6. あの日の僕ら2 51~55


-51 走馬灯の様に-


 霊安室で穏やかな表情を見せて眠る真希子の横で、守は1人静かに涙を流していた。守が幼少の頃、旦那に先立たれた真希子は唯一の肉親として息子に辛い思いをさせまいと、幼稚園や小学校で守が家にいない間はパートをかけ持ちして生計を立てていた。

 当時真希子の事情を全く知らなかった守は自分の家には父親というものがいないという事で周囲からの疎外感を感じていたが、母に辛い思いをさせてはいけないと決して「どうして自分の家にはお父さんがいないのか」と聞かなかったという。

 真希子の決死の努力のお陰ですくすくと成長した守、小学校の高学年になった頃には父親の事など全く気にならなくなり、母とたった2人で囲む団欒を何よりも楽しみに1日を過ごしていたという。

 しかし、当時の守には疑問に思う事が有った。


守(当時)「お母さん、どうしてうちは毎晩カップ麺なの?」

真希子(当時)「私達2人の将来の為にお金を置いとく為さ。」


 そんな中、真希子はパート代から少しずつだが「へそくり」を作り当時まだ小さな服飾企業だった「貝塚服飾卸(後の貝塚財閥)」の株を買い、成長を待ちつつ配当金が出る度に守に寂しい思いをさせない様に少し贅沢な夕飯を楽しんでいたという。そのお陰で当時、2人の団欒は楽しかったのだろう。

 団欒を楽しむ守の横で真希子は別に配当金から貯金を作っていた、そして小さな軽のバンを買ってそれまで徒歩で行っていた買い物を楽に行えるようにした。

 そう、少し贅沢をしつつも頭の良かった真希子はパート代や配当金をやりくりして生活をよりよい物に変化させて守の人生が少しでも楽しい物になる様にと工夫していたのだ。

 2人の生活に一番変化があったのは守が中学2年の頃、貝塚服飾卸がアメリカを中心とした海外に進出して成功を収めたが故に急成長して株価が急上昇した事に伴い、真希子への配当金も上がった。その配当金で買ったのが愛車のスルサーティーだった。

 それからというもの、真希子が夕飯を済ませると夜な夜な外に出ていく事が多くなり、巷で「赤鬼」と「紫武者(パープルナイト)」という言葉をよく耳にする様になった。

 しかし守は高校受験の勉強等で忙しく、母が毎夜毎夜出ていく事など気にもならなかった。守が学校から家に帰った時、真希子は必ず何事も無かったこの様に夕飯を用意して温かい笑顔で息子を迎えていたからだ。


真希子(当時)「守どうだい、今日のハヤシライスは。」

守(当時)「やっぱり美味いな、母ちゃんが作ったハヤシライス。」

真希子(当時)「そうかい、あんたに喜んでもらえて嬉しいよ。」


 そして守が風呂に入り自室で受験勉強をしている間に愛車で走りに出かけていたというのだ、当時「赤鬼」と呼ばれた赤江 渚と同じで警察に協力すると言う形、それが故に家の中には警察からの感謝状が沢山あった。

 母との楽しかった思い出をじっくりと思い出して涙を流していた守の口から出たのは「感謝」の言葉だった。


守「母ちゃん、ありがとう・・・。ゆっくり休んでくれ。」


 涙を拭った守が霊安室を出るとそこには松龍の面々がいた、どうやら宝田家の周りに規制線が張られていた事を美麗から聞かされた龍太郎が慎吾に連絡して事態を知ったという。


王麗「守君、大丈夫?」

守「女将さんごめん、少し1人にしてくれないか・・・?」

美麗「守く・・・。」


 化粧室へと向かおうとする守に言葉をかけようとする美麗を、龍太郎が首を横に振りながら肩に手をやって止めた。


美麗「パパ・・・。」

龍太郎「やめておけ、今は守が思った通りにさせてやろう、きっと真帆ちゃんが声をかけてもろくに話せない状態のはずだ。」


 王麗が目の前を通った看護師に事情を説明すると、3人は霊安室に案内された。霊安室の中で真希子は先程と全く変わらない表情で眠っていた。医師の話によると死因は前兆も痛みも無く起こった「大動脈解離」らしい。


