第30話サモナー


「なぜサモナーですの?わたくし魔法師がいいのですけど…」

俺はリリーのあほさ加減に頭痛を覚えながら答える。



「魔法適正、補助ばっかり」

「うっ」


そう言うとリリーはまた虚空を見て、項垂れる。



「魔法師になっても強くなれない」

「わたくしは強くなりたいのでなく、普通の女の子になりたいだけです!」


「…弱いと死ぬだけ」



俺がそう言うとリリーは涙を目にためる。リリーはどう転んでも普通の女の子にはなれないだろう。ダンジョンで未知の呪いにかかっただけでは王族の血を引いているリリーは社交場や政治から遠ざけられるだけだ。



「分かりましたわ。サモナーにします。でサモナーにしましたけど、サモナーとはなんですの?」

「サモナー。モンスター召喚できる」

「それだけですの?」


「サモナー選ぶとスキル増える」

「確かに使役と召喚が増えましたけど…本当にサモナー強いですの?」


こいつ、俺を疑ってやがる。



「とにかく召喚する」

「えぇっ?どうやったら召喚できますの?」

「感覚に身をまかせる」

「そんな曖昧な説明では分かりません!」



俺はリリーを無視して緑茶を飲むことにした。


もう、俺が手を貸してくれないと分かったリリーはぶつぶつ俺に文句を言いながら、目を閉じ己の内側に向き合う。



サモナーの最初に召喚するモンスターは自分の映し鏡のような存在だと、サモナー達が言う。



Lv.10から2体目のモンスターを選ぶことは可能だがホーンラビット、ゴブリン、スライムからしか選べない。Lv.20からはフクロウ型モンスター、ウルフ、スネークなど増える。



最初のモンスターが戦えるモンスターでなければ、Lv.20まで大変になるのがサモナーの常識だ。



リリーが集中し始めて10分。リリーの目の前に1つの魔法陣が浮かび上がる。



「目覚めなさい」



リリーが魔法陣に右手を向けてそう言うとモンスターが召喚される。リリーと同じ瞳色の白い鳥のモンスターがその場に鎮座していた。



「こ、この子がわたくしの味方」

リリーは泣きだす。多分だけど今まで、命を狙われてきて誰も信用できなかったのだろう。



リリーは恐る恐る白い鳥に触り、そのぬくもりを感じた様子だった。

「暖かい」



俺はしばらくそのままにしてやる。



_________


「もういい?」


俺にはモンスターを味方というリリーの神経が分からないがそこを追及する気はない。人の価値観はそれぞれだから。


「えぇ」

「モンスターの能力、何?」

「このこの能力は視覚の共有ができることと、光魔法が使えます」



鳥の形態でぶっちゃけ近接戦闘できると思ってなかったが、最初のモンスターが遠距離の魔法型アタッカーって、リリーとの連携できなくないか?



リリーは自分を守るすべがないから盾役で攻撃できるモンスター、ゴーレムとかマッスルベアとか甲羅ガニが良かったがないものねだりだろう。


早めにLv.30にしてマッスルベアー辺りを召喚させるかと思い俺はリリーに声をかける。


「休憩したから下の階に行く」



そう言って俺は荷物をまとめ、焚火を消す。この階層ではミノタウロスやゴーレムと言った防御力が高い魔物しかいないため、この階層でのレベリングはリリーには不向きだ。



「そういえば、ここは何階層なんですの?」

「新宿ダンジョン、48階層」

「49階層が確認されている中が世界記録で…ですのよ。冗談ですよね?」


「ここから下、誰も見たことない」

そう言って俺は下に降りていく。

「ま、待ってください。わたくしを置いてかないでください!」





階段を下りた先は一面、花畑が広がっていた。

「ダンジョンにこんな場所があるなんて…」

リリーはそう言って花畑に向かって行き、近くで花を見てはしゃぐ。



「なにしてますの!花がきれいですわよ。遠くにいないでこっちにきたらどうですの!」



手を口の近くに持っていきリリーは大声で俺を呼ぶが次の瞬間、リリーは蔦に足を捕まれ転倒する。



俺がこの花畑に入っていかなかったのはこの一帯、モンスターの気配が感知にひっかかったからだ。


それに花から空気中に漂う匂いが、まるで前世で嗅いだことがある麻薬の匂いと同じだ。



俺は瞬時にリュックから布を取りだし、口周りを覆い隠し後ろに縛り、匂いを遮断した。



その間、リリーはゆっくりと蔦でモンスターのいるところまでひっぱられる。


リリーが抵抗せず、無抵抗のままで引っ張られている様子を見ると、やはりこの匂いに何かあるのだろう。



それを見た俺はリリーのところに向かい蔦を切る。すると複数の蔦が地面から出てくるではないか。


その蔦が俺に襲い掛かるように向かってきたので刀ですべて細切れにする。



だが、蔦の数は無尽蔵なのかというほど、次々と地面から現れた。きりがないので蔦を操るモンスターを探すが感知にはこの花畑一帯がモンスターだと示している。


これはもしや?


俺は自分の感にしたがい気を使うことにした。


全力で地面を殴ると地面と思われたものが流動し起き上がったので、俺は滑り落ちるかのように花畑の外に放り出される。



地面に降り立った俺たちは俺たちと含めて木を陰で覆い隠す巨体のモンスター、モグラを見る。俺たちがいたのはモグラの背中の部分、花が密集しているところだった。



とりあえず、リリーに状態回復の魔法をかけることにした。

「な、なんですの。あの化け物は…」

「リリー、召喚と魔法準備」

「あれと戦う気ですの?」

俺は立ち上がり、向かってきた蔦を切り裂いていく。



「早くやる」

「分かりましたわ…」

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