初恋

北海ハル

第1話

 ぼくは美咲ちゃんが好きだ。

 クラスのマドンナである美咲ちゃんを振り向かせるために、何をすればいいか日夜研究中。そしてある時、美咲ちゃんを含めた女子のグループの会話をたまたま聞いた。

「美咲ちゃん、どんな人がタイプなの?」

 美咲ちゃんは少し照れたように言った。

「わたし、足の早いのが好きなの」


 それからぼくは、死に物狂いで頑張った。

 速く走るために靴を変えたり、風のテイコウ?を受けにくい服を着たりして、考えられることは全てやった。

 半年が過ぎた頃には、50メートルを7秒ちょっとで走れるくらいになり、学校で一番に速くなった。


 その日の放課後、ぼくは美咲ちゃんに告白した。「誰よりも速くなれたよ」と。

 それでも美咲ちゃんは振り向いてくれなくって、ぼくは少し腹が立った。

「じゃあ、美咲ちゃんはぼくより速い人を知ってるの。前に言ってたじゃない。足の速い人が好きだって」

 そう必死に言うと、美咲ちゃんは諦めたように笑う。

「わたし、知ってるの。きみよりも、誰よりも足の早いのがいるってこと。……明日、連れてきてあげるね」

 思いもよらない言葉に、ぼくは少しだけ驚いた。けれど、ぼくよりも足の速い人を連れてくるというのだ。どんなヤツか、ぼくが見定めてやろうじゃないか。


 そして翌日。

「本当に足が早いから、ちょっとだけね」

 そう言って美咲ちゃんはカバンから鯖の切り身を大事そうに取り出した。


 夏の、暑い日だった。

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初恋 北海ハル @hata

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