第37話強制進化と帰還
ウルフ型の召喚獣が雄たけびを上げていると急に光り出す。
「えっ、な、なんですの?」
「…強制進化」
得難い経験をした召喚獣が稀に起きる現象だ。強制進化した召喚獣は通常の進化先と異なる進化をするため、可能性が広がる。
光が収まるとそこには新緑色をしたウルフ型の召喚獣がいた。
「ポチなの?」
「ワフッ」
ポチは先ほどスピードより速く、リリーに近づきリリーの顔を舐める。
「や、やめてくださいまし。くすがったいですの」
ウルフ型の召喚獣の通常進化は少し体が大きくなるだけだ。毛の色は変わらない。つまり、強制進化で合っているだろう。
俺はリリーが召喚獣と笑顔で戯れているのを見ながら、これがリリーにとっては最後のダンジョン冒険になるだろうと思った。
リリーはこれからダンジョンという危険な場所にはもう立ち寄ることなく、ダンジョンで未知の呪いにかけられた哀れな令嬢として屋敷にかくまわれるだろう。
「リリー、帰る」
「あっ」
俺がリリーにそう言うと寂しそうな顔をする。
「ライアンとはもうお別れですのね」
「…。」
「最初は味方だと思っていた方に裏切られ、ダンジョンに転移させられましたけど、ライアンがわたくしを見つけて助けてくれたおかげで今のわたくしがありますわ」
そう言い、リリーはボロボロになったスカートを少し摘まみ上げ、最上級のカーテシーを披露する。
「リリーナ・シャトレーゼとして、リリーとして、この御恩は一生忘れませんわ」
「大げさ」
そう言い、俺は青のワープポータルに触れる。
俺はダンジョンから出た瞬間、眩しい光に照らされる。
これは…。
ザワッ。
自衛隊と呼ばれる人とハンターと黒服の外人がダンジョンのゲート周りにいるではないか。
「出てきたぞ!」
俺とリリーはあっという間に囲まれ、自衛隊とハンターたちの背に隠される。
なにが起きている?黒服の外人はリリーの護衛役ではないのか?
「困りますね。日本の方々。早くそちらにいるライアンと呼ばれたハンターとリリーと呼ばれる少女の引き渡しを」
「それはできません。こちらいる2名は上官の命令で執務室までお連れするように言われていますので。それにそちらの国ではリリーナ・シャトレーゼ殿下の死亡を発表しているではないですか。こちらにいる方々とは関係は無縁です」
「!?」
俺の横にいるリリーはそれを聞き、動揺を表に出す。
「そちらにいるリリーと呼ばれる少女はリリーナ・シャトレーゼ殿下の名前を使い、なりすましをしようとした大罪人です。こちらの国で裁く必要があります」
なんとなく状況が理解出来てきた。リリーは祖国に捨て駒にされたんだろう。リリーナ・シャトレーゼが日本で死ぬことで日本は責任問題に問われる。
多額な賠償金など、リリーはあちらが有利に外交を進めるための道具でしかなかったんだ。
それにしても、なんで俺まであちらは引き渡しを要求しているんだ。
分かっているが認めたくない俺がいる。
俺は刀を抜く。
「ちょっ、ライアン何を…」
刀を抜き、俺は空に向かって斬撃を飛ばす。
すると、先ほどまで何もなかったところに「ぎゃぎゃ」と声が聞こえると共につぎはぎだらけな蝙蝠が姿を現れるではないか。
「あれは一体…」
「ずっと、リリーの上を飛んでた」
「えっ、そうなのですの」
「なにもしてこない…監視」
俺がそう言うと自衛官やハンターがあの蝙蝠に攻撃し、蝙蝠が撃ち落される。
落ちた蝙蝠は肉体に機械などが張り巡らされており、止めを刺すと消えていった。
「あれは一体何だったのですの?」
「…召喚獣」
「えっ」
「改造されたキメラの召喚獣」
「!?」
俺はモンスターは嫌いだが、命を弄ぶ愚か者はもっと嫌いだ。
「な…なんてひどいことを」
リリーは手を口に当てて泣きそうな顔をする。
「これがお前たちのやり方?」
俺は黒服の外人たちを見ながら、問う。
「困りますね。わたしたちとは無関係ですよ」
黒服はにやにやと笑い答える。
それに対して、自衛官やハンターが殺気立つが、他国ともめ事をおこすのはよくないのと考えている自衛官たちは手を出せないでいる。
まぁ、今更だが。
この硬直問題を解決したのは第三者がこの場に介入したおかげだ。
「おいおい。もめ事は試合で解決させるって決めただろう」
そういって、金髪サングラスのアロハシャツに身を包んだ場違いな男が割り込んでくる。
「戦斧ロナード…」
「アメリカが私たちの問題に口をつっこまないでもらいませんか」
「先に約束を破ったのはそっちだろう。それにそこにいる仮面がイベントを発生させたおかげでこの問題解決はそこで決めるって、お前たちの国の偉いひとが決めたんだから少しはおとなしくしてろよ」
ロナードと呼ばれた男は黒服の外国人達に圧をかける。
外国人たちはこの場は不利だと思ったんだろ。この場から離れていった。だが、そんなことはどうでもいい。俺はそれより気になることがある。
「イベント?」
「おう。お前が発生させたイベント、エリクサーをかけた国同士の戦争だ」
「!?」
えっ。戦争?
「まぁ。戦争と言っても戦争イベントだ。殺し合いだけど命をかけた殺し合いじゃねーよ」
全然、意味わかんないんだけど。俺とリリーの頭には疑問符がいっぱいだ。
「詳しことは、お前の国の偉い人に聞けば分かんだろう」
そう言って、アロハシャツはどこかに行ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます