから見ていくかい?ちょうど戦っているみたい」


「今後の参考のため、見ていきます」


ゴーレムを狩る時間は欲しいが、強キャラの戦闘は見てみたい。

2回戦は人型の殲滅試験。おそらく、1対1のバトルになる可能性が高い。


私は天王寺の戦闘を見ようとしている。

天王寺とゴーレムは対面に向かい合っており、10mほどの距離がある。

やはり、背中に大きな斧を背負いながら戦っている。


「なるほど。テリトリー内に入ってしまっているか」


「テリトリー?」


「天王寺の能力の発動範囲が半径10mの球ぐらいかな。能力に関しては見て考えたほうがいいよ」


ゴーレムは前方に走り出そうと体を前傾させて、足を前に出そうとする。

しかし、足は水あめのようなものに絡みついてしまっており、足を前方にだせない。

足をしどろみどりになっており、前へ進むことができない。


それを確認した天王寺はにやっと笑って、背中の斧をとりだしている。

1mほどある大きな斧を軽々とにぎって、前方のゴーレムに距離を詰めた。

彼女は、ゴーレムの体に向かって斧を振り下ろした。

貫通した際に固い音は出ておらず、パンケーキを切り裂くようにふわっと切り付けていた。

あんなに固いゴーレムが、パンケーキのようにやわらかくなってしまうのなのか。



「さて、天王寺の能力分かったかな?ちなみに能力は複数持っていないよ」


まったくわからない。なんだ。こいつは化け物か。

1つ目は足場を止める能力。2つ目は体を柔らかくする能力。

2つ目を持っているってこと?

しかも、大きな斧を振り回す剛腕もあるってこと?


「分からないです。2つの異なる事象が起こっているのに1つの能力で片付くんですか?」


「応用が効きやすい能力だからね」


ただそれだけで片づけていいの?あんなの化け物だろ?

本物の強者を見てしまうと、恐怖が全身を襲ってくる。


「天王寺はすべてがチート。応用がきいてしまう能力、天王寺財閥の令嬢、恵まれた身体能力。私よりも強いよ」


「この試験は協力してもらったってことで、天王寺と氷裂の能力を教えよう」


「よろしくお願いします」


「天王寺メイは、自分のテリトリー内(半径10mの球)は、無生物をお菓子に変えてしまう力」


1つ目は地面を強力な水あめに変化。

2つ目はゴーレムの体をスポンジケーキに変化。

お菓子の幅が広すぎるから、応用が効きやすいのか


「たくさんのお菓子から迅速にこの場に適したお菓子を選べるって、実戦経験はかなりつんできているんでしょうね。能力の幅が広い分、発想力と判断能力が必要ですから。天才であり努力家ですよ」


「そうだね。彼女の真の強さは発想力と判断力だと思うよ」


「次は、氷裂 キリコ。彼女の能力は触れた氷の筒を氷の大鎌に変える力」


これは弱そうじゃない。

だって、大鎌になるだけなら遠距離で攻撃すれば大丈夫そうじゃん


「りん。君は余裕じゃんって思った?それは違うよ」


「氷裂は北海道の山の奥を幼少期から中学生まで過ごしてきており、彼女は野生に染まっている獣。コードネームシルバーファングにより野生環境下でのホルダー変化に伴う実験動物って言ったほうがいいのかな」


怖いんだけど。

えっ!!人体実験をやってしまう世界観って狂いすぎているだろう

さすが、鬼畜ゲー

シルバーファングには注意が必要だな。


「つまり、コードネームが実験により改良された能力者ってことですか?」


「そうだよ。身体機能は化け物って言ったほうがいいよ。そして闘争本能も狂っているほど高い。能力を持っているヒグマって考えたほうがいいかもね」


主人公含めて化け物だな。

所詮、私はモブキャラ。

私は本当に強いのかと、心の不安が刺さる。


「りん。君は合格できるって信じてもいい?」

サファイヤのように輝いている瞳が曇っており、不安を感じているように感じる。


「全力で合格をつかみ取ります!!」

不安でいっぱいの私は妹たちに演じるしかないのだ。早乙女りんという本物の人間のためにも。


「面白い嘘をつくね。嘘を隠しているりんが美しいよ」

瞳の輝きは再び取り戻している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る