6. あの日の僕ら2 56~60
-56 過去に故人の親友が演出した懐かしき聖夜-
守は松戸夫婦が自らの為に作った特製の弁当を一口一口噛みしめる様に食べていた、大好きな味と思い出に浸る度に乾いたはずの涙が止まらなかった。
龍太郎「喪主も大変だから腹減ってたんだろうな、嬉しい食いっぷりだぜ。」
王麗「父ちゃん何言ってんのさ、真希子を亡くした守君は空腹どころじゃないはずだよ。」
まるで本当の両親の様に自分達の作った弁当を食べる喪主を見守る松戸夫婦、すると女将は何かを思い出したかのようにビニール袋を取り出した。中には白く小さなスチロール製の弁当箱が1つ、屋台のたこ焼きでも入っているのだろうか。
王麗「守君、余り物で作ったんだけど良かったらこれも食べないかい?」
守は警視からビニール袋を受け取ると中の弁当箱を取り出して聞いた。
守「開けて・・・、良い・・・?」
王麗「勿論だよ、これもあんたにとっちゃ思い出のあるものだと思ってね。」
王麗の言葉を聞いた守はゆっくりと中身を確認した、中には懐かしい料理が入っていた。
守「これ・・・。」
王麗「あんた、小さかった時も高校生の時もずっとこれが好きだったもんね。」
守「女将さん、覚えててくれたんだ・・・。」
王麗「勿論だよ、忘れる訳が無いさね。私にとっても良い思い出だったもの。」
王麗は時間の許す限り昔の思い出を語り始めた。
これは守達がまだ幼少だった頃のクリスマスの日の事だ、夜8:00前に宝田親子は仲良く手を握り空気の冷たい夜の道を歩いて松龍に到着した。
真希子(当時)「王麗、悪いねえ。クリスマスだから他の店も考えたんだけどうちの子がどうしてもここが良いって言うから。・・・ってあんた、そのサンタ服、気合入ってんね。」
王麗(当時)「そりゃあクリスマスだからね、言っちゃなんだけど今日みたいな日に中華を食べる人なんか殆どいないからね、丁度早めに閉めて小さなパーティーでもしようかって言ってたんだよ。良かったら2人も参加してくれないかい?」
真希子(当時)「良いのかい?折角の親子水入らずの時なのに。」
王麗(当時)「何言ってんだい、2人もあたしにとっちゃ大事な家族みたいなもんさね。守君、一緒にケーキ食べようね、その前に何か食べたい物はあるかい?」
守(当時)「チキンカツと炒飯!!」
王麗(当時)「それいつものじゃないか、それにチキン以外クリスマス要素が無いよ・・・、そうだ!!あれを作ろう、大皿になるから真希子も手伝ってくれるかい?守君は好きな所に座っててね。(中国語)美麗、降りてらっしゃい!!」
真希子(当時)「王麗、私は良いけど子供達はどうするんだい?言葉が通じなきゃ互いに居づらくなるじゃないか。」
王麗(当時・日本語)「そんなの心配しなくても良いよ、ほら!!」
住居部分から降りて来た幼少の美麗は守を見つけるとダッシュで座敷へと向かった。
美麗(当時)「守君、ハッピーバースデー!!」
王麗(当時)「そこは「メリークリスマス」でしょ、じゃあジュース飲んでも良いから2人で仲良くしててね。今日はあの人の分まで楽しんでやろうね!!」
暫くすると真希子が揚げ物を揚げる音と王麗が鍋を振る音が聞こえて来た、因みにクリスマスにも関わらず店主の龍太郎は競艇の場外発券場で遊んでいるらしい。
それから十数分程経っただろうか、ある事を心配する真希子の声が。
真希子(当時)「あんた、これ入れるのかい?利益度外視じゃないか!!」
王麗(当時)「良いんだよ、どうせあの人が負けて帰って来るだろうし、お祝いだからね。」
王麗が大皿の周囲にレタスを敷き詰めると真希子がその上に出来立ての揚げ物を乗せた、真ん中のほぼ下部に炒飯を丸く盛るとまた王麗は中華鍋を振り始めた。炒めた具材に大抵の子供達が好きな調味料をたっぷり加えた後にまたご飯を加えて炒め、今度は大皿の真ん中の上部に三角形に盛り付けた。甘酸っぱい匂いが店中に広がる中、その先に小さく炒飯を盛り、下部に盛った炒飯に蟹や卵白を使った餡をかけて出来上がり。
2人は使った調理器具を手早く片付けると大皿を協力して運んだ。
王麗・真希子(当時)「ほら、お待たせ!!2人共、パーティーを始めるよ!!」