王麗「真希子・・・、苦労した甲斐があったね・・・。痛みなく逝けたんだからよかったじゃないか、ただ寂しいよ・・・。馬鹿・・・!!」


 王麗は最期の言葉になるからと強めに「馬鹿」と放った、その強さから2人の仲の良さが伺えた。それもそうだ、王麗が日本に来たばかりの頃から店の常連として、そして1人の親友として接していたのだ。親友を失った王麗は守以上に泣き崩れていた。


王麗「ちょっと・・・、席を外すよ・・・。」


-52 親友(バディ)-


 王麗は薄暗い化粧室の一室で、若かりし頃の真希子と撮った写真を握りながら震えていた、スルサーティーを背に2人が屈託のない笑顔とピースサインをしていた仲睦まじい様子の思い出写真。


王麗「真希子、もうあんたのドライビングには乗れないんだね。」


 当時刑事だった王麗は渚と同様、警察に協力する側の走り屋の1人として峠を攻めていた真希子の助手席に乗り犯人の逮捕に尽力していた。


王麗(当時)「全く・・・、あんたも無茶をする女だね。見てる私がヒヤヒヤするのに平気な顔しちゃってさ。」

真希子(当時)「良いじゃないか、あたしゃこのスリルを楽しみたくてこの車を買ったんだ。それにあんたは乗ってるだけで仕事が出来て給料が出るんだ、一石二鳥ってやつさ。」


 この日も警察本部からの要請を受けた王麗は真希子が当時パートをしていたスーパーへと向かい、協力をお願いしていた。因みにこの事は2人以外に警察署長とこの店の店長しか知らない。


店長「真希子ちゃん、走るのは良いけど怪我だけはしないでおくれよ、王麗ちゃんはいいけど真希子ちゃんはウチの大事な従業員だからね。」

王麗(当時)「店長、それどういう意味だい。」

店長「刑事さんだからどんな事でも平気だろ?」

王麗(当時)「何言ってんのさ、刑事である前に私だって1人の女なんだからね。」

店長「悪かった悪かった、いつものサービスするから許してよ。」

王麗(当時)「そう来なくっちゃ。」


 店長の言葉を聞いて笑顔で指パッチンをした王麗は早速惣菜コーナーへと向かい春巻きと公魚のフリッターを数本ずつ取った。


店長「おいおい、いくら何でも取り過ぎだって。しかも新商品の公魚まで。」

王麗(当時)「良いだろう、真希子の分だよ。」

店長「もう、調子良いんだから・・・。」

王麗(当時)「えへへ、あたしらに勝とうだなんて100年早いんだよ。」

店長「仕方ないな・・・。」


 実は揚げ物はカムフラージュで「サービスをする」と言うのはこの店の地下にある2人のアジトを開放するという意味だった、2人は早速今夜の作戦を考え始めた。奥の壁に張られたスクリーンに今回のターゲットのデータが表示されていた。

 2人は店長から貰った揚げ物を頬張りながら話し合った。


真希子(当時)「またこの犬どもか、懲りない奴らだね。」


 通称「山犬」と呼ばれる暴走族がにらみを利かせた写真が映っていた、族の中には逮捕歴の多い人物も多く、毎日の様に警察官の手を焼かせていた。勿論、王麗もその1人。


王麗(当時)「そりゃそうさ、この前あんたにコテンパンにやられたからだよ。」

真希子(当時)「何さ、協力してるってのにそれじゃまるで悪者じゃないか。」


 声に少し怒りが混じる真希子。


王麗(当時)「悪かったよ、感謝してるって。」


 真希子の声に少したじろいだ王麗、ただこういった会話が交わされるのも無理は無い。過去に真希子は王麗が手錠をかけようとした相手を見様見真似でやった酔拳で失神させてしまった事があったのだ。

 それからというもの、真希子は王麗にとって決して敵に回してはいけない、そしてかけがえのない仲間という存在だったのだ。

 そんな事を思い出しながら霊安室に戻った王麗は涙を流しながら一言。


王麗「真希子、今の私がいるのは他でもないあんたのお陰だよ、ありがとうね。罵り合いも多かったけどあんたの事尊敬していたんだ、中国から日本に来たばかりだった私と一番に仲良くなってくれたのも常連だったあんただったね。あんたこそ大変な人生だったのに私の為にあそこまで・・・、本当に・・・、ありがとう・・・。」

