第三章 泥海の中から
序3
突然、私の携帯にメールの着信を告げる、不吉な音が鳴る。
天井に反響する電子音。それに呼応するように、あちこちから動物の荒い呼吸音と鉄の鎖が振れ合うかん高い音が重なる。
見てはいけないと、頭の中で誰かが叫ぶ。しかし着信音に対する条件反射で、電話を取り出す動作は止められない。私の体は自然な動きで着信メールをチェックして、思わぬ事態に顔をしかめる。
メールの送り主を探して山肌に視線を巡らせる。そして見つけた。山奥から続くアスファルト道路、その白いガードレールの線上遠くに、赤い横線の入った黄色い四角形が動いている。
地滑りはあっけなく黄色いバスを呑込み、山肌の巨岩に当たる。そしてその凶悪な矛先は二手に分かれた。
ひとつの大きなうねりは小尾根を越え、土煙を上げながら道の奥へ流れて消えた。
もう一筋の巨大な流れを正面に見捉えて、私の体は硬直する。
悪夢のような光景に私は絶叫し、汗びっしょりで眼を見開く。
私は薄暗い部屋で眼を覚まし、上体を起こそうとした。しかし全身を覆う強い倦怠感と鈍い痛みが走り、動きを止めた。
何故か、涙が頬を伝う。
背筋を凍らせる恐怖と絶望的な喪失感が、心に深い穴を穿っていた。
ここはどこだろう。見知らぬ部屋で、私は震えていた。
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