守・美麗(当時)「あ、サンタさんだ!!」
そう、王麗はチキンライスと餡掛け炒飯をサンタクロースの顔に模して盛り付けるという演出を子供達の為に瞬時に思いついたのだ。
-57 親孝行とは-
王麗と真希子が店にある限りの鶏肉を揚げた物を肴にしてビールを楽しんでいる向かいで、サンタクロースに模したチキンライスや餡掛け炒飯を守と美麗が仲良く取り分けて楽しそうに食べていた。
守(当時)「母ちゃん、美味しいね。楽しいね。」
美麗(当時)「私、このお髭の所(餡掛け)好き。ママの料理で一番好きなんだ。」
王麗(当時)「あんたはそれ食べてる時本当にいい顔するね、母ちゃん嬉しいよ。」
3人が談笑している中、真希子には気になる事が有った。
真希子(当時)「それにしても良いのかい?ありったけの鶏肉使っちゃったじゃないか、明日から店の方はどうするんだい?」
王麗(当時)「大丈夫だよ、明日には新しいやつが入荷するし賞味期限が近かった物を吐かせたかったから丁度良かったんさ。それに子供達も楽しそうにしているじゃないか、あんたも何も気にせず呑んでおくれ。」
真希子(当時)「それを聞いて安心したよ、それにしてもあんなアイデアをよく思いついたね。本当に豪華なパーティー料理になっちゃったよ、ただのチキンライスなのに。」
王麗(当時)「物は考えようだよ、それに自分が今着ている服がヒントになったんだ。結果オーライってやつだよ。」
未だ終わりの知らせが来ない火葬場で王麗はあの日のパーティーでチキン等の食事を楽しんだ4人が決して大きいとは言えないが丁度いいサイズのホールケーキを仲良く食べた後、座敷で満腹になった守と美麗が仲良く眠っていた時の事を思い出していた。
王麗「そう言えばね、あの時真希子が守君の事を「親孝行者」だって言ってたよ。」
守「俺が?俺は母ちゃんに何もした覚えは無いけどな・・・。」
王麗「本人が言うにはね、不器用者だった自分が作った物を決して文句を言わずに笑顔で「美味しい、美味しい」って食べてくれていた事が本当に嬉しかったんだってさ。」
守「美味い物を美味いって言うのが「親孝行」だって?素直に言っただけなんだけど・・・。」
王麗「それが嬉しかったみたいだよ、やっぱり本人が言ってた通り何かと忙しかったからって母親らしい事を何一つ出来なかった事が悔しかったんじゃないかな、それでも守君がすくすくと育ってくれた事が何よりも嬉しい「親孝行」になってたと思うけどね。」
守「そうか・・・、ほぼ1日ずっとパートで働いてた母ちゃんの事凄いなって思ってたけど本人はずっと俺の事を考えていたんだな。実は俺さ、あんまり父親との記憶が無くて確かに「どうして自分には父ちゃんがいないんだろう」って思った事が何度かあったんだ。でも母ちゃんのお陰でそんな事も全然気にならない位に楽しかったとも思えるんだよ。」
王麗「そうかい・・・、そうやって真希子に笑顔を見せていた事が最高の「親孝行」になってたんじゃないのかい?守君が気付いてなかっただけなんだよ、当の本人である真希子がそう言ってたから間違いないよ。」
守「そうか・・・、俺こそ母ちゃんに何もしてやれなかったのにそんなに嬉しい事を言ってくれてたんだな。母ちゃん・・・。」
王麗による思い出話の後、守が大粒の涙をまた流す中で真希子の火葬が終わったという知らせが入った。棺桶ごと焼けて骨だけになってしまった真希子を見てもう母には会えないんだという事を守は改めて実感した、この感情を抱いたのは好美の葬儀の時以来だ。
守「やっぱり慣れないもんだな、大切な人を亡くすって事はよ。」
真帆「慣れる事なんて出来ないんじゃないかな、誰にとっても別れは辛い物だと思うよ。」
美麗「真帆ちゃんの言う通りだよ、守君ほどじゃないけど私も辛いもん。実はね、真希子叔母さんとこんな思い出があった事を思い出したの。」
守「美麗と母ちゃんの思い出か・・・、良かったら聞かせてくれるか?」
美麗は火葬場から屋外に出て大きく深呼吸をした後に語り始めた、美麗が高校生だった頃の優しい思い出・・・。