美麗「ママ、真希子さんって昔から良い人だったんだね。」

王麗「ああ・・・、ママの最初で最後の、たった一人の親友さ・・・。」


 王麗の言葉に涙する美麗、すると守が霊安室に戻って来た。


守「母ちゃんも同じ事言ってたよ、女将さんは最高の親友だったって。」


-53 遺書と叱責-


 守の言葉に再び涙する王麗、故人も同様に思ってくれていた事が本当に嬉しかった様だ。


王麗「最後の最後まで嬉しい事を言ってくれるじゃないか、それなのに何で・・・。神様も意地悪なもんだね。」


 警視の言葉がより一層涙を誘ったらしく、守は立ち直れそうになかった。

 そんな中、連絡を受けた真帆が病院に駆けつけて勢いよく守を抱きしめた。


真帆「守・・・、真帆に出来る事が有ったら何でも言ってね。真帆は守の味方だからね。」

王麗「真帆ちゃんだけじゃないさ、ここにいる全員が守君の味方だよ。」

守「ありがとう・・・、俺は1人じゃなかったんだな・・・。」


 守が廊下の椅子に腰かけて何とか気持ちを落ち着かせようとしていると、事件の捜査を抜け出して来た美恵と文香が急ぎ足で駆けつけた。


美恵「守君、大変よ!!」

文香「勝手にやって申し訳ないけど遺品を整理してたらこれが出て来たの!!」


 文香が懐から出したのは真希子からの遺書だった、守は静かに中身を確認した。どうやら弁護士の確認の下で本人が手書きで作成した物らしく、書面の右下には押印までされていた。


王麗「良かったら聞かせてくれる?何て・・・、書かれていたの?」


 守は体を小刻みに震わせながら母の遺書を女将に渡した。


王麗「どれどれ・・・。」


 遺書には真希子の持つ貝塚財閥の株券や土地、そして自らが管理していた家や財産全てを守に譲ると言う内容が書かれていた。


守「こんなの貰っても母ちゃんが戻ってくる訳じゃ無いだろう、結愛にも聞いたけどあっちの世界に母ちゃんがいたらしいんだ。好美と同じさ、もうここにはいないんだ・・・。」

美麗「守君・・・。」


 美麗は両手を強く握って守を叱った。


美麗「何よ、いつまでもウジウジしてさ!!好美や真希子さんがあんたにずっと泣いて欲しいって言った訳?!」


 確かにそうだ、2人は守に笑っていて欲しいとずっと尽力していたはずだ。特に真希子は母親として人生の大半を守との幸せな生活の為に捧げていた。その証拠に遺書でも自らの全てを守に譲ると書いてあったのだ、周りからすれば守は相当な幸せ者だ。

 遺書には「宝田 守」と書かれていた通帳と印鑑が入っていた、どうやらこの様な事態がいつ起きても良い様に真希子が密かに貯金していたらしい。


守「そうだな・・・、取り敢えずこの金で母ちゃんの葬式をしてやらないとな。」


 息子の発言を予想していたのか、故人は遺書にこうも書いてあった。


真希子(遺書)「尚、くれぐれも私の葬式は少人数で密かに行う事。私が貝塚財閥の筆頭株主だからと言ってマスコミに流さない事。」


 遺書の最下部に書かれたこの記述にクスリと笑う王麗、遺書でも相変わらずの親友に笑わされていた。


王麗「真希子ったら、貝塚学園の事件で義弘を泳がせてた時もそうだったけど面白い事をしてくれる子だよ。渚と暴走族を追っかけまわしてた時も一手先を読んでいたもんね、最後まで突っ込む渚と登山口付近で退いてた真希子、2台で犯人を挟み撃ちにしてたっけね。その場で私達が手錠をかけてた事もあったもん、父ちゃんも覚えてるでしょ。」


 病院の廊下で1人焦りの表情を見せる龍太郎。


龍太郎「ああ・・・、勿論覚えているが・・・。母ちゃん、今ので俺らの事がバレたぞ。」

王麗「へ?」


 王麗が振り向くと刑事2人がずっと敬礼していた。


美恵「お2人が伝説の警視総監夫妻とは知らず、数々のご無礼、申し訳ありません!!」


-54 母が改めて実感させたかけがえのない存在-


 珍しく天然をかましてしまった部下に呆れた様子の警視総監は頭を抱えながらも落ち着きを保っていた、一緒にいたメンバー以外には人気の無い廊下で大きくため息をついて2人の刑事の方向を見た。


