第11話 落ち着いてるよ!!
初めて会話した生徒会長が何を言っているのか樹には理解できない。
誰が、誰を、どのように、好きだと言うのだろうか。
樹は目がぐるぐる回ってしまって、「あ」とか「う」とかしか言葉が出てこないでいる。
「私……有馬涼が……好きなの……ッッ!!」
樹は一気に視界がクリアになって、目の前で視界を泳がせる月を見る。
どうして自分にその想いを伝えたのかは分からないけれど、月は涼への想いで悩んでいるのだと理解できた。
「わあ! 私、応援します!」
満面の笑みを作りながら樹は月の手を握る。
自分の想いより必要な想いが現れたのなら、もういいと思った。
手を上下に振る樹の反応が月の想像と違ったが、樹の笑顔を見て月はすぐに自信を取り戻していった。
「あ、ありがとう……でも私、どうすればいいのか分からないのよ」
「白鳥さんは有馬さんのことが好きなんですよね?」
「エッ! ええ、好きよッ」
「だったらやることは1つです」
不思議そうに見つめる月に笑顔を装って、樹はスマホを取り出した。
スマホを操作する樹をぼんやりと眺めながら、月は不思議な感情を浮かべていた。
操作し終えた樹が月に見せた笑顔の中に少しだけ悲しさが見えた気がした。
〇●○
「とんでもない事になった」
月の告白を影で見ていたのは歩だ。
朝学校に着いてから様子がおかしくなった樹を心配して尾行してきたのだが、現れた人物と告白の内容に歩は2人がいる校舎裏から離れながらスマホを耳にあてる。
ダイヤル音なのか、自分の心臓の音なのか、鳴り続ける音がやけにうるさい。
『龍崎? どうしたの?』
「今時間あるか?」
『え? うん、今から帰ろうと思ってたから』
「じゅあ今すぐ来い。樹が大変な事になった」
歩が伝えた瞬間に通話が切れて、スマホを見ると通話が切れた画面になっていた。
きちんと伝わったのだろうかと不安になり、歩はLIMEでメッセージを送ろうとスマホを操作し始める。
「龍崎!!」
「は、早ぇ」
「何があったの!?」
校舎を出てすぐの所でメッセージを入力している歩の目の前に駆けて来た涼は息が上がっていた。
「と、とりあえず一旦落ち着け」
冷静な状態で説明しないと伝わるものも伝わらない。
それでも涼は早く説明して欲しいと呼吸が早いまま歩を見つめる。
涼の呼吸音が響く中、涼の手の中にあるスマホが振動した。
画面に映ったLIMEの通知を捉えて、涼は急いで画面を開く。
「犬飼さん……ッ!!」
「あ、おい! 有馬!」
スマホに表示されたメッセージを見て涼は校舎裏に走って行く。
突然の涼の行動を止められないまま歩は校舎前に立ち尽くした。
涼のLIMEに表示されたメッセージは樹からの呼び出しだった。
校舎裏にいるから来て欲しいという簡潔なメッセージを既読にして返事を打たないまま走って行く。
(犬飼さん……何があったの!?)
歩からの呼び出しのすぐあとに来た樹からのメッセージ。
それは助けを呼ぶ声にも聞こえて、早く樹の所へと焦る気持ちが隠せない程に地面を強く蹴る。
「犬飼さんッ!!」
校舎裏に飛び出して、そこにいる人物に涼は頭が真っ白になった。
「あ、あ、有馬涼……!」
目の前にいるのは樹のはずなのに、何故月がいるのだろう。
場所を間違えたのか、LIMEの相手を見間違えたのか、何が原因か分からないけれども、涼が会いたい人物はどこにもいない。
「あ、アナタに、その……、」
「どうして……、なんで……?」
「……あ、りま……」
「どこで……まちがえた、のかな……どうしよう……はやく、しない、と……」
涼は目の前に何があるのかも分からなくなって来て、ここがどこなのか迷路に迷い込んでしまったような錯覚に陥る。
月はそんな涼を不安そうに見つめる。
このままだと涼は倒れてしまうのではないかと、見た事もない涼の姿をじっと見つめて月は気付いてしまった。
(私は……あの子にも、有馬涼にも、迷惑をかけてしまったのね)
同時に自分の想いが本物だとも確信した。
だからこそ、このままではいけないと月は涼に近付いていく。
パシン、と音を立てて、月は涼の頬を包む。
「有馬涼。アナタは、有馬涼よ」
月の鋭い視線が涼に刺さる。
「目を逸らさないで」と見つめ続ける月の姿を認識して、涼は今自分が校舎裏にいる事を理解した。
目の前にいるのが月だという事も、しっかりと認識させられた。
「有馬涼は天才なの。天才の私と争えるくらいの実力を持っているの。なのにガッカリだわ。私はこんなに弱い人をライバルだと思っていたのね」
「……月……?」
視線を外させない様にしっかりと頬を包んで、有馬涼のライバルがいる事を認識させていく。
「それで、有馬涼はどうするの? こんな所で私に負けるつもり? 有馬涼が諦めるなんてありえない。それはアナタがよく知っているでしょう?」
月の瞳の奥で何かが零れた気がした。しっかりとそれを確認する様に月を見つめる。
「私は有馬涼の唯一のライバル、白鳥月よ。落胆させないで」
涼の瞳の中へ光が伝染していった。
頬を包む手を優しく掴んで一度目をつむる。
「月……ごめん、僕は君の事さえも見失う所だった」
「……フンッ、謝らないでほしいわ。……悪いのは私の方だもの」
自分が暴走して巻き込んでしまった事は謝って済む問題でない事は理解している。
だけど、それ以前に問題は複雑なのだとも理解した。
「月、僕は好きな人がいるんだ。その人の力になりたい。ずっと隣で支え続けたい」
「……そう。なら、やることは決まっているわね」
月は涼の手を握って歩き出す。手を引かれて驚きながら振り向いた月の表情に涼は目を見開く。
「行きましょう」
初めて見る月の愛を感じる笑顔はすぐに前へ向いた。
これから向かう先にいる人物へ向けて、涼もしっかりと歩き出す。
〇●○
樹は校舎裏から遠回りして校門へ向かう道を歩いていた。
(これでよかったんだ)
このまま複雑な思いを抱き続けるなら、涼が好きな人と結ばれるのが一番いい。
なのに、そうしなければよかったと思ってしまう自分がいる。
(忘れよう。きっと夢を見ていただけだもん)
校門が見えて来て、少し早足で樹は歩いて行って、
「樹」
後ろから腕を掴まれて、樹は立ち止まった。
振り向かなくてもそれが誰か声で分かる。
だから振り向きたくなかった。
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