ある日、王麗と龍太郎が「お使い(という名の捜査)」に出ていた時の事だ。美麗はお客さんも来ないと思うしすぐに戻るからと王麗に1人店番を頼まれていた、ただ当時の美麗が作れる中華料理は麺料理だけだった、それもお客さんには決して出す事の無い家庭の味。
休日の時間を持て余していた美麗が店内で雑誌を読んでいると汗びっしょりの真希子が店へとやって来た、しかもかなりの空腹だった様だ。
美麗(当時)「おばちゃんいらっしゃい、でもパパもママもいないから何も出せないよ。」
真希子(当時)「そうかい、美麗ちゃんは何が作れるんだい?」
美麗(当時)「今だったら冷やし中華位かな・・・。」
真希子(当時)「暑いから丁度いいや、それくれるかい?」
美麗は自信無さげに調理場へと入ると自分が知っている唯一の作り方で冷やし中華を作った、ただ見様見真似で作った物はやはり両親が作るそれに程遠い物だった。
美麗(当時)「自信無いけどこれで良かったらどうぞ。お金は・・・、いらないから。」
-58 脳裏に残る冷やし中華-
美麗本人曰く、「反省点が多々ある冷やし中華」を少し暗い顔をしながら真希子の座るテーブルへと運んだ。具材をもっと細くきるべきだった、麺をもっと冷たい氷水で締めるべきだったなど色々と思い浮かんでいた。
美麗(当時)「下手くそでごめんなさい、要らなかったら私が後で食べるから。」
少し緊張しながらゆっくりと皿を置く美麗、心中で「絶対怒られる・・・」と思っていたので手が小刻みに震えていた。
真希子(当時)「あら・・・、ご馳走だね。こんなに美味しそうな冷やし中華は初めてだよ。」
いくら何でも大袈裟すぎやしないかと言われかねない誉め言葉を聞くとは思わなかったので、少し驚いていた。
美麗(当時)「じょ・・・、冗談でしょ?こんなに下手くそな冷やし中華、酷いって言ってくれた方が助かるよ。」
真希子(当時)「何言ってんだい、こんなに美味しそうじゃないか。折角だから頂くよ。」
美麗が調理場に冷やし中華を下げようとしたので真希子は必死に皿を掴んで止めた後、料理をテーブルに置いて手を合わせた。
真希子(当時)「頂きます・・・。」
麺と具材を解して上にかかった醤油ダレを絡めると、目を輝かせながら早速と言わんばかりに1口麺を啜った。
真希子(当時)「うん・・・、キリっとよく締まっているじゃないか。暑かったから丁度良くて嬉しいよ。どれどれ・・・。」
真希子は美麗が自信を持てていない具材へと箸を延ばした、両親の作った物に比べると太くなってしまった胡瓜を口にした。
真希子(当時)「これ位の太さでないと瑞々しさが無くなっちゃうんだよね、私好みにしてくれたのかい?」
美麗(当時)「そ・・・、そうなの?」
真希子(当時)「それにこの叉焼、ふんわりとしていて私好きだよ。沢山入れてくれてありがとうね。」
美麗(当時)「入れすぎちゃっただけなんだけど、良かったのかな。」
少し照れ始めた美麗は指で頬を搔き始めた、涼しい店内にずっといたのにも関わらず顔が少し赤くなっていた。
美麗(当時)「いくら何でもほめ過ぎだよ、でもそう言われると嬉しいな。」
真希子(当時)「まぁこの子ったら、嬉しいのは私の方なのに。」
そんな中、「お使い」を終えた両親が店に戻って来た。まさか真希子が来ているとはと思っても居なかった。
王麗(当時・中国語)「美麗、ただいま。悪かったね。(日本語)・・・って、あら?真希子じゃないか、ごめんごめん。今からで良かったら何か作るよ、何にしようか?」
真希子(当時)「いや、美味しい冷やし中華を食べているから大丈夫だよ。」
王麗(当時)「冷やし中華・・・、もしかして美麗が作ったのかい?やだよ、具材の太さがバラバラじゃないか。作り直すからちょっと待っておくれ。」
真希子(当時)「何言ってんだい、私がいつも太めが良いって言ってたの忘れたのかい。」
美麗が作った冷やし中華を必死に守りながら平らげる真希子、横に添えられた練りからしとマヨネーズを使って十分に楽しんでいる。
真希子(当時)「いつもだったら辛子だけだけど美麗ちゃんは分かってくれていてね、私が好きなマヨネーズも添えてくれているんだ。嬉しいね・・・。」
王麗(当時)「確かに店ではいつも辛子だけさ、マヨネーズは家で食べる時だけだよ。」