龍太郎「美恵ちゃん、そして文香ちゃん。2点ほど約束して欲しい事が有るんだ。」

文香「はっ、警視総監、何なりと仰ってください。」

美恵「これまでの数々のご無礼を反省致しております。」


 改まった様に緊張した様子で松戸夫婦に向かって敬礼する刑事達。


龍太郎「まぁまぁ、そう改まるな。簡単な事さ。①俺達が警視総監と警視だって知っている上で今まで通り付き合う事、俺達の事を知っているのは君たちの周辺では「めっちゃん」こと姪家警察署長位だからな。②俺達はこれまで通り中華料理屋の店主と女将としてひっそりとしていたいからくれぐれも俺達の事は秘密にしておく事、いいね?」

文香「分かっ・・・、た、龍さん。」

美恵「わ・・・、私も・・・。」


 2人の言葉を聞いて安心した様子の龍太郎は一息ついて王麗に相談を持ち掛けた。


龍太郎「なぁ、この2人の活躍は母ちゃんも知っているだろう、そろそろあの事を伝えても良いんじゃないのかと思うんだけどどう思う?」

王麗「あたしゃ構わないけどめっちゃんはどう言ってるんだい?」

龍太郎「別に構わないって言ってるよ、一応俺は警視総監だからな。」


 夫婦の会話に首を傾げる刑事達に真実(というより吉報)を知らせる事にした龍太郎。


龍太郎「倉下刑事、そして吉馬刑事。」

2人「は・・・、はい!!」


 美恵と文香は珍しい呼び方で呼ばれたのでつい改まってしまった。


龍太郎「我々の独自捜査への協力や周囲の方々への無数の心遣い、誠に感謝しています。よって2人を警視総監である私の権限で警部へと昇格させて頂きます、おめでとう、そしていつもありがとう!!」


 刑事達改め警部達2人にとって全く記憶に無い事だがまぁ良いかと昇格を受け入れる事にした。

 さて、すっかりほったらかしになってしまった故人の葬儀なのだが遺書に書かれてあった通り身近な人間のみで密かに行われた。喪主となった守が葬儀後の参加した全員に火葬場で弁当を配っていると真帆が彼氏を手伝い始めた。


真帆「真帆、守の為なら何でもするって言ったじゃん。」

守「悪いな、参列してくれた上にこんな事まで。」

真帆「大好きな守の為と思えば喜んでやるに決まってるもん。」


 幼少の頃から自らの事を好きだと言ってくれた真帆に心から感謝する守、恋人の存在に改めて感謝するばかりであった。


真帆「今の守には真帆が付いてるからね、決して寂しい思いはさせないからね!!」


 参列者全員に弁当を配り終えた瞬間、真帆は守を火葬場の裏へと連れて行き、恋人の喪服を掴んで泣き始めた。


真帆「守は・・・、守は真帆が守るもん!!守はずっと真帆の物だもん!!真帆がいるから悲しまないで、ずっと笑ってて!!」

守「真・・・、帆・・・。くぅっ・・・。」


 火葬が進んでいくにつれ、込み上げて来たたった1人の肉親を失ったが故の悲しみ、ずっと自分のそばにいてくれると言う目の前の恋人への感謝の気持ちで涙が止まらない守。


守「母ちゃん・・・、真帆・・・。」


 真帆は留まる事と乾く事を知らない涙を延々と流す守を抱きしめて一言。


真帆「守・・・、もう何も言わなくて良いから!!」


 そう言うと守に無理矢理唇を押し付けた真帆、2人は舌を絡め合わせて数十秒程濃密な口づけをずっと交わしていた。

 守と真帆は互いにとってかけがえのない存在となっていた。


-55 完璧にならなくても良い、今日は甘えなさい-


 自らの為に何でもする、守ると誓った恋人を抱きしめながら守は改めて涙を流した。先程の真帆の言葉が胸に刺さったからだ。

 自分の名に恥じぬような行動を心がけていこう、一生をかけて恋人を守るのは自分だろと言い聞かせていたのにも関わらず、今の自分はその通りになれているだろうかと心の中で自問自答していた。


真帆「どうして泣くの?笑ってよ、笑顔でお母さんを送るんじゃなかったの?」

守「違うんだ、俺自身の事が情けなくて。大切にするって決めた、守るって決めた真帆に守られる側になるなんて情けなくてよ・・・。」

真帆「お母さんが亡くなったのに平気になれる人がいる訳がないじゃん、今は真帆に甘えてくれて良いんだよ?」

守「くっ・・・、母ちゃん・・・。」


 恋人の言葉に救われた気持ちになった守はより一層速く、小刻みに震えだした。その様子を悪いと思いながら建物の陰から見持っていた龍太郎が煙草を燻らせた後、深く息を吐いて声をかけた。


龍太郎「真帆ちゃん、おじさんに任せてはくれないか?これは男同士でしか理解できない話かもしれないから少しだけ席を外して貰っても構わないかな?」

真帆「龍さん・・・、守元気になるよね。」

龍太郎「俺を誰だと思ってんだ、ここら地元にいる若者皆のお父さんだぞ。」

真帆「と言っても守や好美さんが通ってた大学は県境跨いで向こう側だったけどね。」

龍太郎「チャリや歩きで行ける距離だ、そんなの関係ねぇさ。だからあの大学に通っている学生も俺ん所にランチしに来るんだよ、好美ちゃんの家も松龍の真上だったからな。気軽に通えるならもうご近所、いや地元だよ。真帆ちゃんもそうは思わないかい?」

真帆「さすが龍さん、頭が上がんないや。じゃあ私の大切な恋人をよろしくお願いします。」


 真帆はそう言うと王麗達がいる控室の方向へと歩いて行った、真帆の姿が見えなくなったタイミングで龍太郎は再び煙草を燻らせ始めた。


龍太郎「急な事で大変だったな、大丈夫か?」

守「俺は大丈夫、今まで母ちゃんがしてきた思いに比べりゃちっぽけなもんさ。」

龍太郎「でもよ、店に来る度に真希子さん言ってたぜ。お前に母親らしい事を何も出来ていなくて悔しいって、いくら自分が忙しいからってお前の事を蔑ろにし過ぎたんじゃないかって悔やんでたよ。」

守「そんな事無いよ、あんなに明るくて、何でも完璧な母ちゃんなんてきっといないよ。」

龍太郎「なぁ守・・・、俺にも分からん事が有るんだ、「完璧」って何だろうな。何でも完璧な人間っていると思うか?俺もそうだが得意不得意があって、何処か抜けてて。でもそこがその人間らしさを引き立ているような気がするんだ、お前も「完璧な恋人」になろうとしなくて良いんだぞ、特に今日は真帆ちゃんに甘えていろ。正直に言うが、必ずお前が守る側にいなければならないってのはお前の思い違いだ。分かったらほら、あっちを見てみろ。」


 守が龍太郎と同じ方向を向くと目線の先には恋人を涙ながらに待つ真帆の姿があった。


真帆「龍さん、守元気になった?」


 今にも泣きだしそうな真帆の表情を見て守の背中を押す龍太郎、片手には店の袋が。


龍太郎「ほら、行ってこい。それとお前もこの弁当食っとけ、元気に送るんだろ。それと、今日は思いっきり甘えるんだぞ。ほら真帆ちゃん、後は頼んだよ。」


 改めて目の前にいる恋人の顔をじっくりと見る守、ずっと泣いてばっかりで待たせてばっかりだった真帆を思いっきり抱きしめた。


守「真帆、今日は甘えても良いかな。まだ涙がこぼれそうなんだ。」

真帆「今更?良いから今日はこの真帆にたっぷり甘えなさい。」

守「ありがとう・・・、母ちゃん・・・。」


 守は真帆に抱かれながら火葬が終わる20分前まで泣き続けた、そして泣きつかれて空腹になったので龍太郎に手渡された弁当を食べる事に。


守「美味い・・・、美味いよ・・・、龍さん。」


 守に生前の真希子と食事をしていみたいな気分を味わって貰える様に龍太郎と王麗が2人の好物を詰め込んだ特製の弁当、どうやら守1人の為だけに用意したらしい。


守「これ・・・、母ちゃんが好きだった唐揚げと俺の好物のチキン・・・、カツ・・・。」

王麗「下には2人共が好きな炒飯もたっぷり入れてあるからね。」

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