第33話己の価値
俺は、枯葉を退かしリリーを発見する。
その瞬間、魔法が俺に向かって放たれ、短剣でリリーが襲い掛かってきたので俺は体術でリリーを押さえつける。
「くっ」
「リリー、なんの真似?」
「あっ」
リリーは俺の声を聞くと抵抗をやめ顔を上げて、俺の顔を見る。
「…5日経ちましたのね」
リリーは緊張の糸が途切れたようにそのまま、力なく寝てしまった。リリーは5日前と比べ少しやせ細っていたが、目つきだけは獣のように鋭くなっていた。
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「ん…ここは」
「起きた」
俺は鍋の中身をかき混ぜながら器によそい、リリーにスプーンとともに渡す。
「こ、これは…」
「ミネストローネ」
人参、玉ねぎ、じゃがいもなどを細かく切ってじっくりことこと煮込んだのでリリーの胃にも入ると思うがどうだろう。
それに中には、少量の米やダンジョンで取った薬草を入れているから合うか合わないかは分からんが。
だが、美味しそうな匂いにはあらがえずにリリーはそれに口をつける。すると、腹が減っていたのか分からんが勢いよく食べるではないか。
俺はスープを勢いよく食すリリーは口の中を火傷していると思い、水をコップに分けリリーに渡す。リリーは一度、スープの器を置き、水を飲み干す。そして、また食べだす。
そして空になると俺に器を突きつけるではないか。
「ん!」
はぁー。俺はなんで給仕のような真似をしなくちゃいけないんだと思いながらスープをよそってリリーに渡す。
それを3回くらい繰り返し、リリーは満足したかのように腹をさすりながら、地べたに寝た。
「初めてですわ。こんなにお行儀悪くご飯を食べるのは…」
「美味しくなかった?」
「いいえ。わたくしが食べてきたどんな食べ物よりも美味しかったですわ。わたくしが食す食べ物はどれも冷めてますもの…これはとても暖かかった」
「そう」
俺が空になった鍋を水魔法で洗浄している様子をリリーは黙って見る。
「そういえば、あなたのお名前はなんというのですの?」
「今更?」
「聞くタイミングがなかったんですから、しょうがないじゃないですの…」
「…ライアン」
前世の俺なら人を助けることも助けた人間に名前を言うことはないがライアンと言う名前を覚えてほしかった。前世の俺が本当に実在したかこの記憶だけが頼りで曖昧だから。
「それ本当にあなたの名前ですの?偽名じゃなくて?」
俺はその質問には答えない。
「まぁ。いいですけど…」
リリーはふてくされたようでポチと呼んでいたウルフ型の召喚獣に顔をうずくめる。
「少し休憩したら、またモンスター狩り」
「いやですわ」
「ダメ。ステータス確認する」
なにか戦闘に役立つスキルが生えているかもしれないからリリーに見るよう指示する。
「はぁー」
しょうがないとばかりにリリーは見るが次の瞬間、驚いたように俺にそれを伝える。
「スキルが増えてますわ」
「何?」
「危機察知と気配遮断、毒耐性が増えてますの…」
それには俺も驚く。そんな簡単にスキルは増えるわけないから、リリーが経験したことはどれだけ大変だったことがスキルを見て分かる。
それにしても毒耐性か。飢えをしのぐために毒を食らっていたと思うとこいつの生の渇望がすごい。
「休憩した。立つ」
「もうですの?」
俺は立ち上がり、森の奥に進む。後ろに気配があるためリリーもついてきていることが分かる。
「なんですのここ…」
岩山に張り付けられているように2つの扉があった。
「一つは50階層につながる階段」
「もう一つはなんですの?」
「入れば分かる」
そう言いリリーを中に入れる。
_______ 〖 と向き合え 〗 _________
「り…リリー!」
「はっ!」
「ぼーとして淑女として恥ずかしい限りですわよ」
「お…お母さま…」
どうして、わたくしの前に4年前亡くなったお母さまがいるのですの?
「すみません。お母さま」
そして、どうしてもう一人幼いわたくしがいますの?
「まったくそれでもあなた、わたくしが産んだ子?」
そう言ってお母様はもう一人の私を蔑んだ目で見る。お母様はわたくしを愛していない。我が国は位が高いものは一夫多妻が認められておりお母様はお父様の妻の一人だ。
お母さまとお父様政略結婚のため、そこに愛情はない。だからわたくしには愛着は湧かないだろう。
そうこうしていると地震が起こり、我が家にゲートというものが出現しモンスターが我が家を襲う。
不可思議なことにそのモンスター達はわたくしに目をくれず、使用人や護衛役などに襲い掛かる。もう一人のわたくしとお母様は護衛役が時間を稼いでいたおかげで、もしものとき使用する隠し通路にたどり着く。
そうだ。ここでお母様は隠し通路には入らずモンスターに殺される。
お母様はもうひとりのわたくしが隠し通路に入ったを確認すると隠し通路を閉じた。あとから知ることになるが、この隠し通路はお母様のいる側ではないと閉じることも出来ないので、一人残る必要があった。そして、一度使用するともう開くことはない。
「お母様!」
もう一人のわたくしは隠し通路から壁を叩き続ける。
「リリーナ行きなさい」
「お母様を置いていけません!」
「リリーナ・シャトレーゼ!あなたは王族の血を引くものとして生きる責務があるのです!」
「お…おかあさま…」
わたくしは見るお母様の部屋に大きなカマキリのようなモンスターが入ってくるのを。それでも、お母様はそれをもう一人のわたくしに悟られないように叫び続ける。
「行きなさい!王族の責務を果たすのです!」
その言葉に突き動かされるようにもう一人のわたくしはこの場を離れた。お母様はこの場を離れるもう一人のわたくしの足音を聞こえたらしく最後は微笑み、カマキリのモンスターに胸を刺される。
あぁ。これは罰なんだ。王族の責務を忘れて普通の女の子になりたいと叫ぶわたくしへの罰。わたくしは多くの者を犠牲にして生きているというのになんて身勝手なんだろう。
わたくしには王族の血を引いていると価値しかないのに。
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