真希子(当時)「これ、美麗ちゃん特製なんだろ?いくらなんだい?」
どうやら美麗と真希子の食の好みが似ているらしく、目の前の客が本当に冷やし中華を堪能した事を察した王麗は娘の頭を撫でた。
この懐かしいエピソードを火葬場の外で涙ながらに語る美麗、決して得意とは言えなかった料理で褒められた事が本当に嬉しかった様だ。
美麗「また、食べて欲しかったな。私の作った不揃いな冷やし中華。」
-59 男の掌-
自分の知らない所にあった母と友人の温かな思い出話につい涙が流れた守、そんな中で悪いと思いながらも盗み聞きしていた王麗が2人に声をかけた。
王麗「そういえばそんな事もあったね、真希子が周りの皆を心から愛し、周りの皆からも愛されてた。今でもそんな気がするよ。」
守は兎に角嬉しくて仕方がなかった、それと同時に母がどうして自らの葬儀を少人数で行うようにと遺書に書いてあったかを改めて考えていた。
美麗「きっと周りの人を騒がせて迷惑をかけたくなかったからじゃないかな。」
よく考えれば昔からそうだった気がした、自分より他の人の事を優先させる性格。
守「やっぱり母ちゃんは変わる事なく、優しかったんだな。皆に好かれるのも納得いくな。」
王麗「本当だね、神様の事が意地悪に思えて仕方がないよ。」
今の王麗の台詞を一番に言いたかったのは他の誰でもなく守だった、恋人に続きたった1人の肉親を奪われたが故の抑えきれそうにない悔しさがこみあげてきた。しかしどれだけ悔やんでも2人が戻って来る訳ではない、どこかやり切れない気持ちを抱えながら初七日法要までを終えた一行は近くの日本料理店でささやかな食事を行った。これも真希子が遺書に書いていた事だ、どんな時でも周りの人への感謝の気持ちを忘れない、それを伝えたかったのだろう。
複雑な気持ちでいっぱいだった守を気遣ったのか、龍太郎が守のグラスにビールを注いだ。
龍太郎「大丈夫か?」
守「うん・・・。」
日本料理店の店主の厚意で飾られた真希子の写真を眺める守の背中にはまだ哀愁が残っていた、当然の事だ。注いでもらってから少し経っていたが故に泡が少なくなっていたビールを一口、ただ辛さが勝ったからか味を全く感じなかった。
守「母ちゃん・・・。」
守はグラスを持つ手を強くした、今にも割れてしまいそうな勢いだ。そんな守の肩に龍太郎が手を乗せた。すると何故だか分らなかったが守は落ち着きを取り戻す事が出来た。それから一息ついた守は一先ず腹を満たそうと、出された食事に箸をつけた。嬉しい事に、今度は味がした。きっと龍太郎は守が忘れかけている「あの事」を思い出させてくれたのかもしれない。声に出さずとも動きだけで伝わった、「今日は周りに甘えても良い、決してお前を1人になんかはしない」と。
守の心は龍太郎への感謝でいっぱいだった、母親を失ったばかりの守には「何より嬉しい言葉(メッセージ)」だったのだ。
守「龍さん・・・。」
龍太郎「もう何も言うな、お前の気持ちは痛いほど分かるから今は兎に角俺の背中で泣いていろ。」
守は堰が崩れた様に再び泣き始めた、今日ほど何回も何回も泣いた事は無かった。守の涙を受け止めながら龍太郎も静かに泣いていた、正しく「男泣き」という泣き方で。
龍太郎「いいか守、男も決して泣いてはいけない訳じゃねぇ、愛する人間の為に流す涙は男女関係無く綺麗なもんだ。周りの人間が許さないとしても俺が許してやる、納得するまで泣け。」
守「母ちゃん・・・、好美・・・。」
守の口からは「今すぐに会いたい」という気持ちが溢れ出ていた、そんな彼氏の様子を見た真帆は決して嫉妬する事は無かった。逆に元気づけようと必死になっていた。
真帆「守大丈夫だよ、結愛さんが持って来てくれた手紙や言葉がその証拠じゃない。好美さんや真希子おばさんは違う世界でだけど生きているの、でも今は辛いんだよね、いっぱい泣いても良いよ。」
美麗「守君があんな事言うから私たちも好美に会いたくなって来たじゃない・・・。」
桃「じゃあ、この後皆で好美のお墓行ってみようか。」
美麗「いや何言ってんの、好美のお墓って徳島じゃん・・・。」
ただ1人涙を拭う守には美麗以上に聞きたい事が1点・・・。
守「桃ちゃん・・・、いつからいたの?」
桃「いや、最初からいたわ!!」
-60 暗い自室での再会-
まさかの桃の登場で場が和んだ一行はお世話になった日本料理店の店主に一言挨拶をしてその場を後にした、真希子の遺言通り少人数での会食だったが参列した皆は食事に満足していた様だ。ただそんな中でも未だ1人元気が出ずに俯いている守を見て、葬儀中での経緯を美麗から聞いてやっと知った桃が声を掛けた。
桃「守君、大丈夫?私が言うのも何だけどらしくないよ。」
龍太郎「桃ちゃん、すまないが仕方の無い事なんだよ、たった1人の肉親を失ったんだ。守自身の辛さはなかなか抜けないもんさ。」
桃「そっか・・・、何かごめんね。」
守「いや・・・、大丈夫。」
本当に大丈夫なんだろうか、やはり表情からは守が嘘を言っている様にしか見えなくて仕方がない美麗と真帆は少し苛ついていた。
真帆「守、強がらなくても良いんだよ。私達がいるじゃん、もっと頼ってよ!!」
美麗「真帆ちゃんの言う通りだよ、いつまでそんな浮かない表情をするつもり?!」
龍太郎「待て、きっと守はこれからどうしようか悩んでいるんだ。余り責めてやるな。」
2人は龍太郎の重みのある言葉に少したじろいでしまった後、1歩下がって様子を見る事にした。
守「龍さん、すまねぇ・・・。」
龍太郎「良いんだ・・・、ところでお前、今からどうするんだ?」
守「今日はもう何も予定が無いから一先ず家に帰るつもりだけど。」
龍太郎「良かったら呑みに来ないか?今日は臨時休業にしてあるからこっちは歓迎だぜ。」
守「龍さんが良いならそうさせて貰おうかな。」
龍太郎「じゃあ後でな、チキンカツ作って待ってるから絶対来いよ。」
守「龍さん、唐揚げもお願い出来ないかな。」
龍太郎「そうだな、忘れていたよ。悪かった。」
王麗「後、炒飯とチキンライスね。」
美麗「あの時のクリスマスみたいで楽しげだけど呑むのにご飯いるの?」
守「有難いよ、店に行くのが楽しみだ。」
解散した一行は喪服から着替える為に各々の帰路に着いた、守が真希子から譲り受けた自宅の鍵を開けて引き戸を開けるとまるでもぬけの殻になった様な空間が広がっていた。
守は自室に入るとキッチリと締めていたネクタイを緩めて私服に着替えた後、倒れる様にベッドに寝転んで枕に顔をうずめた。
守「母ちゃん・・・。」
突如目の前からいなくなってしまった真希子への想いが抜けきらない守、本人しかいないはずの暗く静かな部屋で聞き覚えのある女性の声が聞こえた気がした。
女性「何だおめぇ、浮かない顔してんじゃねぇよ。らしくねぇぞ!!」
何処か聞き覚えのある悪ガキの様な口調と特徴的な声、まさかな・・・。
女性「おい、守!!俺の事を無視するとはどういうつもりだ、コラ!!仕事抜け出してわざわざ来てやったんだぞ、さっさと起きやがれ!!」
守「お前・・・、もしかして結愛か・・・?」
結愛「俺以外に誰がいるってんだよ、好美ちゃんが来たとでも思ったのか?」
守がゆっくりと目を開けるといつも通りのパンツスーツ姿をした同級生の姿があった、その光景を見て自分は夢を見ているのかと守は頬を抓った・・・、痛い・・・。
結愛「好美ちゃんはあっちの世界にあるラーメン屋の経営や王城での夜勤で悪戦苦闘してんだから邪魔出来ねぇだろうが、今日はお前の母ちゃんに頼まれて来たんだよ。」
守「好美が・・・、ラーメン屋の経営に夜勤だって?」
結愛「ああ・・・、毎日忙しそうにしてるぜ。」
まず前提として言ってしまえば好美が異世界で何をしているのかを把握している訳じゃ無いし、第一本当に生きているのかを信じ切れない状況で死んだはずなのに当たり前の様に目の前にいる結愛の言葉を全て受け入れるべきか分からなかった。
ただ、悩んでいるだけでは話が進まないと思ったので守は起き上がって話を聞く事に。
守「それより、母ちゃんが何だって?母ちゃんはあっちで何しているんだよ。」
結愛「お前の母ちゃんな・・・、光さんの旦那さんの店で副店長をする事になったんだよ。」
どうやら、真希子が異世界で知人と再会した様なので守は少し安心した。
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